FB最高値、キャタピラー下落に映る心理(NY特急便)(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN295QI0Z20C21A4000000/
保存日:2021/4/30 6:43 [有料会員限定]
フェイスブック株は29日、過去最高値を更新した=ロイター
29日の米株式市場では機関投資家が重視するS&P500種株価指数が最高値を更新した。米国内総生産(GDP)の高い伸びに加え、相次ぐ企業の好決算で投資家はリスクを取りやすくなっている。ただし、あらゆる銘柄が買われているわけではない。
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「私の見通しは完全に間違っていた」。ゴールドマン・サックスのアップル担当アナリストは28日、顧客向けメモで反省の弁を述べた。アップルが同日公表した2021年1~3月期の純利益は前年同期比2倍。ゴールドマンの予想を4割上回った。iPhone(アイフォーン)に加え、タブレットやパソコンの売れ行きが想定以上だったという。
ゴールドマン以外のアナリストも釈明に追われているはずだ。金融情報会社リフィニティブが1日時点でS&P500構成銘柄の市場予想を集計したところ、1~3月期の1株利益は24%増益だった。ところが29日までに発表された企業の実績を踏まえて集計すると48%増益となる。8割の企業で実績がアナリスト予想を上回った。
世界的な景気回復が業績の上振れにつながっている。29日公表の20年1~3月の米実質GDPは前期比年率で6.4%の成長となった。中国が16日に発表した1~3月の実質GDPは、同18.3%増加した。アナリストは景気回復がもたらす売上高増と利益率改善効果を読み切れなかった。
もっとも好決算に対する投資家の反応はまちまちだ。前日に好決算を発表したフェイスブックは一時、8%高となり、8日以来の史上最高値更新となった。一方、29日に決算を公表した建機大手キャタピラーは、4割増益だったにもかかわらず、4%安近くまで売られる場面があった。
銘柄間の差は、投資家の関心が「景気回復の先」に向かっていることの表れだ。懸念の一つが投入コストの高まり。米労働省が公表する生産者物価指数をみると原材料高が完成品価格に波及している様子が分かる。キャタピラーのジム・アンプレビー最高経営責任者(CEO)は29日の決算説明会で年後半に輸送費や原材料高の影響が出てくると述べた。
米労働市場では採用が難しくなっている。米宅配ピザ大手のドミノ・ピザのリッチ・アリソンCEOは同日の説明会で「ドライバーが足りず、大変苦しい状況になっている」と明かし、賃上げを迫られていると述べた。米バンク・オブ・アメリカによると決算説明会中に「インフレ」に言及した企業は前年の3倍に達するという。
投資家の関心はおのずとコスト高への耐性が強い会社に向かう。具体的には中堅企業に比べて価格転嫁がしやすい大企業、原材料高や採用難の影響を受けにくいネット企業となる。ネット広告市場の寡占プレーヤー、アルファベットとフェイスブックが決算発表後に最高値を更新したゆえんだ。
「好景気と低金利が共存する『ゴルディロックス』が続くと再確認した」。米運用会社ナベリアのルイス・ナベリア氏は米連邦公開市場委員会(FOMC)後にこんな感想を述べた。株価調整による「買い場」を待っていた同氏だが、マネー主導の株高は止まらない――。そんな諦めにも聞こえた。
ハイテク大手にも増税や反トラスト法(独占禁止法)調査といった懸念材料はあるが、業績への影響はまだ分からない。市場にとって目先のインフレ懸念のほうが重要だ。買いそびれていた投資家が消去法的に大型ハイテク株に資金を振り向ければ、相場は上がり続ける。フェイスブック最高値には投資家の苦悩が透けて見えた。
(ニューヨーク=宮本岳則)