ANAの接客、スマホ主役に 変わる空のおもてなし
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC315K80R30C22A5000000/
保存日: 2022/06/02 8:08

ANAの井上慎一社長は「利用者の新しい価値観に合わせサービスを進化させる」と力説した

未曽有の需要蒸発を引き起こした新型コロナウイルス禍を経て、航空大手がサービスモデルの変革に取り組み始めた。非接触や「密」回避を求める消費者のニーズに応えつつ、業務効率化を図って収益構造を筋肉質にする狙いだ。合理化と顧客満足度の向上という一見相反する課題を同時に解決していけるだろうか。
「キーワードは『旅をスマホがおもてなし』」。5月24日、全日本空輸(ANA)が開いた「新サービスモデル」の発表会で、白いTシャツに黒のジャケットというIT(情報技術)企業のトップのようないでたちでプレゼンテーションしたのは井上慎一社長だ。
新たなサービスモデルは「ANA Smart Travel」と名付けられた。旅の準備から搭乗券の受け取り、機内サービス、さらには遅延・欠航時の対応まで、スマートフォンのアプリを軸に「おもてなし」の在り方を変える。
象徴的なのは国際線の機内食だ。今後は利用者に対し、搭乗前に提供してほしいメニューをアプリ上で注文してもらうことを推奨していく。
利用者としては周りで提供される様子などを見ながら、機内で気ままに食べたいメニューを選ぶのが旅の楽しみの一つでもあるが、事前注文が広がれば客室乗務員が一人ひとりに希望を聞いて回る手間が省け、食品ロスも減らせる。従来なら希望するメニューが品切れになることもままあったが、事前注文ならこうした心配もなくなる。

機内も空港も様変わり

近年、ANAは空港などでの風景を様変わりさせている。国際線では2014年、国内線では16年から順次、機内Wi-Fiサービスを提供し始め、18年には国内線のWi-Fiを無料化。機内エンターテインメントを乗客のスマホで楽しめるようにした。15年からは自動手荷物預け機を主要空港に順次導入している。
コロナ禍で一連の動きはさらに加速した。21年には羽田空港の一部の保安検査場で搭乗券の確認をセルフ化した。機内では機内誌や新聞などを紙ではなく電子版で提供するように。22年4月には国内線のオンラインチェックイン機能を刷新し、スマホ上で簡単に手続きを事前に済ませれば、スムーズに搭乗できるようにした。
「ANA Smart Travel」もこれらの取り組みの延長線上にあるという位置付けだ。
オンラインチェックインの比率は現状の5割から23年度には8割まで高め、国内51空港に置いてある437台全ての国内線用自動チェックイン機を同年度中に撤去する。
アプリ上で搭乗口や出発時刻の変更などを通知できるようにし、空港のターミナルには遠隔操作ロボットを回遊させ、利用者への対応を一部担わせる。大幅な遅延や欠航の際は、アプリが代わりの便を案内するほか、補償などの手続きもスマホで進められるようにする。

「ダントツ品質」から「メリハリ」へ

井上社長は新たなサービスモデルの狙いが「利用者の(ニーズの)変化に合わせて、より要望に寄り添うこと」にあると強調する。デジタル機器に慣れた消費者に合わせて航空サービスもスマホを軸に展開していけば、コロナ禍を経て非接触や混雑の回避を望むようになった客のニーズに応えられる。
「コロナ禍の2年間、調査などを通じて見えてきたのは利用者がストレスのないスムーズな搭乗を望んでいること。そこに軸足を置いていく」(井上氏)
一方で、一連の取り組みの「裏」のテーマが「省人化」であることは間違いない。
これまで同社は「ダントツ品質」という言葉を使いながら、手厚く、信頼性の高いサービスを追求することで顧客満足度を上げ、旅客の囲い込みや単価の向上に努めてきた。
ただ、顧客が価値を見いだしていないサービスに過剰にリソースを振り向けてきた、との反省も社内では出始めている。そこで浮上しているのが「メリハリ」という言葉。テクノロジーを活用して人手によるサービス提供を減らしつつ、同時に品質も高める、という考え方だ。
井上氏は「(デジタル化で)余裕ができた人員は(他社が)模倣できないレベルまで人的サービスの品質を高めるために投入していく」と話す。ANAブランドの航空事業に携わる人員は25年度末に約2万9000人とし、20年度末に比べ2割超減らす計画で、人材を最適配置しながら、絶対数は削減していく方針だ。
競合する日本航空(JAL)も従業員数を22年度末に約3万3500人とし、20年度末に比べて2500人減らす。航空大手の間では「いかにサービス品質を高め、収益力を磨くか」だけでなく、「いかに省人化を進め、収益構造を強固にするか」も新たな競争軸となり始めている。
(日経ビジネス 高尾泰朗)
[日経ビジネス電子版 2022年5月30日の記事を再構成]

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