慎重姿勢の米投資家 「買い手」は企業に(NY特急便)(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN17D690X10C21A5000000/
保存日:2021/5/18 7:09 [有料会員限定]

アマゾンは大型起債の資金使途に自社株買いをあげた=ロイター

米国株が高値圏でさえない展開になっている。17日の米株式市場ではダウ工業株30種平均など主要3指数がそろって下落した。とくにハイテク株の軟調ぶりが目立つ。投資家が慎重姿勢を強めるなか、別の「買い手」に関心が集まっている。

「強気ムードが急速に後退した」。米調査会社ビスポーク・インベストメント・グループは17日、顧客向けメモで注意を呼びかけた。引用したのは全米アクティブ投資家協会の週間調査。会員の株式買い持ち高を示す指数(12日時点)が急落し、2020年4月以来の低水準となった。週間下落率としては過去4番目の大きさだ。

個人投資家も慎重姿勢を強めてきた。全米個人投資家協会の週間調査によると、「向こう6カ月の株式相場を強気にみている」と回答した比率は36.5%にとどまり、20年10月以来の低さとなった。わずか1カ月前には56%を超え、歴史的に見ても高い水準だったが、投資家心理は様変わりしている。

投資家の慎重姿勢はハイテク株の動向に映る。ナスダック総合株価指数は先週、4週連続の下落となった。続落記録としては19年8月以来の長さだ。相場全体が崩れる展開にはなっていないが、長らく米株のけん引役だっただけに「今後は注意が必要」(米ミラー・タバックのマシュー・マリー氏)との声もある。

インフレと米連邦準備理事会(FRB)による金融緩和の行方、財政出動の規模と財源議論……。投資家が慎重姿勢に転じたのは、複数の不透明要因によるものだ。すでに株価が歴史的に見て割高な水準にあるだけに動きにくい。そこで新たな買い手として期待されているのが「企業」だ。

ゴールドマン・サックスによると、米企業が1~4月に発表した自社株買い実施計画は合計で4840億ドル(52兆円)に達し、同期間としては2000年以降で最高額だった。企業は新型コロナウイルス禍で手元資金を通常より厚めに確保していたが、株主還元に振り向け始めた形だ。今週もシスコシステムズなど自社株買いに積極的な企業の決算を控え、市場の期待は高い。

自社株買いのけん引役は大手ハイテク企業だ。アップルは4月下旬、自社株買いプログラムを追加で900億ドル増やした。アマゾン・ドット・コムは10日、総額185億ドルの社債発行を実施し、資金使途に借り換えと自社株買いをあげた。アップルも2月に起債済みだ。

空前の自社株買いブームの裏で気になるデータもあった。

RBCキャピタル・マーケッツは3日までに開かれた決算説明会(292社)の文字起こしデータを基に、経営者の発言動向を調べた。手元資金の活用として全体の46%の会社が自社株買いに、44%が配当に言及した。一方、設備投資をあげた企業は15%にとどまった。

自社株買いは短期的に株価を支える効果がある。ただ将来に向けた投資なしには長期的な株価成長は見込めない。FRBの金融緩和と政府による財政出動、ワクチン接種の広がりで、高い経済成長が予想されているにもかかわらず、経営者の「アニマルスピリッツ」が回復していないとすれば、少し気がかりだ。

(ニューヨーク=宮本岳則)