バフェットの師匠の見識 配当の多さで銘柄を選ばない – 日本経済新聞
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD06B2Q0W3A400C2000000/
保存日: 2023/04/10 7:52

兼業投資家で著名投資ブロガーのみきまるさんに、株式投資の必勝テクニックを学ぶ連載。みきまるさんは、株式界のレジェンドたちの投資法を紹介する本を数百冊読破し、独自の手法で数億円の資産を築いたスゴ腕投資家です。彼らの投資法をひもといていくと、現在の日本株運用に通じるノウハウも多いはずです。
編集部 株式界のレジェンドから投資の必勝テクニックを学ぶ本連載。前回は「グロース(成長)株投資の父」といわれるフィリップ・フィッシャーが登場しました。彼が著名投資家ウォーレン・バフェットの「真の師匠」だったという話は印象的でした。
みきまるさんには、フィッシャーが著書で示した「銘柄選びの主なポイント」を満たす日本の有望株を挙げていただきました。売り上げと利益率の伸びが期待できるクオリティー(優良)株が並びましたね。

みきまる はい。前回取り上げていない銘柄では、筆記具最大手のパイロットコーポレーションも有望です。同社は売り上げの大部分が海外で、利益率も高い典型的なクオリティー株。ペン先の鋼球やインクなど、マニアックな技術に命を懸けるのは日本人だけという話を聞いたことがありますが、世界的に高品質な文房具を安価で売っているのは日本メーカー以外にありません。ニッチ産業の文房具業界で、同社は突出した技術を持っているんです。株主優待では筆記具をもらえますよ。

投資で避けるべきポイント

編集部 フィッシャーの投資法で、他に現在の日本株投資に応用できる必勝テクニックはありますか。
みきまる フィッシャーは、マーケットタイミングを計る投資手法を否定しています。彼は4冊目の著書『投資哲学を作り上げる』の中で、「短期的な株価の動きを60%以上の確率で正しく予想するのは困難」と言っています。彼のような天才投資家でも、60%以上の確率で困難とはっきり言っているんですね。
よく「今年は景気が○○になるので△△を買うとよい」などと予想する専門家がいますが、彼らの予想は果たして何%正しいのでしょうか。自分が割安だと思ったタイミングで株を購入することが重要だと改めて気付かされます。
編集部 なるほど。
みきまる また配当の多さや配当性向の高さだけで銘柄を選ぶのは危険でしょう。フィッシャーは1冊目の著書『株式投資で普通でない利益を得る』の中で、「高配当株への投資は株価の上昇率が低い」と言い切っています。なぜなら高配当株は分かりやす過ぎるからです。
例えばPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が低い銘柄はバリュー(割安)株だと分かるけれど、それだけで欲しい人は普通はいない。指標的に安くても直接的なメリットはないからです。だけど高配当と分かれば多くの人が反応するでしょう。
株式市場で生き残るには本能を制御することが大切です。配当利回りが高いから買うというのはあまりにも本能に忠実過ぎます。中には伸びしろのない銘柄も多く、減配した時に致命的なダメージを被るでしょう。米国の元トレーダーで不確実性の研究者であるナシーム・ニコラス・タレブも、何らかの危機があった時に砕ける投資法は良くないとしています。そこにしか頼りがない、弱いやり方だからです。
私はこれまで多くの投資家を見てきましたが、配当株投資家は総じて運用成績が良くありません。FIRE(経済的自立と早期リタイア)を達成して高配当株投資家になった人はほぼそうです。他人にも自分と同じ価値が見えているならそこに利益はありません。もちろん配当以外の条件が同じであれば、高配当株を選びますが。
編集部 極端に配当利回りが高い株は、リスクも高いんですね。高配当を理由に過剰な評価をしないように気を付けたいと思います。

主力株は20以上に分散しない

みきまる 銘柄を分散し過ぎないというのもフィッシャーの金言です。これが後にバフェットの投資機軸の一つになったことからも、フィッシャーがいかにバフェットに影響を与えた偉大な投資家だったのかが読み取れるでしょう。
フィッシャーは『投資哲学を作り上げる』の中で、「個人投資家の場合、異なる銘柄に20以上分散しているならば、資産運用能力がない証拠である。10〜12が通常は良い数だ」としています。私も主力株は常に8〜12銘柄にとどめるようにしています。
また、多数派のまねをしないことも重要です。残酷な言い方をすれば、株式投資とは大多数の人からお金を取り上げて、5%くらいの人に配分する仕組みです。95%は残念ながら「凡人」で、お金を失う。人間が根源的に持つ「行動バイアス」の弱点から逃れることができないからです。一方、これまで取材してきた億万投資家は、世間の常識から離れた、変わった人が多くなかったですか?
編集部 うーん、他人と異なる行動を取らなければ勝てない株式投資の世界で、多数派の意見に惑わされない強さを持つ人が多かったです。でも実際、いいなと思う割安な株を見つけても想定以上に値上がりしないこともあるので、見極めが難しいですね。
みきまる 指標面で割安な銘柄が一向に値上がりしないバリュートラップ(割安のわな)ですね。まだ株価が上がっていないことを重視するあまり、無意識のうちに全ての株が同じくらい上昇するから当然この株も上がるだろうと思い込むのは誤りです。これもフィッシャーの指摘なんですよ。見た目の指標にとらわれて、将来が展望しにくい低クオリティー株を持たないようにすることが求められます。
フィッシャーは、最初に調べる銘柄の5分の1は業界の友人の話から、5分の4は知り合いの優秀な投資家の話からヒントを得ていたそうです。
編集部 みきまるさんが前に話されていた「パクリュー投資」ですね。
みきまる そうそう。「パクリ」と「バリュー」をもじった造語です。私も株式界のレジェンドが買っている銘柄は徹底的に調べ尽くしていますよ。逆に誰も見つけていなさそうな中小型の優良株を見つけて主力株としてブログで紹介すると、半年後にはまるで自分が見つけたかのように保有している人が多くいます。ちなみにフィッシャーとほぼ同じことを、「モメンタム投資家の始祖」であるリチャード・D・ワイコフも言っているんですよ。
[日経マネー2023年5月号の記事を再編成]
【「株式投資のレジェンドに学ぶ必勝テク」連載一覧】
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• ・大負けがない「グレアム流」株選び PBRとPERの掛け算
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