野村、米国傾斜で痛手 利益とリスクが表裏一体に
作成者:
ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2745I0X20C21A4000000/
保存日:2021/4/27 19:46 (2021/4/28 5:44 更新) [有料会員限定]

野村ホールディングス(HD)が27日発表した2021年3月期の連結決算(米国会計基準)では、米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントとの取引に絡むとみられる損失を約23億㌦(2457億円)計上した。22年3月期と合わせ、損失額は約3100億円に膨らむ。米市場への傾斜を強めるなかで多額の損失処理を迫られた野村。国内市場の収益性が下がり、事業基盤を整えていた矢先の米国でつまずいた。

当初20億㌦程度を見込んでいた損失額は、前期と今期の合計額で29億㌦近くに上る。その理由について北村巧財務統括責任者(CFO)は「3月29日から31日にかけて(アルケゴスが投資していた銘柄の株価が)下落したため」と説明した。

米ゴールドマン・サックスなどはアルケゴスの保有資産を早々に売却して損失を軽微に抑え込んだが、後発組の野村やクレディ・スイスにそれができなかった。大量の資産を売るには相応の買い手が付く必要があり、顧客基盤の厚さで米銀にかなわないからだ。株価の動向を見ながら処理する方針が結果として裏目に出て、損失が拡大したとみられる。

21年3月期の純利益は前の期比29%減の1531億円だった。損益を地域別にみると、アルケゴスとの取引で損失が出た米州は税引き前で770億円の赤字(前の期は74億円の黒字)だった。それでも20年4~12月期は1268億円の黒字で、海外部門において約4分の3の利益をあげていた。堅調な債券トレーディングで確実に収益を稼ぎながら、株式デリバティブで上乗せをねらう戦略が奏功しているようにみえた。

決算から浮かぶのは国内で稼ぎづらくなり、海外に収益を求める野村の現状だ。国内営業の税引き前利益は21年3月期で923億円。売買手数料に依存した収益モデルからの脱却を模索する途上で、直近最も多かった14年3月期(1920億円)に比べて半分弱の水準だ。いきおいマーケットの拡大が見込める米市場への傾斜を強めざるを得ない。

27日に会見した奥田健太郎グループ最高経営責任者(CEO)は「リスクマネジメントを高度化しながら米国でプラットフォームをつくる必要がある」と戦略に変わりはないと強調。損失の発火点となった個人資産を運用する「ファミリーオフィス」との取引もリスク管理を高度化しながら続ける意向を示した。実効策の浸透が課題となる。

リスク管理に加え、ガバナンス(企業統治)の強化も焦点だ。26日には米持ち株会社のCEOに米JPモルガンで経営幹部を務め、現地の金融事情に通じるクリストファー・ウィルコックス氏を起用。かねてCEOを務めてきた赤塚庸氏との共同代表とする。

アルケゴスに関連する取引については4月23日時点で97%以上の処理が完了したという。財務の健全性を示す普通株式等Tier1比率は15.7%で「健全性に問題はない」としている。

アルケゴスはファミリーオフィスの形態をとっており、開示基準が緩かった。デリバティブを活用した取引が大量保有関連の開示基準外にあることを米当局は問題視している。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が「徹底的に調査する」と発言するなど、再発防止に向けて開示規則の見直しなどに取り組む姿勢を示している。