金 輝き続くか、インフレ懸念 仮想通貨急落で見直し (写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB21FCI0R20C21A5000000/
保存日:2021/6/1 2:00 [有料会員限定]

金は5月から上昇トレンドに=ロイター

金相場が騰勢を強めている。インフレ懸念の高まりで米実質金利が低下基調を強め、金利のつかない金の投資妙味が増したためだ。「デジタル・ゴールド」といわれ、金の代替投資先とされてきた暗号資産(仮想通貨)の急落も金の見直しにつながっている。

国際指標となるニューヨーク市場の金先物は25日、約4カ月半ぶりに1トロイオンス1900ドルの大台に乗せた。3月に同1673ドルと直近底値をつけた後、5月上旬に1800ドルを回復。その後、わずか3週間弱で高値に達する急伸ぶりだ。足元では1910ドル前後と約5カ月ぶりの高値圏で推移する。

金相場は、米長期金利から市場が予想する将来のインフレ率(期待インフレ率)を引いた実質金利と逆相関性が強い。実質金利のマイナスはお金の価値の実質的な目減りを示し、実物資産である金の価値が相対的に高まる。インフレ期待が高まれば、ヘッジ(回避)手段として金の投資需要も大きくなる。

米物価連動債から算出される10年後の期待インフレ率は足元で上昇が一服しているものの、5月上旬に2.5%台と約8年ぶりの高水準をつけた。いまは2.4%台で推移する。年初以降、米長期金利、期待インフレ率とも上昇基調だったが、4月以降は長期金利が頭打ちとなり実質金利が低下。金相場の上昇につながった。中国などの宝飾品需要の回復も相場を下支えしている。

2020年に金が史上最高値をつけた際、新型コロナウイルス禍を受けた米国の金融緩和によって長期金利が下がり、実質金利が低下した影響が大きかった。今年と昨年で金相場上昇につながった実質金利の低下要因は異なる。

違いが表れるのは、大阪取引所に上場する円建ての金先物価格だ。5月の高値を20年末の価格と比べると、ニューヨークが1%高に対し、国内は7%高だ。年初以降、米長期金利の上昇による日米金利差の拡大で円安・ドル高が進み、円建ての国内の金に割安感が出たためだ。

「車の購入にビットコインを使用するのを一時停止した」。米テスラ創業者イーロン・マスク氏の発言や、中国当局の規制強化の姿勢でビットコインなど仮想通貨が急落したことも金相場が騰勢を強めた要因だ。ビットコインは4月の高値から1カ月で半値となった。「インフレヘッジ手段として金と同様に期待されていた仮想通貨が疑念を抱かれた」(日本貴金属マーケット協会の池水雄一氏)ことが、金の見直しにつながったようだ。

1~3月に94億ドル(約1兆円)と、四半期としては13年以来の流出額を記録した金上場投資信託(ETF)は5月以降流入に転じた。仮想通貨の投資商品が年初来初めて資金流出となった時期と符合している。「ビットコイン急落がリスクオフを醸成し、安全資産とされる金買いも誘発した」(マーケットアナリストの豊島逸夫氏)

金相場の上昇は今後も続くのか。「財政出動による米国の財政赤字拡大が意識されると、金は(20年9月以来の)2000ドル台をうかがうようになる」(豊島氏)との見方がある。一方、野村証券の小清水直和氏は「米雇用の回復などで今年後半に向けてインフレ期待が高まるとみている」とし「米連邦準備理事会(FRB)が(金融緩和に積極的な)ハト派姿勢を弱めれば名目金利が期待インフレ率以上に上がり、実質金利のマイナス幅が縮小する」と、金相場に逆風となる可能性を指摘する。