ソフトバンクG孫氏、テック相場によらず「我が道行く」
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC13CZK0T10C21A5000000/
保存日:2021/5/14 2:00 [有料会員限定]

インタビューに応じる孫正義氏(13日午後、東京都港区)

ソフトバンクグループ(SBG)の2021年3月期の連結純利益(国際会計基準)は4兆9879億円となり、国内企業で過去最高を更新した。孫正義会長兼社長は13日に日本経済新聞社のインタビューに応じ、テクノロジー株市場の相場変動によらず、スタートアップ企業への投資を加速し「我が道を行く」と述べた。主なやりとりは以下の通り。

――約5兆円の純利益について、受け止めを聞かせてください。

「胸躍る感じもしないし、達成感はない。これからのSBGは四半期ごとに(損益が)1兆円、2兆円とプラスにもマイナスにもなるのが『ニューノーマル』だ。『ビジョン・ファンド』で約6兆円の上場株を持ち、2~3日で市場が10%動けば変動額は6千億円になる。だから四半期で1兆円くらいの差は当然ありえる」

「3カ月前の決算会見では、(SBGを)『金の卵の製造業』に例えた。IPO(新規株式公開)や株式を売却する対象企業が金の卵なら、20年度は14社。21年度ははるかに超える数になる。(投資先である)『仕込み』の白い卵は約200社あり、直近3カ月で60社増えた。まだ途上だが、毎年数十社の上場が生まれるエコシステムを作る」

――米シェアオフィス大手ウィーワークの巨額損失から得た教訓は。

「ウィーワークは(創業者で前最高経営責任者の)アダム・ニューマン氏を高く評価しすぎた。事故があったら家族が自動的に(地位を)継ぐなど創業者の要求の多くを安易に受け入れすぎた。もう一つは高く買いすぎたと。ただ会社自体はあと1年前後で利益が出ると見込んでいて、中長期では成功すると思う」

――2021年3月には出資先の英金融会社、グリーンシル・キャピタルが破綻しました。グリーンシルがビジョン・ファンドの一部投資先に融資し、利益相反ではなかったかとの指摘もあります。

「グリーンシルのビジネスモデルは素晴らしいが、融資先に偏りや過剰な融資があった。そこは我々が直接コントロールできる部分ではなかった。グリーンシルの融資活動のなかに、一部我々の投資先の会社も入っていた。直接のやりとりを僕は知らないが、我々も容認してしまったという点で色々と反省すべき点がある」

「(中国の)アリババ集団に投資した時も、真っ赤っかの大赤字だった。一歩間違えれば破綻していた。結果論では良かった、悪かったと後付けできるが、投資段階で全部を予知するのは難しい。出資段階で、224社ある投資先の95%くらいが真っ赤っかで、さらに赤字が増え続けている状態だった。そこに投資するには勇気がいる。従来の金融機関の発想では意思決定しづらい。(SBGは)テクノロジーのバックグラウンドが理解できる。こうすればうまくいく、というイマジネーションを働かせなければ。ただ、一歩間違えば奈落の底だ」

「相場(による変化)に対して、喜びすぎたり落ち込みすぎたりするのは良くない。日本は重厚長大型の製造業や金融業への神話が長く続き、今の低迷がある。20年間で世界の金融業(の時価総額)は10倍、製造業は12倍になった。一方ネット企業は2千倍。その間にリーマンクライシスがあり、米大統領が何回も代わり、金融政策も変わった。誰が大統領だから(相場が)上がった下がったというのは『2千倍』の中では誤差だろう」

――世界では特にテクノロジー株で、バブルを指摘する声もあります。

「金利や政策の影響で必要以上に2~3割高い、安いということは常にある。大事なのは10~20年単位で見て伸びるのかだ。重厚長大型は付加価値が低く、労働集約型になりやすい。これは本音で言っている。コモディティーになれば、労働賃金が低く資源が採れる国に移っていく。付加価値は最もイノベーションが起きているところに一番高く出る。一時的に株価が上がったとか下がったとか、そのような『ノイズ』は聞いたふりして聞かずに我が道を行く」

――SPAC(特別買収目的会社)による上場について、お考えを聞かせてください。

「将来の事業予測を堂々と説明した上で出て行けるのがSPACのメリット。我々の投資先には赤字の会社が多く、『2~4年後にこう伸びるはずだ』と開示して出て行く。一般的なIPOはルール上、開示できない。ただIPOの方がより多くの投資家に門戸を開くことができ、それを望む(SBGの)投資先は多い」

――「SBGは投資会社になった」と宣言しましたが、内心はただの投資会社じゃないと思いつつ、説明が面倒ではしょっているのでは。

「その通り。そもそも経営とはなんぞやでいうと、一番大事な意思決定は、伸びる分野、縮小する分野を見極めて経営資源を配分していくことだ。基本的に会社が(売上高で)1000億円、2000億円を超えたら、投資会社的な発想で考えるべきだ。経営者はポートフォリオ・マネジメントをやっていかないといけない。それをやったのがビジョン・ファンドだ」

「普通の投資会社は1~3%の株を持って、出資先を非常に多く(の分野)に分散する。だから金利とかが重要なファクターになるし、他の鳥(投資家)の羽音に驚いて一緒に飛んでいく。僕らは情報革命という方向にのみ飛んでいく群れで、ほとんどの場合が筆頭株主。20~40%の株を持って、経営陣と一緒に知恵を出して、ビジネスモデルを鍛え上げる。起業家同士のやりとりで明確なシナジーを出し合う。単なる投資会社と違う」

――「群」の戦略については昔から発言されてきました。

「もし宮本武蔵が織田信長と一対一で向かい合ったら、信長に『あんた弱いね』と言うと思う。でも信長は一瞬でも武蔵をライバルとは思わないだろう。優れた剣豪であっても(信長にとっては)戦う競技が違う。おこがましいが、僕はどんなに優れた世界トップの会社も一瞬もライバルだと思ったことはない」

「『自分のテクノロジーや商品を世界一にしたい』というのは、僕にとっては『最高の鉄砲を作りたい』ということ。僕は群戦略で、優れた群れで情報革命を実現しようと思う。もし僕がいなくなっても、群れを動かす仕組みは300年続くかもしれない。僕はそっちで天下をとりたい」

――後継者選びの進捗はいかがですか。

「60代の間に後継者候補をある程度絞り込み、バトンを渡す。ただ69歳で引退じゃなく、何らかの形でSBGにかかわり続けたい。投資には大して体力はいらない。細かいところは起業家たちに任せ、群れをどうアレンジするかだ。でも、後継者と並走する期間は10年くらいほしいから、早く見つけなきゃいかんよなと。あまり時間がない」

――意中の候補はいますか。

「おそらく、SBGの起業家集団が500社、1000社と増えていくなら、その中にもしかしたらいる気がする。ビジョンを完全に共有でき、我々の業界のテクノロジーに対する強い関心と意欲があり、ファイナンスを理解していることが条件だ。それから、投資チームや管理部門など全体を掌握できるリーダーシップ。それぞれの事業は起業家がやるから、後継者はそれを理解して応援する。全体のバランスを見ることができる能力がいる」

――資産売却でキャッシュを獲得しました。資金はどのように使いますか。

「絞り込んでいるのは、完全にビジョン・ファンドだ。投資先は20年度に224社で、19年度は100社だった。300、400、500と増やしていく。その一点に集中している」

――英半導体設計大手アームを買収したようなM&A(合併・買収)の可能性は。

「今は全くそこに興味はない。僕の時間効率が悪くなる。それよりビジョン・ファンドで、群れをいっぱい育てる方が手離れが良い。自分で抱えるとぐっと集中して深く入り込まなきゃならないし、成功と失敗に劇的な差がある。いま投資チームが26できて、戦略と戦術を割り振って競争させている。『ハンティングに行け!』とマネージする方がはるかに効率が良い」

――MBO(経営陣が参加する買収)の可能性も報道されています。

「何だってありえるが、そこについて今コメントするべきじゃないと思う」

――若者や起業家に伝えたいことはありますか。

「命を燃やすならば、個人の願望や夢をはるかに超えて、100万、1千万、1億の人々の悲しみを減らすとか、幸せを増やすとか、そういうことに人生をかけられれば悔いがない人生になるのではないか。腹をくくれば、少々の困難は必要だ。僕は若いときから、あらゆる困難を今すぐ持ってきてくれと言っていた。その方が早く強くなれる。今でも思いは変わらない。人々が思っているより、私は大きな結果を出すと思う」

――情報革命でSBGはどんな存在になりますか。

「情報革命で、世界の人々にあらゆる分野で幸せをもたらしたい。がんで亡くなる、交通事故で亡くなる、心臓疾患で大勢の人が亡くなる。10億人以上の子どもたちが教育を受けられない。それらが過去になるようなことをなし遂げていく会社の集団。世界のあらゆる問題を解決していく最先端の技術者集団、起業家集団、圧倒的存在の集団を、僕は作れるんじゃないかなと。だがまだ(目指すところの)2合目くらいだ」

(聞き手は編集委員 杉本貴司)