FRB議長、再任の条件は パウエル氏に左派の壁(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB121950S1A510C2000000/
保存日:2021/5/17 5:00 [有料会員限定]
パウエルFRB議長(右)の任期が残り9カ月となり、再任の可否が議論となる。ブレイナード理事(左)は後任候補の1人=ロイター
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の任期が残り9カ月となり、再任の是非を巡る議論が動き始めた。バイデン米大統領は早ければ8月中にも次期議長人事を決める。金融市場はパウエル氏の金融政策運営を評価するものの、人事を左右する民主党左派から異論が出る可能性もある。
「現時点ではイエスでもノーでもない」。4日、米政治専門紙「ポリティコ」のイベント。ホワイトハウスのバーンスタイン経済顧問は、パウエル氏再任の可否を問われて回答を拒み続けた。バーンスタイン氏はバイデン氏の副大統領時代からの側近。バイデン氏自身もパウエル氏と直接会談する機会を先延ばししており、親密な関係をつくるのをあえて避けている。
2018年に就任したパウエル氏は、22年2月に議長としての任期が切れる。FRB議長の人選は夏に本格化し、通例なら遅くとも秋に決まる。
米メディアの調査では、金融関係者の76%がパウエル氏の再任を期待する。同氏は長期の金融緩和を宣言。ウォール街も歴史的な株高でその恩恵を受けるためだ。
ただ、人事の承認権がある上院では、民主党系左派からの評価が高まらない。代表格であるエリザベス・ウォーレン氏やバーニー・サンダース氏は、18年のパウエル氏の就任時に反対票を投じている。上院の勢力図は民主、共和が完全に拮抗しており、FRB議長の承認プロセスは不安定だ。パウエル氏が再任を目指すには、リベラル色を鮮明にする「左旋回」が欠かせない。
例えば金融規制問題だ。左派色の強いイエレン前議長は、財務長官に転じてウォール街の規制強化に動く。一方でトランプ前政権が指名したパウエル議長はもともと規制緩和論者の共和党員であり、逆に金融規制を段階的に緩めてきた経緯がある。
経済格差問題も争点だ。民主党左派は黒人の失業率改善など、人種問題の解消策をFRBに求める。低所得層は民間銀行の口座を持てないままで、民主党内には格差是正へFRBが家計に口座を直接提供する過激案すらある。
左派は温暖化対策も注視する。欧州中央銀行(ECB)は資産購入の対象に「グリーン資産」を加えて企業の環境投資を後押しするが、パウエル体制は出遅れたままだ。
民主左派がパウエル氏を支持しなければ、再任指名の道は途端に狭まる。その場合の「ポスト・パウエル」の筆頭は、現理事のブレイナード氏だ。同氏はパウエル体制でも一貫して金融規制の緩和に反対してきた筋金入りのリベラルで、金融政策面でもイエレン氏に連なるハト派の代表格。夫は知日派外交官のカート・キャンベル氏で、ブレイナード氏自身もバイデン政権の財務長官候補だった。
22年秋には中間選挙がある。民主党が敗北すればバイデン体制は早くも「レームダック」となりかねない。政権として左派の有権者の支持を確実に得るために、ブレイナード氏らリベラル色の強い新議長を起用する可能性はある。トランプ前大統領の風圧をくぐり抜けたFRBだが、再び政治の季節を迎えることになる。
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