NBA八村塁に広がる未来 「賭け」に勝っ…(写真=ゲッティ共同) – 日本経済新聞
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQODH2810S0Y3A520C2000000/
保存日: 2023/05/29 7:57
カンファレンス決勝のナゲッツ戦でも八村㊨は力を示した=NBAE・ゲッティ共同
「この3カ月はとてもクレージーでした。もちろん良い意味でのクレージー。(トレードは)自分にとって人生で一番素晴らしい出来事だった」
5月23日、ロサンゼルスにあるレーカーズの練習施設で今季最後の記者会見に臨んだ八村塁は朗らかな笑顔を浮かべて、そう述べた。メディア対応時の表情は硬いままのことも多い選手だが、そんな表情、言葉からは長い1シーズンを終えた解放感と、やり切ったという充実感がにじんだ。
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まるでジェットコースターにでも乗っているように、極めてアップ&ダウンが激しい1年だった。今季まで3年以上も所属してきたワシントン・ウィザーズから自らが希望する形で1月、NBAでも最大の名門チームであるレーカーズに移籍。その後、一度はスタメンに入るも役割を見失い、控えに戻って存在感が激減した時期もあった。
シカゴで行われた3月26日のブルズ戦では、NBA入り以降では初めての〝DNP(Did not playの略。故障などではなくチーム判断での不出場)〟を記録。チーム首脳陣からの信頼が薄れ、そのままフェードアウトしていっても不思議はなかったのだろう。ところが――。
「プレーオフでの塁はこれまで見てきたのと違う選手になった。ボールが来るのを待つのではなく、自ら追い求めるようになった」
ESPN.comのレーカーズ番記者、デイブ・マクメナミン氏が述べている通り、ポストシーズン突入以降の八村の活躍は素晴らしいものがあった。
カンファレンス準決勝のウォリアーズ戦でダンクを決めて喜ぶ八村。目覚ましい活躍を見せた=AP
メンフィス・グリズリーズと対戦した第1ラウンドの初戦でいきなり29得点を挙げて波に乗ると、カンファレンス決勝までの全16試合中8試合で2桁得点をマーク。レブロン・ジェームズ、アンソニー・デービスという2大スーパースターを支える優良なサポーティングキャストとして、平均12.2得点(FG成功率55.7%、3P成功率48.7%)という立派な成績を残した。
第1シードのデンバー・ナゲッツと対戦したカンファレンス決勝ではレーカーズは4連敗を喫し、ついに力尽きた。それでも後がなくなった第4戦、八村はプレーオフでは初めてスタメン起用されている。そんな事実こそが、八村が最後の最後で再び実力を認められる活躍をしたことを物語っているのだろう。
「ビッグステージで一段上のプレーができる選手というのはいるものだ」
マクメナミン記者のそんな言葉通り、八村はNBA入りして以降、最も重大なゲームでこれまでで最高のプレーをしてみせた。バスケットボール選手なら誰もが憧れる舞台で、しかも優勝争いが義務付けられたレーカーズの一員として、レブロンのような偉大な選手と一緒にプレーできることを示してみせた。
ここで多くのものを証明した後で、制限付きフリーエージェント(他チームとの合意と同条件の契約を現所属チームが提示すれば優先的に残留させられるという条項がついたFA)になる今オフの去就が楽しみである。
ポストシーズンの活躍でスーパースターのレブロン・ジェームズ㊨からも信頼を得た=USA TODAY
「もちろん(レーカーズに)残りたいですね。3カ月くらいいて、すごくいい経験になりましたし、刺激にもなりました。(刺激を受けたのは)レブロンをはじめ、AD(デービス)、あとはコーチ陣、トレーナーも。チームと僕のエージェント(の話し合い次第)になるんじゃないかなと思います」
実際に八村はチームの看板であるレブロンからも信頼を得ているだけに、本当にこの名門チームに残留することも十分に考えられる。その一方で、プレーオフの働きで評価を上げたことで、他のチームから1000万〜1500万ドル(約14億〜21億円)以上の年俸で引き抜かれても不思議はない。
レーカーズへの移籍は「言ってみれば賭けだった」とも振り返った八村。そのギャンブルに勝ったのだろう。新天地で明確な答えを出し、もうすぐ金銭的にも大きく報われようとしている。まだ25歳の若者の行く手には、さらに楽しみで、もっと興味深い未来が広がっているのかもしれない。