省エネ性能重視すべき理由、買って後悔しない家
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO19173010U7A720C1000001/
保存日: 2021/12/26 10:54
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2017年7月26日 6:30

大手住宅メーカーの一条工務店が、戸建ての販売戸数でトップを走ってきた積水ハウスに迫りつつあります。住宅産業新聞が2016年6月に発表したデータでは、積水ハウスの1万4000棟弱に対し、一条工務店は約1万2000棟の2位となっています。

派手な宣伝などをせずに、住宅展示場を中心とした営業スタイルを貫いてきた一条工務店がここまで躍進してきた理由はどこにあるのでしょうか。住宅設計者の私は、環境性能にあると考えています。
住宅を建てる際に、建て主や住宅会社にとって重要な性能は主に3つあります。
(1)家全体で冬は暖かく、夏は涼しく過ごせながら、冷暖房費は安く済む
(2)住宅性能表示制度で定める「耐震等級3」を確保する
(3)適切な防蟻処理、通気計画によって耐久性を保つ
私はこれまでに数多くの住宅設計者に対して、住宅設計のセミナーを行ってきました。そうしたセミナーで受講者からの質問などを聞いていると、上の3項目をきちんと満たしている人や会社は本当にごくわずかだと感じます。3つの項目を1つも実現できていない会社が最も多く、次に多いのは2つできていない――。そんな具合なのです。

住宅メーカーが軽視しがちな温熱環境

大学卒業後、私は住宅メーカーに就職しました。ですから、住宅メーカーの内情をよく知っています。多くの住宅メーカーは上記のうち、(2)と(3)に注力しています。ところが(1)については、(2)や(3)に比べて力が入っていませんでした。
しかし、この数年の間に省エネ住宅を取り巻く状況は大きく変わりました。高性能樹脂窓の普及率が大きく伸び、「パッシブデザイン」という言葉が住宅業界で普通に使われるようになっています。さらに、規制緩和によって、家庭で購入する電力やガスの供給者を選べるようにもなりました。
断熱性能に見向きもしなかった意匠系の建築設計者が断熱に取り組むようになり、高断熱を大きな売りにしてきた工務店は、設計力を向上させなければ住宅が売れない時代になりつつあるのです。
冒頭で述べたように、一条工務店が販売棟数を伸ばしているのは、大手住宅メーカーのなかでも圧倒的な断熱性能を誇りながら比較的価格が安いからです。
同社は最初に示した3つの項目を全て満たす住宅を建てています。そして、10kW以上の容量を持つ太陽光発電を設置して発電後の収益で設置費用を賄う仕組みを採用し、建て主が設備を導入しやすくしています。
建材の8割以上をフィリピンの自社工場で製造しており、高い費用対効果を実現しているのです。高い断熱性能を持つ住宅は、燃費の良い車のようなものです。同社の躍進に、私は驚きを感じません。

住宅は車の3倍のエネルギーを消費

昨今、住宅メーカーの多くが省エネをうたい始めていますが、実はその性能はまちまちです。一条工務店の家は、車に例えれば燃料1リットルで40km程度の走行をうたうトヨタ自動車のプリウスです。
これまで住宅業界で「次世代省エネ基準」(1999年基準)と呼ばれてきた基準が、2020年に義務化されます。この基準は、車に例えればガソリン車の平均的な水準で、特別に高いものではありません。
ちなみに、プリウスで年間1万kmを走った際の一次エネルギー消費量を実燃費である1リットル当たり26kmで計算すると、年間で13.5GJ(ギガジュール)程度を消費することになります。一般的な1リットル当たり13kmの燃費の車なら、年間で27GJに相当します。
一方、一般的な住宅で消費する一次エネルギー消費量は大体、平均で年間75GJとなります。平均的な住宅では、車の3倍のエネルギーを消費するのです。
車は通常、約10年ごとに乗り替えますし、そのたびに大幅に燃費が向上していきます。ところが、その3倍のエネルギーを消費する住宅は、30年以上使われるにもかかわらず、断熱性能のような基本的な構成要素では完成時の性能が続きます。
住む期間全体に要する光熱費と工事費の合計金額を抑えなければ、いくら工事費が安くても「安物買いの銭失い」になりかねません。だからこそ、住宅の省エネ性能を重視する必要があるのです。一条工務店に対する関心が高まっている状況は、建て主側の見方がそのように変化していることの表れと言えるでしょう。
[書籍『ホントは安いエコハウス』の記事を再構成]
【参考】省エネ住宅を建てて住むメリットや設備を含めた住宅の設計手法などを、日経BP社が2017年7月25日に発行した書籍「ホントは安いエコハウス」で解説した。省エネ住宅の建設に取り組もうとしている実務者だけでなく、省エネ住宅の建設やリフォームを計画している建て主にも役立つ情報を数多く紹介した。

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著者 : 松尾 和也
出版 : 日経BP社
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