印Paytm、上場に冷めた視線 多機能アプリ化がカギ(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK155S80V11C21A1000000/
保存日: 2021/11/17 8:23

インド最大のユニコーン(企業価値が10億ドル=1100億円以上の未上場企業)で、モバイル決済大手「Paytm(ペイティーエム)」を運営するワン97コミュニケーションズ(本社ノイダ)が18日に上場し、新規株式公開(IPO)を完了する見通しだ。
売り出し株と新規発行株の総額で25億ドルと、同国IPO史上最大の買い付け募集に対し、1.89倍の応募があった。今年インドのテック企業のIPOでは応募倍率が数十倍に上る過熱状況が続いていたが、Paytmへの市場の反応はやや冷めているといえる。
6月に発表した2021年3月期決算は前の期比1割の減収だったが販促などの経費を大幅に減らし、最終赤字は前の期比4割少ない170億ルピー(約260億円)だった。赤字縮小は評価されたが、売り上げの成長を重視する投資家には嫌気された。さらに懸念されたのが中期的な収益力だ。
Paytmは、店先のQRコード決済や個人間送金の機能を核とするスマートフォンアプリ。利用店舗や送金者から手数料を取る。アクティブ利用者は3億3000万人を超えるが、利用者獲得・維持のための広告・販促コストが重く創業11年にして赤字が続く。
世界的にみても、オンライン決済サービスそのもので高成長と高収益を実現している企業は、米国のペイパルやスクエアなど少数派だ。QRコード決済世界最大手のウィーチャットペイを擁する騰訊控股(テンセント)と、2位アリペイを運営するアント・グループの中国勢はともに、スマホ決済を収入源ではなく他の販売・課金事業や手数料サービスを提供する基盤と位置づける。
アントは主にローンや保険などの金融サービスを主軸に稼ぐ。テンセントはゲームのアイテム課金やSNS(交流サイト)内で衣服などを売るソーシャルコマースなど多彩な収益源を育んでいる。
Paytmもアプリ内で融資、投資信託の販売仲介、金の販売など各種金融サービスを拡充し、大株主でもあるアント的なモデルを構築している。加えてネット通販機能も載せ、アリババ集団のような電子商取引(EC)と決済を組み合わせたモデルも追求する。ただ、金融もECも競合が急速に伸びており、3億人超の利用者を抱えるメリットがどこまで効いていくのか見えない。
多機能アプリ化が成功するかどうかは、似た戦略を採る日本のペイペイや、東南アジアのグラブやゴジェックにとっても存亡にかかわる問題だ。Paytmの戦略の成否には上場後、ますます注目が集まりそうだ。(編集委員 小柳建彦)