[FT]ビットコイン乱高下 高まる規制強化観測(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM202UM0Q1A520C2000000/
保存日:2021/5/20 15:02 [有料会員限定]

暗号資産(仮想通貨)が乱高下し、関連株が売られている。年初から価格が急騰していたデジタル通貨に関し、中国の当局が使用規制を示唆したことを受けた。

ビットコインの売買ができるATMの画面。仮想通貨の乱高下が一段と激しさを増している=ロイター

ビットコインは一時30%下げて3万101ドルの安値をつけた後、8%弱安の水準まで戻した。

他のデジタル通貨も大量の売りにあい、過去1カ月で上昇が顕著だった仮想通貨のイーサリアムは一時、価値の4分の1を失った。その後、20%強まで下げ幅を縮めた。

仮想通貨のデータ提供会社bybt.comのデータによると、過去24時間で86億ドル以上のポジション(持ち高)が解消された。

市況が急変したのは、仮想通貨を支払い手段として受け入れることや、関連のサービス・商品を提供することに関して、中国人民銀行(中央銀行)が金融機関に警告を発した後だった。投資家の間で、これまで規制の外で市場を拡大してきた仮想通貨に対し、各国の当局が管理を強化するという懸念が広がった。

仮想通貨の支持者として大胆な発言をしてきた米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は電気自動車の購入代金の支払いにビットコインを認めるとしてきたが、先週、仮想通貨の環境負荷が大きいとして、その方針を撤回した。資産クラスとして認知されつつあった仮想通貨の長期的な未来に対する不安が強まった。

マスク氏は19日のツイートで、テスラのビットコイン投資は長期的で、保有分を売却するつもりはないと明らかにした。

仮想通貨関連企業に多額の投資を行ってきた米運用会社アーク・インベストメントの創業者、キャシー・ウッド氏も、ビットコインへの支持を改めて表明した。米ブルームバーグテレビのインタビューで、「今は内省の時。こうした時期を経てモデルを磨き上げる。(仮想通貨に対する)我々の信念は揺るがない」と語った。

市場の状態は極めて不安定で、ビットコインの価格は相当な振れ幅で乱高下した。大手仮想通貨交換業者のバイナンスとコインベースでは、ユーザーによる仮想通貨の売却注文が殺到し、技術的な障害が発生した。

乱高下はその他の仮想通貨にも波及し、柴犬がモチーフで、当初「冗談」で作られて流通するようになったドージコインは一時、40%急落した。

仮想通貨の売買や相場に依存する米企業の株式も朝方の取引で急落し、その後、値を戻した。コインベースの株価は一時12%下落し、上場来最安値をつけた後、7%安の水準まで持ち直した。一方、ビットコイン投資を手掛けるソフトウエア会社のマイクロストラテジーは15%下げた後、反発して約8%安で取引を終えた。

仮想通貨のマイニング(採掘)業者マラソン・デジタル・ホールディングスは6%安で取引を終えた。起業家のマイケル・ノボグラッツ氏が運営する投資会社ギャラクシー・デジタル・ホールディングスは7%下げた。

中国人民銀行は18日遅くに出した声明で、仮想通貨は「本物の通貨ではない」とし、「市場で通貨として使われるべきではない。通貨としては使えない」と述べた。最近の価格高騰については「投機」と表現している。

中国人民銀行は仮想通貨は通貨として使うべきではないという見解を表明した=ロイター

中国は独自のデジタル通貨を流通させる準備を進めており、今回の展開は、仮想通貨の分野での金融機関の活動を規制しようとする中国当局の取り組みを反映している。米国を含む多くの市場では現在も、金融機関がこの分野に関与することは容認されている。

英法律事務所ピンセント・メイソンズの香港駐在パートナー、ポール・ハズウェル氏は中国の取り締まりの背景について、「中国が独自のデジタル人民元を持っている、現金流出の観点で統制が効かない、人々が詐欺に遭うのを防ぐ必要がある」などの要因をあげる。

仮想通貨に対する中国の圧力が勢いを増したのは2017年、それまで世界の売買高の過半を占めていた中国国内のビットコイン取引所を閉鎖した時のことだ。

政府のデジタル人民元計画では、中銀がすべての通貨取引の記録をリアルタイムで掌握できるようになり、アント・グループや騰訊控股(テンセント)が運営する巨大なフィンテック・プラットフォームに匹敵する公的なキャッシュレス決済の仕組みが誕生する可能性がある。

米国では、規制当局のもと、個人投資家が暗号通貨を簡便に購入することが許されており、暗号通貨交換業者の公開市場での上場も認められた。

ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースといった米国の大手金融機関は富裕層向けのウェルスマネジメント部門の顧客に対し、仮想通貨に投資する商品を提供しようとしている。だが、金融規制当局は、消費者保護体制を強化する必要性を指摘している。

欧州中央銀行(ECB)は最新の金融安定報告書で、ビットコインは価格のボラティリティー(変動)が大きく、リスクが高いとしたうえで、「膨大な炭素排出量が伴ううえ、不正な目的に使用される可能性もある」と警告した。ただし、ユーロ圏では、ビットコインへのエクスポージャー(投資残高)が小さく、域内の金融機関の安定性に対するリスクは限られていると付け加えた。

チューリップバブルや南海泡沫事件に匹敵

直近では急落したとはいえ、過去12カ月でみると、ビットコインの価格は300%高騰している。ECBは、ビットコイン価格の急騰は17世紀、18世紀の「チューリップバブル」や「南海泡沫(ほうまつ)事件」といった過去の金融バブルをしのぐ規模に達したという見解を明らかにしている。

「今後数週間の間に、他の規制当局と政策立案者が(中国の対応と)同じように、仮想通貨の投機リスクやボラティリティーについて投資家に警告を発してもおかしくない」。コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の仮想通貨担当グローバルヘッド、ヘンリー・アースレイニアン氏はこう話す。

「現実的には、この(仮想通貨)分野には金融機関と機関投資家が継続的に参入しており、近い将来にその勢いが衰える可能性は低い」。

By Thomas Hale and Tabby Kinder in Hong Kong, and Philip Stafford in London

(2021年5月20日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)