ETFの債券シフトが促す適温相場(NY特急便)(写真=ロイター)
作成者:
ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN12DBX0S1A710C2000000/
保存日: 2021/07/13 8:05
ダウ平均は12日も過去最高値を更新した=ロイター
世界の上場投資信託(ETF)市場の運用先が債券にシフトしつつある。2021年4~6月には世界で841億ドル(9兆円強)の資金が債券型ETFに流入。7月は株式型を上回る人気となっている。財政出動と金融緩和であふれたマネーが、比較的利回りのある債券へ向かう構図だ。景気回復下でも金利上昇を抑えており、米国株が緩やかながら最高値を更新する土壌にもなっている。
リッパーの集計によれば、21年4~6月の債券ETFの流入額は四半期ベースで過去最大だった20年4~6月(1077億ドル)に次いで2番目の大きさとなった。7月も9日までの6営業日の流入額が51億ドルと高水準で、株式ETFの流入額を小幅に上回る。
7月に入ってからの特徴は、やや利回りの高い債券にマネーが向かっていることだ。米国債なら超長期債のETFが人気だ。残存20年以上の米国債で運用する米ブラックロックのETFには7億ドル以上の資金が入った。金利は2%前後と、中短期債より高い利回りが確保できる。年明けよりも金利が上昇したことで年金など機関投資家からの需要も強まっている。
国債以外では米地方債や米社債への流入が目立つ。格付けがトリプルB未満のハイイールド社債のほか、トリプルB以上からトリプルB未満へ下落した「フォールン・エンジェル」債にも人気が集まる。新興国債券や欧州社債など、米国外の債券にもETFマネーが流れている。
起こっているのは「イールドハンティング」だ。市中のマネーの膨張が続く中、信用リスクや流動性リスクが高まっても、少しでも金利の高い債券を求める投資家が増えている。1~3月は米国債の金利が急上昇(価格は下落)したため、金利上昇が落ち着くまで様子をみていた投資家が動き出している。結果的に世界の企業が低金利で資金を調達できる環境が続き、株価も支えられるという構図になっている。
米連邦準備理事会(FRB)は資産購入の減額(テーパリング)の議論を始めている。早ければ年内にも実際の減額に着手するとの予想も出始めている。それでも、「市場ではFRBが金融緩和の修正を進めようとすると、長期的な成長期待やインフレ期待が弱まるため、(10年債など期間の長い)金利は上昇しづらいとの見方が多い」(シティグループのアンドリュー・ホレンホースト氏)
とはいえ、金利が今後さらに低下していくとの見方は少数だ。米モルガン・スタンレーのマシュー・ホーンバック氏は先週の金利低下について、「経済成長率がピークを超えたとの思惑から、持ち高解消の債券買いが強まった」と指摘。こうした悲観的な見方はいずれ弱まるとして、緩やかな金利上昇シナリオを維持する。
いずれにせよ1~3月に強まった長期金利急上昇への警戒は大きく和らいだ。最近は強い経済指標が出ても、米長期金利はあまり上昇しないどころか、低下することさえある。
12日、ダウ工業株30種平均は続伸し、先週末に続いて史上最高値を塗り替えた。景気回復と低金利がほどよく並行する「ゴルディロックス(適温相場)」という言葉が最近市場で増えている。(ニューヨーク=後藤達也)