米NVIDIAのAI半導体ビジネス、次は医療を深掘り – 日本経済新聞
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC168AO0W4A110C2000000/
保存日: 2024/01/22 8:04
米エヌビディアはAI半導体の医療分野での応用開発に力を入れている(写真は同社のジェンスン・ファン最高経営責任者=CEO)
米半導体大手、エヌビディアの強さの秘密は何か。需要の先を読む先見性に加え、関連ソフトウエアを自ら豊富にそろえ、半導体の新たな利用を創出する戦略が挙げられる。生成AI(人工知能)向け半導体で波に乗る同社が今力を入れるのが、医療市場だ。創薬に使えるクラウドツールなど自社開発したシステムを武器に、医療分野で「AI×半導体」の新市場を切り開く取り組みをまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。
エヌビディアは既にAI向け半導体を支配し、今度は医療・ヘルスケアのAI革命を担う中軸として、この分野を開拓しようとしている。
医療・ヘルスケアは同社にとって全く新たな分野なわけではない。例えば、2017年には医療用の映像解析技術(コンピュータービジョン)スタートアップ、ゼブラ・メディカル・ビジョン(Zebra Medical Vision、イスラエル)に出資した。
もっとも、ここ2〜3年は高度なコンピューティングへの取り組みを足掛かりに医療IT(情報技術)の次世代AIアプリケーションの土台を築いており、医療・ヘルスケアへの投資と提携は明確な戦略になっている。例えば、ブロードバンドインターネットへの接続が制限されているか存在しない医療環境でもAIを導入しやすくするエッジ(末端)コンピューティングなどの取り組みを強化している。
今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、エヌビディアの20年以降の買収、出資、提携から3つの最重要戦略をまとめた。この3つの分野でのエヌビディアとのビジネス関係に基づき、各社を分類した。
・ライフサイエンスクラウド
・医療機器AI
・スマート病院AI
エヌビディアの医療・ヘルスケア事業の戦略図 (2020年以降に同社が出資、提携した企業を戦略別に分類。なお、同社の活動すべてを網羅してはいない)
ポイント
1.エヌビディアはライフサイエンス向けに広範なAIクラウドの構築に努めている。
2.エッジコンピューティングを活用し、医療機器のイノベーション(技術革新)を推進している。
3.次世代のスマート病院・診療所の実現を目指している。
1.ライフサイエンス向けに広範なクラウドの構築に努めている
エヌビディアは医薬品の研究開発用のAIモデルの構築、カスタマイズ、学習を支援するため、「クララ(Clara)」や「バイオネモ(BioNeMo)」などクラウドベースのツールを開発している。
例えば、バイオネモにはカスタマイズ可能な創薬用AIモデルが搭載されており、医療・ヘルスケア企業は自社データを使ってこれを微調整できる。米製薬大手アムジェンはこのプラットフォームの活用により、独自モデルの学習時間を最大75%迅速化できるようになった。香港の創薬スタートアップ、インシリコ・メディシン(Insilico Medicine)は従来のわずか3分の1の時間で前臨床試験(治験)の新薬候補を見つけた。
エヌビディアは米ラッドイメージネット(RadImageNet)と共同で米セグメッド(Segmed)と提携し、コンピューター断層撮影装置(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)、超音波などの画像用の合成データを生成している。これはAIモデルの学習と改良に使われる。
一方、スタートアップにテックインフラと専門知識を提供するプログラム「インセプション(Inception)」を通じ、ライフサイエンスの新興企業のエコシステム(生態系)で活発に活動している。AIを活用して細胞を解析するサイボ(CYBO、日本)や、AIとスーパーコンピューター(スパコン)を活用した創薬ツールを手がける米アトムワイズ(Atomwise)などプログラム参加企業と提携している。
ライフサイエンスツールのユーザー基盤を築くため、他の手段も探っている。例えば、米オラクルと提携し、オラクルのライフサイエンス分野の既存顧客にAIツールを提供している。三井物産とも組み、ライフサイエンスに特化したスパコンを開発している。
2.エッジコンピューティングを活用し、医療機器のイノベーションを推進
エッジコンピューティングのおかげで、医療機器の設計者はポイント・オブ・ケア(患者の近く)でより高度な機能を提供できるようになりつつある。この技術によりAIアルゴリズムはクラウドではなく、末端デバイス内でローカルにデータを処理できるようになり、分析リポートの作成や画像へのAI処理の適用などのタスク(作業)完了にかかる時間を大幅に短縮できる。
エヌビディアは分野特化型のAIコンピューティング基盤「ホロスキャン(Holoscan)」を開発し、医療機器メーカーがエッジでAIを構築、活用できるインフラを提供している。米メドトロニックなどの業界リーダーと提携し、メドトロニックのスマート内視鏡検査モジュールなどの医療機器にホロスキャンを組み込んでいる。このスマート内視鏡はAIエッジ処理により、医師が大腸内視鏡検査中にリアルタイムで異常が疑われる場所を検出できるよう支援する。
一方、AIを搭載した手術ツールを手がける米アクティブ・サージカル(Activ Surgical)に出資し、インセプションを通じて外科手術ロボットの革新的企業、ムーン・サージカル(Moon Surgical、フランス・米国)と提携している。
3.次世代のスマート病院・診療所の実現を目指している
エヌビディアは提携パートナーが患者ケアを改善し、患者への関与を強め、医療費の削減を支援する多くの医療ツールを提供している。例えば、端末とクラウドを高度に連携するエヌビディアのハイブリッドクラウド「フリートコマンド(Fleet Command)」により、医療機関は医療システム全体のサーバーやエッジ機器でAIを管理できる。
さらに「クララ・ガーディアン(Clara Guardian)」システムでは、スマートセンサーをスマート動画解析や対話型AIなどのAI機能と組み合わせている。スマートセンサーは病院・診療所の臨床ケアや業務効率の改善で重要な役割を果たしており、患者をモニタリングし、機器を追跡し、手順が守られているのか確認するのに役立っている。
エヌビディアは投資家としても関与している。20年にはバイタル(生体情報)のモニタリング、患者受け入れ能力の管理、患者の位置特定ツールを組み合わせた病院向けモニタリングネットワークを手がける米アーティサイト(Artisight)のシリーズAラウンドを主導した。
エヌビディアのインセプションは病院の運営や診療所向けシステムを手がける多くのスタートアップも支援している。患者モニタリングの自動化、患者の活動や位置、体温、支援の必要性を追跡する病院向けスマートプラットフォームの米ウーバ(Ouva)もその一つだ。一方、インセプションの参加企業である米ハートフロー(HeartFlow)は、動脈の形や血流の量、閉塞状況を可視化する非侵襲の心臓検査を手がける。
エヌビディアの医療・ヘルスケア戦略での主な提携
ライフサイエンスクラウド
アムジェン(米国)
提携
2023年3月
チャーム・セラピューティクス(Charm Therapeutics、英国)
出資
2023年5月
イボザイン(Evozyne、米国)
提携
2023年9月
フライホイール(Flywheel、米国)
出資
2023年6月
ジェネレート・バイオメディシンズ(Generate Biomedicines、米国)
出資
2023年9月
ジェネシス・セラピューティクス(Genesis Therapeutics、米国)
出資
2023年8月
インシリコ・メディシン(Insilico Medicine、香港)
提携
2023年6月
インセプティブ(Inceptive、米国)
出資
2023年9月
ディープ・ジェノミクス(Deep Genomics、カナダ)
出資
2022年1月
サイボ(CYBO、日本)
提携
2021年10月
アトムワイズ(Atomwise、米国)
提携
2020年8月
オラクル(米国)
提携
2022年10月
アイアンビック・セラピューティクス(IambicTherapeutics、米国)
出資
2023年10月
スーパールミナル・メディシンズ(Superluminal Medicines、米国)
出資
2023年8月
リカージョン・ファーマシューティカルズ(米国)
出資
2023年7月
三井物産(日本)
提携
2023年3月
セグメッド(Segmed、米国)
提携
2023年4月
生命科学クラウド
ラッドイメージネット(RadImageNet、米国)
提携
2023年4月
医療機器AI
メドトロニック(米国)
提携
2023年3月
アクティブ・サージカル(Activ Surgical、米国)
出資
2021年7月
ムーン・サージカル(Moon Surgical、フランス・米国)
出資
2023年5月
アイヤー・ラボ(Ayar Labs、米国)
出資
2022年4月
スマート病院AI
ウーバ(Ouva、米国)
提携
2020年9月
晋弘科技(Medimaging Integrated Solution、台湾)
提携
2020年5月
ハートフロー(HeartFlow、米国)
提携
2021年10月
コアAI(Kore.ai、米国)
出資
2021年11月
エイチツーオーAI(H2O.ai、米国)
出資
2021年11月
アーティサイト(Artisight、米国)
出資
2020年12月
(注)年月にはニュースで報道された時期なども含む