キャッシュレス後進国・日本も変革期 中小店舗開拓カギ
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0765I0X00C21A4000000/
保存日:2021/5/11 15:00 (2021/5/11 17:17 更新) [有料会員限定]
コロナ禍で日本のキャッシュレス化への機運が高まっている
キャッシュレス後進国と呼ばれてきた日本でも「脱現金」の動きが本格的に広がり始めた。新型コロナウイルス禍でスマートフォンを通じた少額決済や電子商取引(EC)が幅広い年齢層で身近になり、2020年のキャッシュレス比率は3割台に迫る。他の先進国と肩を並べるには、導入に慎重な中小店舗の開拓がカギになる。
【前回記事】「脱現金」世界で加速 デジタル決済、5年で7割増
「(18年の)開始当初は日本でQRコード決済が本当に普及するのか懐疑的な意見もあった」。4月28日、Zホールディングス(HD)の決算説明会で川辺健太郎社長は、傘下のスマホ決済「PayPay(ペイペイ)」がわずか2年半で周囲の予想を超えて成長したと強調した。
ペイペイの登録者数は3900万を超え、後発ながらQRコード決済で独走状態にある。親会社のソフトバンクの資本力と営業網も武器に、中小店舗の決済手数料を抑えて加盟店を広げた。21年3月単月の決済回数は「(Suicaなど)交通系ICカードに匹敵する規模に成長した」(ZHDの川辺社長)という。
ニッセイ基礎研究所の推計によると、20年のキャッシュレス決済比率は29%程度と5年で11ポイント上昇した。政府は25年までに40%に引き上げる方針を掲げる。日本のキャッシュレス比率は6~9割に上る隣国の韓国や中国に比べ大きく見劣りしていた。ATMの普及で現金の入手が容易なほか、盗難やニセ札が少ないといった事情が大きかった。
それが日本でもコロナ禍で接触感染を回避する行動変化が起きた。三井住友カードによると、70歳以上の決済金額のうちEC比率は21年1月時点で21%と、1年で2倍近くなり年代別の伸び率が最も大きくなった。コロナ禍の20年12月に同社の決済件数は過去最多を更新した。
コロナ禍の収束後もキャッシュレス化の流れを止めないためには、実店舗での普及が不可欠だ。20年のクレジットカード会社の取扱高はコロナ禍で前年比2%減と11年ぶりのマイナスを記録した。ECなどでのデジタル決済ではカード利用も増えているが、日本全体の物販に占めるEC化率はまだ1割に満たない。
導入が遅れる中小店舗を開拓するには、加盟店が払う手数料体系の開示など透明性を高める必要がある。さらに決済以外の付加価値の訴求も欠かせない。ペイペイの場合は決済だけでなく、売り上げの入金までの期間を短縮したり、テークアウトの注文システムを開発したりして加盟店を広げた。
ネット勢もリアルの開拓に動く。オンライン決済大手の米ストライプは医療情報サイト運営のエムスリーと組み、月内に医療機関向けの決済サービスを始める。スマホ上で受け付けから決済まで全て完結し、薬局に処方箋を送信できる。コロナ禍をきっかけに弾みがついたキャッシュレス化。この流れを断ち切らないためには、消費者や実店舗の利便性を高める業界全体の創意工夫が要る。
(フィンテックエディター 佐藤史佳、駿河翼、ニューヨーク=伴百江が担当しました)