台湾ハイテク、脱中国は進んでも増えぬ対日投資
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ256CC0V20C21A8000000/
保存日: 2021/09/01 8:00

台湾・台南にあるTSMCの新鋭工場(同社提供)
台湾のハイテク大手が投資先の国・地域を分散させている。米中摩擦の長期化などを受け、主力の電子産業を中心に脱中国が進んでいるのは想定内だが、気になるのは代替地だ。米国や欧州が浮上する一方、同じ先進国である日本はほぼゼロにとどまっている。
台湾の経済部(経済省)は7月末、地元企業のサプライチェーン(供給網)の変化に関する調査をまとめた。まず目立つのは、工場建設やM&A(合併・買収)を示す対外直接投資で中国の比率が大きく低下したことだ。
2020年の対外直接投資(経済部の認可ベース)のうち、中国の比率は33.3%。国・地域別で1位を保ったが、この調査が比較対象とした11年実績(79.5%)から急落した。20年と11年の投資額全体は180億ドル(約2兆円)前後で横ばいであり、中国は絶対額も大きく減っている。
調査は理由として米中摩擦のほか、中国での事業コスト上昇や環境規制の強化を挙げた。台湾企業の脱中国を裏付けた数字だが、日本にとって深刻なのは2位以下の状況だ。

米国が23.7%(11年は4.0%)で2位につけ、15.0%(同6.2%)の東南アジア諸国連合(ASEAN)が3位で続いた。米国は政治力、ASEANは割安な労働力という独自の吸引力があるが、日本と条件が近い欧州も4位(8.9%)に入っている。
日本は経済産業省が旗を振り、台湾の半導体最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の工場誘致を進めている。しかしこの調査では、日本はインド(0.9%)さえ下回り、分析対象とする記述自体がない。
「研究開発の成果を量産に移行させる手法では、もはや台湾が先行している事実を直視すべきだ」。台湾の聯華電子(UMC)から分離・独立した投資会社であるTGVestキャピタルの本村天・日本オフィス代表はこう訴える。
同社には、日本国内の古い工場の売却などM&A案件が数多く寄せられる。ただ、日本側に「不要な工場だから売る」「台湾は単なる外注先」といった「上から目線」が根強く、深い連携を望む台湾側と折り合わない例が多いのだという。
「基礎技術の蓄積では日本がまだまだ上だ。その蓄積を生かすため、生産技術に優れた台湾から投資を仰ぐ発想に転換した方がよい」。本村氏は指摘する。
台湾の世論が親日的なのは事実で、日本に温かい目を向ける経営者は多い。だが、日本メーカーが自らの立ち位置を理解せず、台湾との商機を失っているのなら、とても残念なことだ。
(アジアテック担当部長 山田周平)