BYD、実質200万円台のEVを投入 真の狙いは東南アジア – 日本経済新聞
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC096K30Z01C23A1000000/
保存日: 2023/11/13 8:04

中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)が日本でコンパクトカータイプのEVの販売を始めた。今年1月に受注を始めたSUVに続くEV第2弾で、日産自動車の「リーフ」「サクラ」に対して価格優位性があるとの見方がある。日本参入後の販売はまだ振るわないが、安全性や信頼性に対する評価が厳しい日本市場で粘り強くブランドを磨くことで、日本車の牙城であり戦略市場と位置付ける東南アジア攻略の足がかりとしたい狙いが透ける。

BYDは日本販売第2弾となるEVの詳細を東京都内で発表した(9月20日)

「コンパクトEVの決定版だ。日本でボリュームセラーになってほしい」。BYD日本法人で乗用車事業を手掛けるBYDオートジャパン(横浜市)の東福寺厚樹社長は、9月20日の新車発表会でこう期待を寄せた。コンパクトEV「DOLPHIN(ドルフィン)」はBYDの売れ筋車種の一つ。1月に受注を始めたSUV(多目的スポーツ車)「ATTO3(アットスリー)」に次ぐ、日本向けEVの第2弾となる。
ドルフィンは都心に多い機械式駐車場に収まる小回りの利くサイズで、マンション居住者や地方の2台目需要を取り込む。注目されていた価格は、満充電で航続距離400キロのモデルが363万円(税込み)と発表した。国の補助金65万円を適用すれば、298万円となる。

「価格優位性でリーフを上回る」

国内では日産自動車のセダン型EV「リーフ」、軽自動車型EV「サクラ」が比較対象として挙げられる。リーフは満充電で322キロ・408万円から、サクラは同180キロ・254万円からとなる。大型電池を搭載して価格を抑えたBYDのドルフィンに「コストパフォーマンスでは軍配が上がる」(みずほ銀行ビジネスソリューション部の湯進・主任研究員)との見方がある。
BYDオートジャパンでマーケティング部長を務める遠藤友昭氏は「安全装備や航続距離の長さなどを備えながら、200万円台で購入できる」点が高い競争力になると強調する。これまで認知度向上に向けた宣伝活動はSNSを活用したイベントが中心だったが、今後はマスメディア向け広告にも拡大してテコ入れを図る。

コンパクトEV「ドルフィン」は小回りの利く車体サイズなど、生活の足として勝手の良さをアピールする

電池メーカーとして創業したBYDは、自社開発の電池や駆動装置、半導体をEVに搭載してきた。内製した部品を組み合わせ、EVに最適な次世代プラットホーム(車台)を開発することで、製造コストの抑制につなげている。
世界の自動車市場でBYDの躍進は著しい。2023年上期(1〜6月)には、ガソリン車も含めた新車販売台数で独メルセデス・ベンツや独BMWを抜き、初めてトップ10入りした。国策で新エネルギー車を後押しする中国での販売力を基盤に、22年ごろから海外への輸出攻勢を強めていることが背景だ。

25年末までに販売店100店体制に

日本市場にも鳴り物入りで参入したが、同社の認知度の低さや、EVの普及が他地域に比べて遅い点が壁となり、今のところ販売は振るわない。世界戦略車であるアットスリーはグローバルで50万台近く売れているものの、日本での販売実績は参入半年で約700台にとどまる。
これに対し、ドルフィンは24年3月末までの約6カ月で1100台の販売を目指す。販売目標を明らかにし、新型車を通じて日本販売に弾みをつけたい狙いがにじむ。目標を達成すれば、BYDの日本での初年度販売は2000台前後になりそうだ。
BYDは日本で実店舗を重視した販売戦略を進めている。ショールームを備えた販売店は現在11店で、25年末までに100店舗以上に増やす計画だ。オンライン販売を中心にEVを販売する米テスラや韓国・現代自動車と比べると、BYDが日本市場に投じる投資規模は大きい。
この理由について、みずほ銀行の湯氏は「アジア展開を加速させるため、日本でブランドを磨くことに意味がある」と分析する。安全性や信頼性に定評がある日本車の本拠地であり、消費者の目も厳しい日本市場で販売を伸ばすことができれば、世界で戦う上で格好のアピール材料になる。日本で足場を固めることが、戦略市場と位置付ける東南アジア攻略のカギとなるのだ。

タイではEV登録台数で首位に

すでにタイで成長の兆しが見られる。自動車専門メディア「オートライフ・タイランド」によると、1〜7月の車種別EV登録台数はBYDのアットスリーが首位で、1万2000台超だった。タイは日系自動車メーカーが新車販売台数のシェア8割程度を占める日本の牙城だ。現在もエンジン車が主流ではあるが、EV市場は急速に拡大しており、BYDがそのけん引役となっている。
また、24年に稼働予定のBYDのタイ工場は東南アジア全域にEVを供給する拠点となる見通しだ。BYDで日本や東南アジアなど、中国を除くアジア太平洋地域を統括する劉学亮氏は「タイでの伸びは勢いがある。現地生産を確立し、地元に深く根付く企業になりたい」と意気込む。
米アリックスパートナーズは、中国の自動車メーカーが30年に世界シェア3割(22年は16%)を握ると予測している。日本を含む北東アジアでの中国車のシェアは30年時点でも1%にとどまるが、東南アジアは19%まで拡大する。
BYDに代表される中国車が、日系自動車メーカーにとって真の脅威となるのは日本市場ではなく、これまで牙城としてきた東南アジアなどの地域だ。日本での販売動向だけを見ているとBYDの戦略を見誤りかねない。BYDの世界戦略全体を見据えた日本勢の対抗策が問われている。
(日経ビジネス 薬文江)
[日経ビジネス電子版 2023年9月29日の記事を再構成]
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