iPhone分解分析 部品コスト10年で2.5倍
作成者: 松元則雄、渡辺直樹、Patrick McGee(FT),北山 哲也,久能弘嗣,伊藤岳,山田達
ソース: https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/iphone-teardown/
保存日: 2021/10/28 18:56

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米アップル(Apple)の新型「iPhone13ProMax」を分解し、部品や素材を日本経済新聞社と英フィナンシャル・タイムズで共同分析した。約10年前と比べて部品価格は全体で2.5倍、カメラは10倍、半導体は3倍になった。本体価格の伸びは約6割どまりだ。ライバルと比べると部品コストは低いものの、かつてよりも利幅を削りながら性能向上を進める姿勢がにじむ。半導体を中心に部品の自社設計を進めリサイクル素材の活用も増えた。
ディスプレーはサムスン製
部品コストの2割占める
有機ELディスプレーは韓国サムスン電子製だった。原価は推定105ドル(約1万2000円)。部品総額の2割を占める。表面のガラスは米コーニング製の「セラミックシールド」を前モデルに続いて採用した。アップルと共同開発した独自素材で、衝撃に強く割れにくいのが特徴だ。部品の属性分析や価格の推定にはフォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ(東京・千代田)の協力を得た。
カメラモジュール
センサーはソニーの独壇場
3つのカメラは、望遠(上)、広角(下)、超広角(右)に機能が分かれている。望遠は3倍光学ズーム。13Proから、被写体に2センチまで寄れるマクロ撮影機能も加わった。カメラモジュールの原価は77ドル。カメラの「網膜」となるセンサーはソニーグループの独壇場。大型化して価格も上がった。
レンズが動く構造
手ぶれを抑える
分解してみると、ピンセットでレンズを動かすことができた。スマホのわずかな揺れに合わせてレンズが動き、手ぶれを抑える。広角カメラと望遠カメラに搭載、暗い場所でも撮影がしやすくなった。
センサーも可動式
手振れ補正を強力に
広角カメラは、手ぶれを補正する機構がもう一つある。四隅が磁石とコイルに囲まれ、モーターと同様の仕組みでセンサーを動かす。他社に先駆けてアップルが導入したもので、レンズが大型化して重くなっても、耐衝撃性を保つ。アルプスアルパインやミネベアミツミなどの日本メーカーが得意な技術。
レーザーで距離や形状測定
暗所撮影やARを強化
目に見えないレーザー光を照射することで、物体との距離や形を捉え撮影を補助する。自動運転車に使われる技術だが、部品の低価格化でスマホにも搭載が可能になった。暗所でのカメラ撮影機能の向上や、アプリゲーム「ポケモンGO」で有名になったスマホの拡張現実(AR)にも使う。12Proシリーズから搭載されている。
メイン基板はコンパクト
ジョブズ氏の思想受け継ぐ
スマホの頭脳になるメイン基板の面積は、全体の15%程度と小さい。コンパクトにぎっしり部品が集積されているのが、他社スマホとの違いだ。内部の通信部に村田製作所の曲がる樹脂基板を使うなど、省スペース化でも独自技術を取り入れている。創業者の故スティーブ・ジョブズ氏から続く「ミニマリズム」の思想が回路にも反映されている。
フラッシュメモリーに
キオクシア製を採用
「A15」とプリントされたパッケージの直下にあったのは、スマホの頭脳となるメインの半導体ではなく、写真や動画などのデータを記憶していくフラッシュメモリーだった。サムスン電子など韓国勢が強いが、日本のキオクシアの製品が採用されていた。
リンゴ刻印の半導体
特注部品の採用進む
スマホの頭脳「A15 Bionic」は基板の裏側にあった。その下、電源制御用半導体にも、リンゴのロゴがある。アップルはiPhoneに最適な半導体を独自に開発することで、性能向上を図っている。A15は台湾積体電路製造(TSMC)が製造、性能を左右する回路線幅は最先端の5ナノ(ナノは10億分の1)メートルだ。原価は45ドルで全体の10%とカメラモジュールよりも小さい。
通信用の半導体
クアルコムが存在感を維持
5G通信を制御するモデムチップは前世代に続き米クアルコム製。アップルは19年に米インテルからモデム事業を買収して自前技術の蓄積も進めるが、現時点ではクアルコム製の評価がアップル内でも高いもよう。米クアルコムのモデムチップは小米(シャオミ)やサムスンも採用しており、半導体内製化の時代でもなお高い存在感を誇る。
リチウムイオン電池
組み立ては中国企業
最も大きな部品はリチウムイオン電池だ。容量は前モデルから1.2倍に増えた。組み立ては中国の欣旺達電子(サンオーダ)とみられる。スマホやタブレット向けのほかに車載向け電池も手掛ける会社で、4月に発売された小米の旗艦モデルのスマホでも採用されていた。米中摩擦は収まる気配がないが、安価なものづくりに優れる中国製品をアップルは完全には排除していない。
防水のためか接着強化
ディスプレー分離に難航

ディスプレーを熱して本体との接着を弱めたあと、吸盤が付いた工具やヘラで分離した
分解の最大の難所は、ディスプレーとボディーの分離だった。両者を固定するネジを外し、全体を温めて接着剤を軟らかくしてから、吸盤付きの専用工具で分離するのだが、ディスプレーを傷つけないようはがすのに苦労した。耐水性能を向上させたためか、昨年のiPhone12シリーズから接着が強力になっている。
カメラ原価は全体の17.6%
iPhone 4の10倍以上に
分解した部品を分析、原価を積み上げると438ドルになった。1番高かったのはディスプレーの105ドルで全体の24.0%を占めた。2番目に高いのがカメラモジュールの77ドルで17.6%、カメラ部品の原価はiPhone4の10倍以上になっている。続いてメイン半導体で45ドル。販売価格に部品価格が占める割合は36.5%になった。
自社設計の半導体
年々、種類が拡大
アップルは2010年のiPhone4から自社設計したメイン半導体の採用を始めた。13Proはメイン半導体に最新の「A15チップ」を搭載する。そのほか17年には電源管理用の半導体の自社設計を始め、18年に主要サプライヤーである英ダイアログの電源管理半導体事業の買収を発表した。13Proでは米クアルコムやスイスのSTマイクロエレクトロニクス製に加え、アップルまたはダイアログ製の半導体を採用している。音声処理ではアップル向けにカスタマイズされた米シーラス・ロジックの半導体を搭載している。
カスタム部品が
修理の足かせに
アップルはサスティナビリティを公言するにもかかわらず、同社が定める修理店以外でのiPhoneの修理をますます困難にしている。アップルは故障した13Proのディスプレー交換費用を279ドルとしている。8Plusでは169ドルだった。12から各部品にシリアル番号が付与され、交換したかどうかが認識できるようになったため、カメラなどの主要部品を別のiPhoneと交換することはできなくなった。

一般に流通しているドライバーでは解体することができない特殊な溝のネジが使われている
「修理する権利」を主張するヒュー・ジェフリーズ氏が2台の13Proのメイン基板を入れ替えたところ、カメラが不安定になったほか、FaceID(顔認証機能)が作動しなくなり、周囲の明るさによってディスプレーの色を自動で調整する機能が使えなくなった。別の専門家は、アップルは標準的な工具が対応しないネジを増やすなど、複雑なカスタム部品をますます多く使っていると指摘している。
部品にも環境志向
メイン基板の金は再生100%
アップルは13Proから初めてメイン基板のメッキにリサイクル100%の金を使った。12ではリサイクルされた希少金属のタングステン、11では磁石にリサイクルレアアース(希土類)を採用した。XSではスピーカーの筐体(きょうたい)の35%に再生プラスチック、カバーガラスのフレームの32%にバイオプラスチックを取り入れた。

iPhoneの部品コストは低め
ブランド力で利幅大きく

他社スマホ上位モデルとの比較

メーカー
アップル
ソニー
シャオミ
サムスン電子
グーグル
ファーウェイ
機種
iPhone13
ProMax
(256GB)
iPhone13
(512GB)
Xperia 1 III
Mi Mix Fold
Galaxy Z Fold3
Pixel 5
Mate40E
価格に占める
部品コストの割合(%)
36.5
37.1
37.9
38.5
39.4
44.9
51.0
推計部品
コスト(㌦)
438
407
493
601
710
314
367
価格(㌦)
1199
1099
1300
1560
1800
699
720
発売日
2021年 9月
2021年
8月
2021年
4月
2021年
8月
2020年
10月
2021年
3月
(注1)フォーマルハウトの調査資料を基に作成
(注2)全て同社が分解した機種。価格は発売時の米国での価格、中国の2社は中国での価格をドル換算
デバイスの高機能化にともないスマホの原価は上昇傾向にある。iPhoneの本体価格に占める部品総額は、13ProMaxの36.5%だった。中国・華為技術(ファーウェイ)のスマホが51.0%、グーグルが44.9%、サムスンが39.4%で、アップルの低さが際立つ。ブランド力で利幅を大きくして稼ぐアップルの戦略が読み取れる。

価格に占める部品総額の割合

(注)フォーマルハウトの調査資料を基に作成
* iPhone4Sは原価データが日本円だったため2010年の平均1㌦=88円で計算
* iPhone5は原価データが日本円だったため2011年の平均1㌦=80で計算
* iPhone12ProMax以降はイヤホンと充電器が付属せず
10年前の「4S」は価格が749ドル、本体に占める部品価格の割合は23.6%だったが、直近では旗艦モデルは1199ドルと1.6倍まで高くなり、部品の割合も36~40%まで上昇した。ここ10年で最新のデバイスをふんだんに盛り込み、高級路線をつらぬいてきたアップルの戦略が浮き彫りになった。例えば13ProMaxのカメラ部品の総額は4の10倍以上になっている。