米政権中枢にパイプ 駐日大使に指名のエマニュエル氏(写真=AP)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN210380R20C21A8000000/
保存日: 2021/08/21 17:39
エマニュエル氏は党内に敵も多い=AP
【ワシントン=永沢毅】米ホワイトハウスは20日、次の駐日米大使に元大統領首席補佐官のラーム・エマニュエル氏(61)を指名すると発表した。バイデン大統領を含む歴代の民主党政権の中枢との緊密な関係が強みだ。就任は上院での承認が前提だが、最大の焦点である対中国政策で日米協調の実現に向けた手腕が問われる。
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オバマ氏の側近の一人として知られるエマニュエル氏だが、実はバイデン氏とのつながりはそれよりも長い。両氏が関わりを深めたのは、エマニュエル氏がクリントン政権の政策顧問を務めていた1990年代半ばにさかのぼる。
クリントン政権のマイク・マカリー元大統領報道官によると、上院司法委員長だったバイデン氏はたびたびホワイトハウスを訪れ、警察改革や銃規制の強化の政策を担当していたエマニュエル氏と協議にあたった。
同氏は共和党議員との調整にも奔走し、クリントン政権が実現した殺傷能力の高い銃製造などを禁じる包括的な犯罪防止法の成立を下支えした。この過程を通じ、バイデン氏の信頼を勝ち取った。
現政権の司令塔であるクレイン大統領首席補佐官、アニタ・ダン上級顧問ら上院議員時代からのバイデン氏側近ともエマニュエル氏は極めて近い関係にある。「彼は大統領、側近ともいつでも連絡を取れる」(民主党関係者)。日本政府が駐日大使に最も期待する条件を備える。
オバマ元大統領は2009年の就任初年度にエマニュエル氏を自らの右腕となる首席補佐官に起用した。大統領就任前は上院議員1期目の新人だったオバマ氏、南部アーカンソー州知事のクリントン氏に共通するのはワシントン政治の経験の乏しさだった。「それを補ったのがエマニュエル氏だった」(マカリー氏)
米議会を含む各所にパイプを持つエマニュエル氏は政敵がどう考えているのかを大統領に伝え、政策の方向性を練る能力にたけていた。クリントン氏はこうした点を高く評価した。オバマ氏が首席補佐官に指名した一因でもあった。
米政界やホワイトハウスでの影響力を広げたその剛腕にはマイナス面もある。「会議では歯に衣(きぬ)着せず相手を罵り、まどろっこしい発言には我慢できない。およそ外交官にふさわしくない」。エマニュエル氏をよく知る民主党政権の元高官はこう明かす。
「彼はこれまで誰かに命令して人を動かすポストばかりをやってきた。駐日大使はそういう役職ではないことは早晩分かるだろう」。知日派の重鎮、アーミテージ元国務副長官はこう指摘する。
バイデン政権の対日政策の方針はおおむね定まっており、「エマニュエル氏がそれに大きく反するような行動をとることはない」(日本外務省幹部)と期待する向きもある。
個別の案件で影響力を及ぼす可能性はある。キャロライン・ケネディ駐日大使は広島訪問をオバマ大統領に強く進言し、その実現に一役買った。特にバイデン政権が「唯一の競争相手」と位置づける対中政策は日米間の緊密な調整が欠かせない。エマニュエル氏がどう日米の橋渡し役を務めるかが注目を集める。
もっとも、民主・共和両党の議席数が拮抗する上院での承認には不透明さもある。11~19年まで務めたシカゴ市長時代に起きた警察当局による黒人少年射殺事件への対応を問題視する向きもある。民主党を支持する左派団体は5月に駐日大使指名に反対する声明を出した。
一方、バイデン氏は駐中国大使に、ベテラン外交官であるニコラス・バーンズ元国務次官(65)を指名する人事も発表した。この10年あまりの駐中国大使はいずれも上院議員や知事などを務めた政治家が4人続いた。
外交経験が豊富で実務能力も高いバーンズ氏を起用したのは、バイデン政権の対中政策の意図を中国側により正確に伝える狙いがあるとみられる。