インフレ、円安… 解は「家計レジリエンス」にあり
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB180NO0Y2A310C2000000/
保存日: 2022/03/22 18:00
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「モラトリアム」の2年が終わった。2020年の春以来、世界は新型コロナウイルス禍に立ち向かうため結束して金融・財政政策を総動員。ジャブジャブのマネーで経済の底割れを防いだ。今、米連邦準備理事会(FRB)の利上げの号砲と共に命綱は回収され、この間増加した43兆ドルもの債務残高の圧縮局面が始まる。利上げレース最後尾の日本にインフレ、円安の波が押し寄せ、景気停滞と物価高騰が併存するスタグフレーションの言葉さえジワリ現実味を帯びる。だが危機の機は機会の機。今こそ家計を再点検してレジリエンス(復元力、回復力)を高めておくチャンスだ。かの賢人・バフェットさんも言っているではないか――「潮が引いた時に初めて、誰が裸で泳いでいたかがわかる」。急いで着衣の点検だ。

投資は家計の1パーツ 

マーケット環境が良い時には注目が投資に集中しがちだが、投資は家計を構成するポートフォリオのパーツの一つに過ぎない。収入-支出=貯蓄。貯蓄のさらに一部を投資に回す。これが大原則だ。まずは収入を増やす努力をする。同時に即効性のある対策として支出を減らす。運用において原資が増える効果は絶大だ。投資テクでリターンを1%上げるのは敏腕ファンドマネジャーでも難しいが、生活費を2~3%削るのは誰でもできる。節約を原資に最低6カ月~1年の生活防衛資金があれば、今後訪れる荒天下でも心に余裕をもって投資に対峙できる。

積み立て投資に好機到来

過去2年に投資の大海にこぎ出した人は多い。積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)の口座数は、20年3月末の約219万から21年9月末には約472万と2.2倍に急増。いまや20~30歳代が半分を占める。始めてこのかた右肩上がりに慣れた目には最近の乱気流は恐ろしく映るだろう。「いっそ含み益があるうちに……」と思っても、売り払って市場から退場してしまってはいけない。お楽しみはこれからだ。

値動きのある金融商品を定時定額で購入する「ドルコスト平均法」が強みを発揮するのは、購入単価が切り下がり、買える数量が多くなる下げ局面があってこそ。安く仕込める期間が長く、仕入れ数量が積み上がるほどにその後訪れる上昇局面の果実は大きくなる。
図はバブルの最高値から投資を開始し、つみたてNISAで日経平均連動型投信を毎年40万円分購入したと仮定した場合の値動きだ。一時は高値の8割安まで下落したあのバブル崩壊の過程こそが、その後の急反発をもたらしたことが視覚的にわかるだろう。若い人はこの30年の軌跡を胸に淡々と航海を続けよう。

無理ない金額に減額・休止もあり

大事なのは無理のない金額で続けること。つみたてNISAはそれこそ100円単位で投資できるし、もう一つの非課税の器である個人型の確定拠出年金(iDeCo)の最低投資額は月5000円だ。無理のない範囲に投資額を引き下げたり、「一時お休み」にすることも可能だ。逆に最もしてはいけないことは、今までの生活・投資規模の方を見直さず、不足が生じたらカードローンなどで補塡して回すこと。インフレ下ではお金の価値が減じるのは借金も同じとはいえ、そもそもの利率が今の超低金利下で2ケタもあるなど高すぎだ。
さて、過去2年といえばこの「マネーのまなび」の発足の軌跡とも重なる。20年3月に第1回のコラムを書いたとき、株価は1万6552円だった。それからわずかおよそ半年後、11月には2万4000円台まで駆け上がって29年ぶり高値を更新するなどとても予想はできなかった。マーケットでは何が起こるか、誰もわからない。一方自分の家計は自分で鍛えられる。解はそこにある。