マーケット|SBI証券
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ソース: https://www.sbisec.co.jp/ETGate/?OutSide=on&_ControlID=WPLETmgR001Control&_PageID=WPLETmgR001Mdtl20&_DataStoreID=DSWPLETmgR001Control&_ActionID=DefaultAID&getFlg=on&burl=search_market&cat1=market&cat2=report&dir=report&file=market_report_fo_topic_210804_01.html&_scpr=ad%3d210805_sbiwk_all_hmail_01_06
保存日: 2021/08/06 0:11
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7月26日-27日に中国株の主要指数が急落し、市場に動揺を与えました。下げのきっかけは中国当局による規制強化です。今回の急落局面では大きく売られた銘柄もあれば、逆行高の銘柄も目立ちました。その違いは端的にいうと「ネット関連のハイテク」対「ハイテク製造業」です。今後のトレンドを示唆しうる一連の流れと背景を分析し、関連銘柄をご紹介します。
銘柄
株価(8/3)
52週高値
52週安値
BYD(01211)
259.00香港ドル
278.40香港ドル
68.80香港ドル
ニオ(NIO)
44.57米ドル
66.99米ドル
12.54米ドル
リーオート(LI)
32.54米ドル
47.70米ドル
14.31米ドル
シャオペン(XPEV)
42.76米ドル
74.49米ドル
15.00米ドル
ガンフォンリチウム(01772)
160.00香港ドル
178.00香港ドル
35.65香港ドル
SMIC(00981)
25.45香港ドル
33.00香港ドル
16.74香港ドル
華虹半導体(01347)
47.20香港ドル
64.65香港ドル
21.80香港ドル
薬明生物(02269)
126.20香港ドル
148.00香港ドル
50.63香港ドル
アリババ(BABA)
197.38米ドル
319.32米ドル
179.67米ドル
テンセント(00700)
446.00香港ドル
775.50香港ドル
422.00香港ドル
iS CSI300(02846)
38.80香港ドル
46.56香港ドル
33.38香港ドル
ヴァンエック・ベクトル中国AMC SMEチャイネクストETF(CNXT)
52.63香港ドル
58.76香港ドル
38.36香港ドル
• ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中国株が急落、なぜ?当局による規制強化が主因
規制強化で売られた銘柄と買われた銘柄:「ネット関連のハイテク株」VS「ハイテク製造業」
規制強化は「国策の転換」の現れ?そうならばトレンドは続く可能性
7月26-27日、中国の代表的な株価指数がそろって急落し、市場に衝撃を与えました。なかでも香港ハンセン指数が2営業日で8%下落、ハンセンテック指数は14%下落と、香港市場の下げが顕著でした。
図表2:ハンセン指数とハンセンテック指数の推移(過去1年)
• ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中国のハイテク株から構成されているハンセンテック指数の急落ぶりからすると、ハイテク株が調整を主導したようにみえますが、実際はハイテク株全面安の構図とは限りませんでした。インターネット関連のハイテク株が大幅に下落した一方、半導体関連株は逆行高となりました(図表4)。
なぜこのような違いが生じたのかは(2)のセクションで触れますが、ここではまず下落の要因を確認してみましょう。結論から申し上げますと、最大の原因は、中国当局が立て続けに、広範囲にわたる規制強化を実施したからです。そのペースの速さと範囲の広さ、規制の厳しさが予想を超えたため、リスク回避の売りを誘いました。
中国当局のこれまでの規制強化を振り返ってみると、今年7月初めの滴滴出行(DIDI)に対する調査を境に「様子」が変わってきています。昨年11月のアリババ(米国上場はBABA、香港上場は09988)傘下のアント・グループの上場延期から始まった規制強化は、その後主にネット大手を対象とした独占禁止をめぐる調査でしたが、滴滴出行の場合はデータの安全性をめぐる調査にまで広がっています。
図表3:中国当局による規制強化の主な出来事
年
日付
対象分野
主な出来事
2020年
11月3日
フィンテック
アリババ傘下のアント・グループの上場延期を決めた。
2021年
4月10日
ECサイト
アリババに対し、独占禁止法の違反で巨額の罰金を科した。
4月13日
ネット大手
中国当局はネット大手34社に対し、独占禁止法など法律を順守するよう指導。
7月2日
ライドシェア
滴滴出行に対し、サイバーセキュリティー審査を実施すると発表。
7月23日
不動産
不動産開発、不動産売買、賃貸市場、不動産管理などの不動産分野におけるさまざまな違法活動を3年以内に一掃することを目指すと表明。
7月24日
教育サービス
教育サービス分野に対する包括的規制を発表。学習塾の運営会社に対して非営利化を求めるほか、増資・株式公開などによる資金調達を禁止するとした。
7月24日
ネット音楽配信
テンセントに対し、独占的な音楽配信権を放棄し、50万元の罰金を支払うよう命じた。
7月26日
フードデリバリー
フードデリバリー・セクターの監督を強化する規制策を公表。フードデリバリー・プラットフォームに対し、配達員の待遇改善などを求めた。
7月26日
不動産
大手不動産デベロッパーに対し、年間の土地購入金額は売上高の4割を超えてはないと通達。
7月26日
インターネットセクター
インターネットセクターに対する取り締まりを開始すると発表。これまでのプラットフォーム企業に対する規制強化に基づき、さらにインターネットセクターに対し、規制強化を実施する。期間は半年で、市場秩序やデータの安全性などを脅かす違法行為などが対象となる予定。
8月3日
オンラインゲーム
• 政府系の経済参考報(ネット版)がオンラインゲームを「精神的なアヘン」・「電子麻薬」と批判する記事を掲載。テンセントのヒットゲーム「王者栄耀」などを取り上げ、規制の必要性を訴えた。直後、記事は一旦取り下げられた。その後、再掲載された記事では「精神的なアヘン」・「電子麻薬」の文言は削除された。
• テンセントはすぐ対応し、同日に未成年者の利用を制限する新たな措置を導入すると発表した。
• ※各種資料をもとにSBI証券が作成
そして、7月23日から26日にかけての規制強化は、その対象が不動産(一段の締め付け)、教育サービス、フードデリバリーまで広がりました。なかでも教育サービス分野では学習塾の運営会社に対し「非営利化」や資金調達の禁止を求めるなど、これまでになかった厳しい内容でした。わずか数日間で起きた締め付けの「嵐」に投資家は困惑しました。「中国当局はあらゆる分野で規制を強化するかもしれない、今まで以上に厳しくなるかもしれない」との懸念が強まり、リスク回避の売りを誘いました。
連日の株価急落(市場の反応)は当局にとって「想定外」だったようで、中国当局は7月28日の夜、一転して「火消しに」に回りました。中国証券監督当局は28日夜に大手投資銀行(世界的な資産運用会社や投資銀行も含む)の幹部と緊急オンライン会合を開きました。
ブルームバーグ報道によると、「一部の銀行幹部は教育産業を巡る政策について、的を絞ったものであり、他の業界で企業に打撃を与える意図はないとの認識を示した」としています。「あらゆる分野がターゲット」はまさに海外投資家にとって最大の懸念要因でしたが、当局はそれを否定した格好です。これを受け投資家心理は改善し、翌29日に中国株は大きく回復しました。
これで今回の「騒動」は一旦落ち着きました。しかしこれで安堵するにはまだ早いと思います。なぜならば、「的を絞ったもの」とはいえ、規制が強化されていることは事実で、当局はこれから規制強化を緩むとまでは表明していないからです。ただ今後は市場の反応を考慮すると中国証券監督当局の幹部はコメントしたそうです。
いずれにしても今後、規制強化の「的」(ターゲット)業種とそうでない業種が同時に存在することになりそうです。7月26-27日の株価暴落時に売られた銘柄と買われた銘柄を比較すると、市場は既にそれを織り込みはじめているようにみえます。つまり、投資家は規制強化のターゲット業種とそうでない業種を選別し、投資のチャンスを探ろうとしています。
図表4:7月26-27日のハンセンテック指数構成銘柄の騰落率上位・下位10銘柄
騰落率上位10銘柄
騰落率下位10銘柄
銘柄コード
銘柄名
業種・分野
騰落率
銘柄コード
銘柄名
業種・分野
騰落率
1
00981
SMIC
半導体
16.67%
01797
新東方在線(*)
オンライン教育
-35.47%
2
01347
華虹半導体
半導体
4.37%
06618
JDヘルスケア
オンライン医療
-35.40%
3
02382
舜宇光学
スマホ光学部品
-0.35%
00909
明源雲(*)
クラウド
-31.46%
4
00522
ASMパシフィク
半導体
-2.34%
09698
万国数拠服務
データセンター
-29.62%
5
02018
瑞声科技
スマホ音響部品
-5.93%
03690
美団
フードデリバリー
-28.99%
6
00772
UMヘルスケア(*)
ヘルスケアサービス
-6.92%
00241
アリババ・ヘルス
オンライン医療
-27.92%
7
01833
平安健康医療科技
オンライン医療
-7.11%
09999
綱易
オンラインゲーム
-24.62%
8
01810
小米
スマホメーカー
-7.59%
09626
ビリビリ(*)
動画配信サービス
-22.07%
9
00992
レノボグループ
パソコンメーカー
-8.38%
02013
微盟(*)
ソフトウェア
-21.73%
10
00285
BYDエレクトロ
電子機器
-9.59%
00268
金蝶国際
ソフトウェア
-19.26%
• 注:(*)印の銘柄はSBI証券では取り扱っておりません。
• ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
7月26-27日のハンセンテック指数構成銘柄の騰落率上位・下位10銘柄を確認してみると、騰落率下位(最も株価が下落)には、オンライン教育関連の新東方在線(01797)やフードデリバリーの美団(03690)など当局が規制を強化している業種でした。一方、逆行高となった銘柄にはSMIC(00981)や華虹半導体(01347)など当局が国産化を推進している半導体関連株が目立ちます。
なお、中国当局は8月3日に自動車向け半導体の販売業者による価格つり上げの疑いについて調査していると明らかにしました。これを受け、中国本土の関連株が急落し、香港上場の半導体株も連れ安しました。今回の措置は半導体不足を背景とした中間業者の買い占めや価格つり上げなどに対する取り締まりである点からすると、半導体メーカーまで売られたのは一部投資家の過剰反応のようにみえます。中間業者に対する取り締まりはむしろ半導体不足を浮き彫りにしており、中国当局がその問題を重視しており、対処していく意向を示していると思います。
7月26-27日の急落に話を戻しますと、香港市場だけでなく中国本土市場でもハイテク株のなかで明暗が分かれました。中国本土市場の場合は、半導体に加え、新エネルギー車や脱炭素の関連株なども逆行高となりました。中国株全般でみた場合、今回の調整局面で売られた銘柄と買われた銘柄の違いは、「ネット関連のハイテク株」か、それとも「ハイテク製造業」かでした。この動向が続くかどうかは、今後の政策動向にもよりますが、中国本土市場では中長期トレンドになり得る要素が秘めているとの見方が増えています。
世界株式市場では「FRBには逆らうな」という格言がありますが、中国では「国策に逆らうな」という言葉があります。今回の立て続けの規制強化を受け、中国国内市場では規制強化を「国策の転換」として捉える向きもあります。背景には、以下2点が挙げられます。
1)規制強化の対象となっている業種には共通点がある。
2)規制強化は想定より長引く可能性があることから、規制強化は単なる「ネット大手叩き」のような単純なものでなく、政策の方向性の転換を示唆している可能性が高い。
図表3をもう一度確認してみると、これまで規制強化の対象となっている分野は、フィンテックやECサイト、ライドシェア、教育サービスなどインターネット関連のニューエコノミーが目立ちました。これらの産業は過去20年、需要の急拡大や比較的緩い規制環境を背景に、そして企業のイノベーションや多額な資金調達により急速に規模を拡大しました。
しかし、アント・グループの事件をきっかけに、中国当局はこれらのニューエコノミー(特にトップ企業)の「巨大化」に対し、強い警戒を示し始めました。その後の動きからすると、中国当局はインターネット関連のニューエコノミーが中国経済にもたらした功績や利点という「光」の部分よりも、産業発展の不均衡や貧富の拡大、データの安全性といった「影」の部分に目を向け、それを是正しようとしているようにみえます。
産業発展の不均衡や貧富の拡大をもたらしたという意味では、不動産にも共通しています。オールドエコノミーの不動産が規制強化の対象となっているのはそれが主因と考えられます。例えば、ともに最も厳しい措置が敷かれている不動産と教育サービスには、1つの共通点があります。それは、いずれも国民の生活コストを引き上げ、不平等を招いている点です。不動産の場合は住宅コストの上昇、教育サービスの場合は学習塾を通じた教育費の負担増です。民生にかかわっているこれらの分野に対し、当局がすぐに規制を緩むことはなさそうです。
産業発展の不均衡については、ここ1-2年の米中対立で一層顕在化しました。なぜならば、ファーウェイやSMIC(00981)などハイテク製造業に対する米国の制裁で、中国の「アキレス腱」がクローズアップされたからです。ハイテク産業でみた場合、中国はインターネット関連ではアリババ(BABA、09988)やテンセント(00700)を筆頭に世界でも競争力の高い企業が数多くありますが、製造業では世界に通用する企業が少ないのが現状です。
中国政府にとってみればインターネット関連分野でいくら強くなっても米国を追い越して世界最強国にはなれません。既にある程度強くなっているインターネット関連産業に対する規制強化で、ハイテク製造業へ投資を促そうとする動きは、世界の強国を目指す中国からすると当然の流れかもしれません。
他方、消費やサービス業など内需の底堅さがあるからこそ、中国は米国に強気に出られます。そう考えると、当局はサービス業のインフラ的な存在ともいえるインターネット関連産業を「叩き潰そうとしている」とも思えません。米国上場の中国インターネット関連株に連動するETFが7月に過去最多の資金流入となった(図表5)ことは、そう思う投資家も少なからずいるということを示しています。おそらく今回の下落を受け、インターネット関連株のバリュエーションが一段と低下したこともあり、押し目買いが入ったとみられます。
図表5:KraneShares CSI中国インターネットETFの終値と資金流出入(日次ベース)
• ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
一方、今回の一連の動きが株式市場に与えるインプリケーションは、今後、政策の重心はよりハイテク製造業などにシフトしていく可能性が高いことです。インターネット関連株への押し目買いもさることながら、中国本土投資家のように国策に沿った投資も取り入れるべきでしょう。その国策を考える上で、ここ数年の米中対立の発端ともなった「中国製造2025」(中国の重要な産業政策)をもう一度確認する必要があると思います。「中国製造2025」の10の重点分野は下記の通りです。
図表6:「中国製造2025」の10の重点分野
重点分野
1
次世代情報技術(半導体、5G)
2
高度なデジタル制御の工作機械・ロボット
3
航空・宇宙設備
4
海洋エンジニアリング・ハイテク船舶
5
先端的鉄道設備
6
省エネ・新エネルギー自動車(EVなど)
7
電力設備
8
農業用機械設備
9
新素材
10
バイオ医薬・高性能医療機械
• ※「中国製造2025」をもとにSBI証券が作成
産業政策の重点分野のうち、中国政府が特に強化している半導体や電気自動車(EV)などは今後、より注目を集めるでしょう。以下は、香港および米国上場の関連銘柄の株価水準や業績予想を示したものです。一部のネット大手も含まれています。なお、ハイテク製造業の場合、香港や米国よりも中国本土市場に上場している企業が圧倒的に多いです。今回の「事件」を経て、海外投資家はよりA株を注目するとみられます。ハイテク製造業に連動するETFが少ないのが現状ですが、A株への注目度の高まりはA株市場全体にも恩恵をもたらすでしょう。合わせて主なA株のETFもご紹介します。
図表7:一部ハイテク製造業とネット関連株の株価水準と業績予想(注)
• 注:業績予想はBloomgergがまとめたコンセンサスで、増益率はEPSベース(調整後)です。
• ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成