トヨタが立ち乗りEVで挑む 働く高齢者の負担減らせ
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC065OR0W1A001C2000000/
保存日: 2021/10/08 8:14
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トヨタ自動車が1日、新型の電気自動車(EV)を発売した。最高時速は人が歩く速さに近い2~10キロで、大型商業施設などでの歩行支援を目的とする。若者のクルマ離れが指摘される中、シニア層の社会参加支援というもう一つの成長市場を狙う。
トヨタが発売したのは、3輪EV「C+walk(シーウォーク)」の立ち乗りモデル。ショッピングセンターや空港、工場、公園といった大型施設での歩行支援を想定して開発した。
ステップに立ってハンドル左右にあるアクセルレバーを操作するだけで発進や加減速、停止ができる。3輪で車体を安定させ、ステップの高さを15センチと低く抑えるなど、シニアでも不安を感じずに利用できるようにした。最高時速は人が歩く速さに近い2~10キロに設定できる。
2019年10月に商品化を発表した時点では20年冬ごろの発売を想定していた。乗り手を選ばない移動手段としての完成度を高めるため細部まで改良を重ね、1年近く延期することになった。人が往来する空間でも安心して走れる障害物検知機能や下り坂などでの速度抑制機能も備えた。
価格は35万円前後。大型商業施設のシニア警備員などを対象とする実証試験を重ねてきたトヨタは、業務の効率化や働き手の負荷軽減などの効果を測り、法人需要を見込める価格に設定した。10月時点の現行法下では公道(歩道)の走行はできないが、「電動車椅子と同様の扱いにしてもらうなど、関連法規の見直しも見据え、将来的には公道での使用も見込む」(トヨタ自動車ZEV B&D Labグループマネージャの谷中壮弘氏)。
高齢者の4人に1人が働く時代に
脱炭素の切り札として急速に立ち上がったEVだが、日本が直面するシニアの社会参加という課題の解決にも重要な役割を担うことになりそうだ。
日本は高齢者の4人に1人以上が働く時代に入った。総務省が1月に発表した20年の「労働力調査」では、65歳以上の就業率(男女合計)が9年連続で上昇し、初めて25%を超えた。そこで、シニアの労働負荷をいかに軽減するかが問題になってくる。
ある警備会社の幹部は、「意欲があり真面目に取り組んでくれる人が多いのでシニア世代の採用を増やしてきたが、体力面の負担をどうやって引き下げるかが経営課題として大きくなってきた」と話す。
セグウェイの教訓生かす
若者のクルマ離れが指摘される中、増加している免許返納後のシニア層をどう獲得するかがモビリティー企業の共通課題になっている。その中でトヨタが目指したのは、かつて「革命的な製品」ともてはやされた電動二輪車「セグウェイ」のいわば対極だ。
20年に米国での生産を終えたセグウェイは走行スピードが速く、操作に慣れが必要なうえ、価格も国内では100万円近くと高価だった。トヨタはそれと好対照な製品に仕上げることで「万人の足」にしようとしている。座り乗りタイプや、車椅子に連結してけん引する商品の販売も予定する。
電動車椅子などを含むパーソナルモビリティー市場では、トヨタやスズキなどの自動車大手に加え、WHILL(東京・品川)やGLM(京都市)などの新興勢も事業拡大を狙っている。高齢者や障害者の社会参加は、世界共通の課題でもある。もう一つの成長市場における開発競争も一段と激しくなりそうだ。
(日経ビジネス 吉岡陽)
[日経ビジネス電子版 2021年10月5日の記事を再構成]
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