2023年の株式相場を展望 スゴ腕個人投資家が座談会
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB194AX0Z11C22A2000000/
保存日: 2022/12/20 7:58
ウクライナ・ショック、インフレ加速、米金利上昇、円安進行――。様々な波乱要因が顕在化して乱高下を繰り返した2022年の相場を、株式投資で数億円の資産を運用するスゴ腕の個人投資家たちはどう乗り越えてきたのか。御発注さん、ごはんさん、DAIBOUCHOUさん(いずれもハンドルネーム)。3人の実力者に22年の相場を回顧してもらい、さらに23年の投資戦略を語り合ってもらった。
――2022年の相場を振り返ってみて、印象はいかがでしたか。
御発注さん(以下敬称略) 私は米国の利上げや物価高が進む中でも、日銀は金利を上げないとみていました。日米の金利差拡大でドル高が進むと予測し、ドルを持っていたのはよかった。ドルだけで3割程度、為替差益が出ました。
年前半はドルしか増えなかったのですが、円安で物価が上がると低価格志向が強まると考え、(中古品リユースを手掛ける)ゲオホールディングスを主力銘柄に置いたのもよかったです。資源関連株の値上がりは取れなかったですね。
DAIBOUCHOUさん(同) 22年は米国のレバレッジ型投資信託「レバナス」や暗号資産(仮想通貨)の価格急落、ウクライナ・ショックなど、落とし穴がたくさんありましたが、無事に過ごせたと思います。致命的なダメージを食らうことはありませんでした。私もドルを持っていて1割くらい為替差益が出ました。
資源関連は住友金属鉱山の上昇の波に乗れましたが、分散投資をしているので、それほど大きなインパクトはなく、保有資産全体で見ると21年末比でプラス4%くらい。前回の座談会(日経マネー2022年4月号)の時に同マイナス10%だったことを考えると、プラスに持ってこられてよかったです。
ごはんさん(同) 私はもともと、「業務スーパー」を運営する最大のフランチャイジー、G-7ホールディングスを主力に置いていたのですが、21年末に利益を確定しました。これで資金ができたので別の主力銘柄をつくりました。その銘柄が含み損を出し、足を引っ張っている状態なのはしんどいかな。
一方、コロナの最初期に赤字決算を発表した大手百貨店株のバルク買いをしていて、それを今、少しずつ利益確定しています。それが主力銘柄のマイナスを相殺していて、資産全体は21年末比でトントンか少しプラスくらいです。
――22年相場の難易度は。
DAIBOUCHOU 私は難しかったと思います。
御発注 日本株は難しかったですが、米ナスダック総合株価指数の下落を見ると、米国株の方がきつかったかな。
ごはん 私はそんなに難しくなかったかなと思います。22年には一方的な暴落はなかったからです。2~3月にウクライナ・ショックはありましたが、その後はレンジ内の動きで、きっちりと銘柄を入れ替えたり銘柄を選別したりしていれば、勝てた相場でした。
御発注 年前半とかグロース(成長)株、めちゃくちゃ下がっていましたもんね。
ごはん 今の若い投資家たちは持ち直して、保有株が相当プラスになったりしていますよね。
御発注 そうそう、あっという間に。
DAIBOUCHOU 決算反応が異常になっているというか。
御発注 異常ですね。
DAIBOUCHOU 妙に振れ幅が大きいし、売られたと思ったら持ち直して、前日比でプラス5%とマイナス5%が続くとか、変な動きが多かった。それに振り回されて失敗したパターンもありそうです。
――先ほどの「若い投資家たちは持ち直した」のはどういう投資をしたからでしょうか。
ごはん 決算開示を丁寧に見て、決算で株価が動きやすい銘柄に資金を寄せるという行動をしっかりやっている。開示資料の読み込みに加え、トレーダー的な要素を持っている印象です。
御発注 今のはやりは四半期ごとにしか決算を見ていないですね。
DAIBOUCHOU 長期成長を見ているようで、四半期決算しか見ていない投資家が多いと私も感じています。
ごはん 好決算だと思っても、需給が悪いとすぐ売っちゃう。利益が取れる間だけ持ち続けるという印象です。昔の「決算読み」は信念を持って長く株を持つというのをやっていたけれど、今は決算への反応が悪かったらパッと売って、すぐ違う銘柄に乗り換える人が増えている感じがします。
22年はバリュー株が優位
――22年は一言で表すと、どんな相場でしたか。
DAIBOUCHOU 高ボラティリティー(変動率)相場。値動きが激しかったなと思います。上がると思って期待して買ったら下げるとか、トレンド崩しの相場だったと思います。逆にそういう短期の値動きに乗らないで、ずっと持っている方がよかったかもしれません。
御発注 22年は完全に金利の相場でした。金利が上がって株価が下がる。リスクプレミアム的にはグロース株が売られるのは教科書通りでした。バリュー(割安)株が強かったので、バリュー株投資家はそこまでひどい損失はないと思います。
ごはん 個人的には配当利回りが高くなったという印象が強いです。私自身は受け取る配当が23年に500万円ほど増える予定ですが、そういう増え方は普通はしない。銘柄を入れ替えていってもそこまで増えません。
利回りもよくなっていますし、企業が利益を上げ続けられるなら、日本株は全般に割安だとみています。日本株はフルポジションで持っています。
御発注 信用取引も使うのですか。
ごはん 使っています。投資を始めてからずっとフルポジで、11年からレバレッジ(てこ)もかけています。その分、下げは大きく食らいますけど。
御発注 ごはんさんの運用規模でレバをかけるのは怖くはないですか?
ごはん うん、だけどバリュー株投資だから株価が下げた時の予測はある程度までつきます。
御発注 下値を想定しているということですか。
ごはん そうですね。あと、このくらいまで減っても大丈夫という振れ幅が、私の場合は大きい。下げてもあまり気にしていません。
DAIBOUCHOU バリュー株投資はレバを張れるのがメリットですね。株価指標がどんどん安くなると配当利回りが高くなるので、ある程度、株価の底が分かりますから。
――22年は局所的に株価が下落する場面が多かったです。ご自身、または周りの投資家から聞いた失敗談があれば教えてください。
御発注 株価の上昇トレンドが強い銘柄に付いていくのもよいと思い、決算内容が良かった銘柄を買ったところ途端に下がるなど、22年は自分らしい買い方が一部でできなかったように思います。
私自身これまで(相場トレンドに沿った)順張りをやってこなかったので、順張りを手掛けて含み損になったのはよくなかった。新しい要素を取り入れたいと思って、SNS(交流サイト)でそういう投資が目に付きやすくなった。若い投資家たちの雑念を受けてしまいましたが、もっとちゃんと研究しなければいけないですね。
ごはん EC(電子商取引)関連株で損失が出たという失敗談は耳にしました。コロナ禍でECが普及し、私が買った百貨店関連株などは厳しいと捉えた人たちが多かった。それが実際、感染者数が落ち着くと、モノを見て買いたいと実売に戻ってきた。20~21年に株価が上がったタイミングでEC系の銘柄を買った投資家はダメージを受けたようです。
DAIBOUCHOU 私は1月末の株価下落を受けて現金を増やしたタイミングを、割安銘柄を買うチャンスと捉えました。しかし、荏原など半導体関連株が21年の上昇から反落。中古車買い取りチェーン最大手のIDOMなどもそうですが、ブームを受けて株価が上昇した銘柄を、下落後も持ち続けてしまったのはミスだったかもしれません。
PER(株価収益率)などから割安と判断して持ち続けた結果、利益が減ったり損失が出たりというパターンが多かった。トレンドに逆らった投資はしない方がいいのかなと思いました。そういう銘柄はPERが下がると、株価も下がったままになるので。細かく損するところを減らせれば、利益は増やせると思います。
三者三様の成功例
――逆に皆さんの22年の成功例や入れ替え銘柄の例は?
DAIBOUCHOU 2月頃に東京きらぼしフィナンシャルグループなどの地銀株を追加購入しました。米国の金利上昇が追い風になっていることに加えて、収益源の多角化やコスト減でも業績が伸びているからです。
リース大手の芙蓉総合リースや不動産コンサルティングなどを手掛ける霞ヶ関キャピタル、投資用マンション開発のグローバル・リンク・マネジメントなどにも投資しました。円安・ドル高が日本の不動産の価値を高めているため、これらの企業が保有する不動産を、海外投資家が買うとみたからです。
御発注 私は、リユース市場が伸びるとみて、ゲオHDを購入したのがよかったです。ただ米金利が下落に転じると、売られる場面もありました。テーマに沿って投資しても、金利動向で逆回転する可能性があるのは考え物かな。私はインフレはすぐ終わるトレンドではなく、長く続く方に賭けています。そのため、23年もゲオHDは主力銘柄として持つつもりです。
ごはん 22年の成功例はトレンダーズです。ウェブマーケティングを手掛ける同社は、2021年4~6月期の決算発表を受けて株価が上昇したのですが、22年2~3月のウクライナ・ショックを受けて下落。このタイミングに、好決算の銘柄を買ったことが後々報われました。
自動車用電装品のハイレックスコーポレーションも22年に購入しました。22年10月期の決算の赤字が確定していること、自動車向けの半導体の供給が改善されつつある状況で決算を終えたことで、23年10月期通期の業績予想が上向くと考えました。割安な「ネットネット株」(※)であることから、下値は限定的とみています。
※ネットネット株とは、現金などの流動資産から総負債を差し引いた「正味流動資産」の3分の2よりも時価総額が小さい銘柄を指す
――23年相場の戦略は。
御発注 23年に向けてドル円の為替レートは落ち着いてくると思いますが、すぐには反転しないでしょう。今後ドル・円は、横ばいで推移すると予想しています。個人的には1月頃までグロース株のターンが来ると思っていて、Jストリームなど、足元で売り込まれたグロース株にも注目しています。
ごはん 私は御発注さんと違って金利や相場の地合いは分かりません。個別銘柄で良いものがあれば購入するという探し方で、自分ができることをしたいと思います。
DAIBOUCHOU 私は基本路線を変えず、分散投資で、好業績で割安な銘柄を買う予定です。銘柄入れ替えは23年に限らずいつもやっているので、続けたいです。
あとは、相場の短期変動を利用できる狡猾(こうかつ)さを持ちたいです。好決算なのに需給で投げ売られている株を買ったり、注目されていない株をじっくり持ったりする。自分の得意な部分や強みを発揮したいですね。
株初心者へのアドバイス
――コロナショックから投資を始めた投資初心者の中には、22年に初めて大きな下落を経験した人も多いと思います。彼らに向けて一言お願いします。
DAIBOUCHOU 重要なのは株価ではなく、会社の良しあしです。短期トレードで儲けようとせず、「会社に助けてもらおう」とする方が負けにくい。うまくいけば短期間で大きく儲けられることもありますが、短期の値幅取りを狙うのは難しい。時間をかけて着実に資産を増やしていく方がいいと思います。
ごはん 私自身が損してもダメージを受けない異常体質なので、あまり気持ちが分かりません。特に私はバリュー投資家なので、購入後に一時的に損することはあっても、(会社の資産などと比較して割安な株なので)最終的にはプラスになると分かって運用しています。
私は06年のライブドア・ショックの後に投資を始めて、08年のリーマン・ショックで資産が6割減りました。その時の運用資産は数百万円でしたが、「将来お金持ちになるんだ」と思っていましたし、そういう気持ちでやっている人たちは将来的に勝つと思う。厳しいかもしれませんが、このくらいで投資をやめてしまいたいと思うならやめた方がいいです。
御発注 私はごはんさんと逆で1円でも損したくないタイプ。節約をしてきたこともあり、100%安全なやり方でお金を増やしたいと考えてきました。その意味で、バリュー株投資は、1200円の企業価値がある株を1000円で買えるお得な買い方。節約をしている人と相性がいいです。
私がこれまでで一番心が折れたのはリーマン・ショックの時です。投資元本を割り、バリュー株投資自体を信用できなくなり、運用をやめようとも思いました。ですが冷静に考えると、安くて配当利回りの高い銘柄はたくさん存在する。5%の配当が20年続いたら元本を取り戻せるため、安い時に投資したら負けないと正気を取り戻したのです。企業価値など、自分が信じられる根拠があれば心が折れずに続けられると思います。
(取材構成は井沢ひとみ)
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