新NISA完全理解のツボ よくある誤解や疑問を解消 – 日本経済新聞
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB198YI0Z10C23A9000000/
保存日: 2023/09/22 7:55

2024年1月から、新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まる。非課税保有期間が無期限になるなど、現行制度より使い勝手がシンプルになる面もあるが、それでも制度の詳細は複雑だ。細かい疑問が湧いてくるのも無理はない。スタートする前に、分からない点は解消しておこう。
【連載「新NISA活用完全ガイド」の記事一覧】
• (1)新NISAで「家族で億万長者に」 すご腕投資家座談会
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株式や投資信託などを売却して得た利益や、受け取った配当が非課税となるNISA制度。通常は約20%の税金がかかるので、投資で利益が出た場合にお得な制度であることには違いない。しかし、現行制度には特有の使いづらさがある。
だが朗報だ。24年1月の改正後の「新NISA」は、そうした不便さが大きく改善される。特に注目度が高いのが、非課税保有期間の「無期限化」と口座開設期間の「恒久化」だ。今までは、例えば個別株投資ができる一般NISAであれば、投資した商品を非課税で置いておける期間は5年間だった。これが無期限になる。さらに期間限定の制度だったのが恒久化され、いつでも始められるようになる。
つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能でNISAのポートフォリオの組み合わせが広がった点や、生涯投資枠が1800万円と大幅に拡大された点も大きな注目ポイントだ。

NISAは理解が難しい

利益が出た場合に非課税となる点がお得なNISAだが、注意点もある。「投資で損失が出た場合には何のメリットもない」と断言するのは、ファイナンシャルプランナー(FP)の竹川美奈子さん。NISA口座では利益だけでなく損失もなかったものと見なされる。そのため、課税口座の利益と相殺して税金を計算する「損益通算」が不可能になるというデメリットがある。

他にも、個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)などのように保有商品を売却し、その売却金でそのまま別の商品を購入する「スイッチング(預け替え)」ができない点も要注意だ。NISAで一度売却した枠は、年内には復活しない。投資先を替えるために商品を買い直したくても、年間投資上限の枠が余っていなければ年内の投資はお預けとなる。
このように細かい制度上の決まりがあり、把握していなければ思わぬ落とし穴にはまりかねない。「つみたて投資枠と成長投資枠の2つの枠が存在するなど、改正後も制度の複雑さは残る」と竹川さん。FPの菱田雅生さんも「投資枠の拡大は個人投資家にとって大きなメリットだが、それでも年間投資額などの上限があることで使いにくさが残っている」と話す。

誤解から学ぶ新NISA

そこで、代表的な新NISAの誤解を整理した。
誤解① 「現行NISAを利用している人も、新NISAの口座開設の手続きは必要」
誤解② 「現行NISAで利用していた分は、
     新NISAの生涯投資枠の1800万円に含まれる」
誤解③ 「現行NISAで投資した商品を新NISAの口座にロールオーバーできる」
現行NISAを利用している人にありがちな、上記の3つの誤解から見ていこう。現行NISAを利用している人は、新NISAの口座開設の手続きは不要だ。例えば現行のつみたてNISAの口座を証券会社Xで利用している場合。Xで、2024年1月につみたて投資枠と成長投資枠の両方の口座が自動で開かれる。
ちなみに、大手ネット証券(SBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券)では「現行制度でつみたてNISAを利用している場合、積立設定額と投資商品は引き継がれる」予定。なお、投資先を変更したり投資額を増やしたりしたい場合は積み立て設定を変える必要がある。手続きがいつから可能かは、現行NISAの口座を開設している金融機関の情報を引き続きウオッチする必要がある。
次に、現行NISAで利用していた投資枠が新NISAの生涯投資枠に含まれることはない。「現行制度を利用していたから新NISAの投資枠が減って損をする」ということはないのだ。24年からの新NISAで、非課税枠の利用が一からカウントされる。
一方で、現行NISAで投資している商品を新NISAの口座にロールオーバー(移管)することはできない。新NISAでは非課税期間が無期限となるため、現行制度のように「非課税期間終了時に新たな非課税枠に移し替えたい」という需要がそもそも生じない。そのため、「ロールオーバー」という仕組み自体がなくなる。現行NISAで保有している商品の非課税期間を無期限にしたいなら、一度売却して現金化し、新NISAで「買い直す」ことになる。当然、その分だけ新NISAの生涯投資枠は消費されてしまうし、年間上限額の範囲でしか買い付けはできない。
例えば、一般NISAで19年に投資した個別株があったとする。5年間の非課税期間が終了するのは23年末だが、24年からは新NISAに制度が切り替わるためにロールオーバーする先がないことになる。20〜23年に現行NISAで新規投資した分も同様だ。「一般NISAで買った株を非課税期間中に売却し、新NISA口座で長く持ち続けるのも一つの選択肢だ。一方で、つみたてNISAは投資してから20年間と十分に長く非課税期間が取れるので、そのまま持ち続けてもいいのではないか」と菱田さんはアドバイスする。

つみたて投資枠の使い方をチェック

誤解④ 「つみたて投資枠と成長投資枠の併用はできない」
誤解⑤ 「成長投資枠で積み立て投資はできない」
誤解⑥ 「生涯投資枠が1800万円で、うちの成長投資枠が1200万円までなら、
     つみたて投資枠の生涯の上限は600万円まで」
新NISAではつみたて投資枠と成長投資枠が存在し、これらの使い方についての誤解も多い。現行制度のつみたてNISAと一般NISAの位置付けとは異なるためだ。
現行のつみたてNISAと一般NISAは併用できないが、新NISAのつみたて投資枠と成長投資枠の併用は可能だ。つみたて投資枠の方が成長投資枠よりも、対象商品の基準が厳しい。つみたて投資枠の対象商品は全て成長投資枠の対象で、両方で同じ商品に同時に投資することもできる。
「成長投資枠」という名前から個別株投資しかできない印象を抱いた人もいるかもしれないが、成長投資枠で積み立て投資をすることも可能だ。
大手ネット証券(SBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券)の積み立て設定は「毎月同額」が基本で、新NISAでの積み立て設定の上限はつみたて投資枠が月10万円、成長投資枠が月20万円となる予定。合計で月30万円の積み立て設定にすれば、年360万円投資して、5年で生涯投資枠を使い切ることができる。

竹川さんは「『生涯投資枠が1800万円までで、そのうちの成長投資枠が1200万円までだから、つみたて投資枠の生涯の上限は600万円まで』と誤解している人は意外と多い」と話す。これも誤りで、生涯投資枠の1800万円をつみたて投資枠だけで利用することも可能だ。
「個別株投資にしか興味がないので、成長投資枠の1200万円を使い切ればいい」と考える人もいるかもしれない。しかし菱田さんは、「せっかく非課税で投資できる生涯投資枠が1800万円あるなら、残りの600万円はつみたて投資枠で使い切らないともったいない」とアドバイスする。

「投資枠復活」の仕組みはこうなっている

誤解⑦ 「商品を売却したら、生涯投資枠はすぐに復活する」
誤解⑧ 「復活する生涯投資枠は”時価”で計算される」
新NISAでは、売却した分だけ生涯投資枠が「復活」する――。現行NISAではなじみのない考え方であるため、混乱している人もいるかもしれない。
「生涯投資枠」とはあくまでも「同時に非課税枠に置いておける投資額の上限」であり、「一生涯で投資できる累計の額」ではない。そのため、新NISA口座で保有する商品を売却して枠を復活させれば、累計では1800万円超の投資元本を投入できる。
ただし、商品を売却しても投資枠が復活するのは翌年の1月だ。つまり、「1800万円の上限に達したので枠を空けたい」と考えてある年の1月に400万円分を売却したとしても、翌年1月まで新しい商品を購入できない。また翌年はつみたて投資枠なら120万円、成長投資枠なら240万円の年間の上限枠の範囲でしか使えず、残りの40万円の利用は翌々年に持ち越すことになる。
「資産形成を目的に作られた制度で短期売買できないように設計されていることに加え、リアルタイムで簿価管理をすることが難しいのでは」と竹川さんは推察する。

復活する生涯投資枠は簿価、つまり購入した時の金額で計算される。100万円で購入した商品が売却時には200万円に値上がりしていたからといって、復活する枠は100万円だ。
同じ商品を複数回に分けて購入していた場合、売却時の取得単価は平均で計算される。Y社株を1株1000円の時に100株、1株2000円の時に100株購入し、100株売却したとする。この場合、平均取得単価の1500円×100株で、15万円分の投資枠が翌年に復活する。

「現行NISAを利用していない人の口座開設は?」

現行NISAで口座を持っていない人について、新NISAを利用したい場合の口座開設のスケジュールはどうなっているのか。例えばある金融機関は「新NISAの申し込みは23年12月下旬から可能」としているが、それ以前の申し込みで「現行NISA口座を一度開き、新NISA口座が自動開設されるのを待つ」という形でもいい。その場合、必ずしも現行NISAの枠を使う必要はない。

このように「現行NISA口座を開いて新NISA口座を自動開設させる」か、「新NISA口座を新たに開く」かのいずれかの形になる。どちらになるかは申込時期や選ぶ金融機関によって異なりそうだ。竹川さんは「いずれにせよ、24年1月から新NISAの利用を開始したいのであれば、早めに着手しておきたい」と話す。
(大松佳代)
[日経マネー2023年11月号の記事を再構成]

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