ソフトバンクG、利益「世界3位」とバフェット氏の背中(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB109J70Q1A510C2000000/
保存日:2021/5/12 2:00 (2021/5/12 5:34 更新) [有料会員限定]
ソフトバンクグループ(SBG)が12日、2021年3月期の連結決算(国際会計基準)を発表する。純利益は4兆9000億円強となり、20年度決算では世界3位になった公算が大きい。もっとも、時価総額などで見れば世界大手企業の背中は遠く、今後は安定して利益を出す体制の構築が求められる。同日の決算会見で、孫正義会長兼社長がどう将来の戦略を語るのかが注目される。
SBGの前期の純利益は米アップル、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコに次ぐ3位となったもよう。米マイクロソフトなどを上回ったとみられるが、「戦略的投資会社」を標榜するSBGにとっては、著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャー・ハザウェイを上回ったことの方がより意義深いのかもしれない。
利益の大半がファンドの未実現益
前期業績のけん引役はSBG子会社が運用する「ビジョン・ファンド」事業だ。1年前に発表した20年3月期決算では、同事業で1兆9313億円の損失を計上し、最終損益は過去最大の9615億円の赤字に転落した。SBGの足を大きく引っ張ったビジョン・ファンドが、前期は一転して稼ぎ頭になった。
ビジョン・ファンド事業では巨額の資金を未公開企業に投じてきた。上場を視野に入れる、一定程度の成長を果たしたIT(情報技術)関連の新興企業に20~40%出資するのが基本的な投資スタイルだ。
ファンド事業の利益は主に、投資先企業の株式を売却して資金回収した際に計上する「実現益」と、企業の価値を四半期ごと評価し直して増加分を計上する「未実現評価益」に分けられる。20年4~12月期では実現益が2052億円だった半面、評価益は2兆5455億円に膨らんだ。
21年1~3月期は韓国電子商取引(EC)大手クーパンなどが上場し、未公開時よりも企業価値が大きく高まったとみられる。まだ上場していない投資先でも、中国配車アプリ大手の滴滴出行(ディディ)や、東南アジアの配車アプリ大手グラブ、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)などで評価益が発生したもようだ。
投資先企業の価値向上は世界的な株高を追い風にしている面が強い。新型コロナウイルス禍を受けた主要国の財政出動は、市場のカネ余りを一段と助長した。投資マネーはIPO(新規株式公開)市場や未公開株市場に流れ込み、SBGが出資する企業のIPOでも高値が付いた。これがファンド事業の利益をかさ上げしている。
市場には「あくまでも評価益にすぎず、利益の質は劣る」という見方もあるが、これだけ多くの上場予備軍に投資しているファンドは世界でも珍しい。ベンチャー投資家として世界でも認知されたブランド力を持ち、各地のユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)と直接交渉できるSBGだからこそ、前期に記録的な利益を計上できたとも言える。
17年に始まった1号ファンドは計92社へ投資し、20年12月末時点で10社の資金回収を完了している。SBGが全額出資する形で20年に始動した2号ファンドは、早くも20年12月末時点で26社に投資した。1号ファンドの投資先企業の上場に伴い回収した資金を、2号ファンドを通じて新たな有望企業に振り向ける好循環が生まれつつある。
SBGの足元の時価総額は16兆円。これに対して、中国のアリババ集団を筆頭にしたSBGが保有する株式の価値から単体の純有利子負債を差し引いたNAV(ネット・アセット・バリュー)は20年12月末時点で23兆円弱。両者の乖離(かいり)はなお大きい。
同じ投資会社でもバークシャーの時価総額は72兆円ある。SBGが純利益で一時的にバークシャーを上回っても、株式市場での両社の評価にはまだ大きな開きがある。
その要因の1つが、バークシャーの方が事業の安定性や信用力で優れていることだ。米S&Pグローバル・レーティングの格付けはバークシャーが「ダブルA」なのに対し、SBGは投機的等級の「ダブルBプラス」だ。SBGの保有株式価値の約49%をアリババが占め、特定の銘柄に資産が偏っているためリスクが高いとみられている。
投資に対する信頼感でも差はありそうだ。SBGは19年には投資先の米シェアオフィス大手ウィーワークが経営難に陥り、追加投資を迫られた。今年3月にも投資先の英金融会社グリーンシル・キャピタルが経営破綻した。企業が未成熟の段階で成長資金を投じるベンチャー投資で全戦全勝は望むべくもないが、バークシャーに比べてSBGの投資はリスクが意識されやすい。
SBGも投資家が抱くこれらの懸念に対し、手を打ち始めている。20年3月にはアリババ株や通信子会社ソフトバンク株などを活用した4兆5000億円の資産売却・資金化を発表した。財務の改善とともに、資産の分散を進める狙いもあった。併せて発表した2兆5000億円の自社株買いで、米有力アクティビストのエリオット・マネジメントが要求していた株主還元にも取り組んだ。
上場株投資、孫社長の肝煎り事業
20年8月には米アマゾン・ドット・コムなどIT(情報技術)関連の上場株投資への参入を明らかにした。上場株専門の運用子会社には孫社長が自己資金200億円を出資するという、SBGでも極めて珍しいケースで、孫社長の肝煎り事業とみる市場関係者は少なくない。ベンチャー投資と並行して上場株投資を手掛けるのは、事業買収と上場株投資の両方で実績を上げるバークシャーとも重なる。
ビジョン・ファンドもウィーワークでの失敗をきっかけに「救済投資はしない」との方針を明確にした。20年前半に人員整理の観測が浮上したものの、その後は投資が軌道に乗ったため、最近では投資チームの増員を進めているようだ。
もっとも、アリババ株の保有方針や、上場・非上場株の資産配分などについてSBGは明確な方針を打ち出していない。自社株の購入枠も9割を消化済みで、さらに株主還元を強化するのか、それとも成長投資や財務改善を優先するのか疑問点は多い。
SBGは1990年代からIT関連企業を中心に投資してきた。投資家としての歴史は長いものの、投資会社としての体制づくりに関してはまだ道半ばといえる。ビジョン・ファンドで投資実績が積み上がるうちに、持続的な成長の姿を示せるか。節目となる本決算の会見で、孫社長がどこまで明確に今後の経営戦略を語るかが注目される。(和田大蔵)