感染封じ込め、世界で優劣鮮明 インドは「三重変異」も(写真=AP)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB236IZ0T20C21A4000000/
保存日:2021/4/27 0:00 (2021/4/27 5:07 更新) [有料会員限定]
インドでは病床や医療用酸素の不足が深刻(24日、車中で酸素吸入を受ける女性)=AP
新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、ワクチン接種や行動制限など政策の巧拙が各国の明暗を分けている。早期の接種で社会経済活動の正常化に踏み出した国がある一方、インドでは新規感染者数が過去最高になっている。感染力の強い変異ウイルスが猛威を振るい、コロナとの闘いは長期に及ぶ恐れもある。
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日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズ(FT)の共同集計で、コロナワクチン接種は25日までに世界で10億回を超えた。1回以上接種した人はイスラエルで約6割、英国では約5割に達した。感染拡大しにくくなる「集団免疫」に必要な人口の7割以上の水準に近い。両国では段階的に経済や社会活動が正常化に向かいつつある。
しかし感染拡大が止まらない国も少なくない。代表的なのがインドだ。新規感染者は1日あたり約35万人と過去最悪だ。デリー首都圏では治療に使う医療用の酸素が複数の病院で不足する。病床自体も足りておらず、十分な処置を受けられず、死者数も増えつつある。
いったん沈静化に向かった新規感染者が急拡大した原因の一つは変異ウイルスの存在だ。インドでは3月に1つのウイルスで特徴的な2つの変異を併せ持つ「二重変異」が確認され、最近は「三重変異」も見つかった。変異ウイルスは従来型より感染力が強いが、政府は感染拡大とは無関係だとの主張を繰り返し、結果的に国民への警鐘が遅れた。
マスク着用などの感染対策が十分に取られないなかでの大規模な集会も感染に拍車をかけた。インドでは3月末から西ベンガル州など5州で州議会選に向けた演説が始まった。モディ首相も数千人の聴衆を前に投票を訴えたが、多くがマスク未着用だった。3月から4月にかけて数百万人のヒンズー教徒が聖地に一斉に集まる宗教行事を通じても感染者が続出した。
インドのワクチン接種率は8%にとどまる。当初は事態の収束を見越して周辺国などに一度はワクチンを輸出したが、今は国内での感染者の急増に対応するだけで精いっぱいだ。
「どんなやり方でもいい、助けてほしい」。デリー首都圏政府のケジリワル首相は25日、産業界に酸素供給などで協力を訴えた。26日の午前5時に終了予定だったロックダウン(都市封鎖)も5月3日の午前5時まで延長せざるを得なかった。
欧州もワクチン接種で出遅れた。フランスやドイツの接種比率は2割程度にとどまる。欧州連合(EU)はワクチンの使用承認と調達の両面で出遅れた。そこに感染力の高い変異ウイルスのまん延が重なり3月以降、新規感染者が急増した。一時的なロックダウンで効果が出ても終了すると再び感染者が拡大する繰り返しだ。
ワクチン接種が進んでいても感染抑制につながっていない地域もある。米国は1回以上接種を受けた人の割合は4割に及ぶが、1日あたりの新規感染者数(7日移動平均)は6万人前後にのぼり、直近2カ月間は横ばいだ。接種が進んで免疫を持つ人が増える前に経済活動の再開が進んだ影響とみられる。
特に深刻なのは中西部だ。ミシガン州では2月下旬以降、2カ月間で新規感染は一時、7倍以上に増えた。米メディアによると旅行やスポーツイベントで変異ウイルスに感染する機会が増えている。米グーグルがスマートフォンの位置情報からまとめた小売店・娯楽施設の人出のデータによるとミシガン州では3月以降、コロナ禍前の水準近くまで人出が戻りつつある。
新型コロナのウイルスは今後もどんどん変異していく可能性がある。接種を完了した後も免疫力を維持するためにワクチンの定期接種が必要との指摘が専門家から出ている。米英のようにワクチンを自国で製造する国と比べて、「日本のように外国から調達しないといけない国は難しい状況におかれる」(ニッセイ基礎研究所の高山武士・准主任研究員)との見方がある。
(竹内弘文、西野杏菜、ニューデリー=馬場燃)
▼二重変異 新型コロナウイルスで、感染力や重症化リスクを高める可能性といった特徴的な変異を2つ併せ持つもの。特徴的な変異が3つのものは三重変異と呼ばれることもある。ウイルスは一般に変異し続けており、いくつもの変異を起こしている場合がほとんどで、感染力などを把握するには詳細な解析が必要になる。
日本、ワクチン接種なお1%台
日本はまだ米ファイザー製のワクチンしか承認していない。一人2回の接種のうち少なくとも1回を終えたのは180万人ほどしかいない。人口比の普及率は1%超で、アジア全体の4%からも取り残されている。
国内の接種は2月17日から始まった。最初の対象とした医療従事者480万人のうち1回目を打ったのは3分の1にとどまる。4月12日から始めた65歳以上の高齢者3600万人も1回目を済ませたのは7万人ほどだ。高齢者の1日あたりの接種ペースは現状で数千回の日が多く、先は長い。
政府は6月末までには65歳以上の全員が2回接種できる量を届ける方針を示している。目先は4月26日以降、全国1741市区町村に一律で約1千回分ずつ割り当てる。供給が本格的に増えるのは5月の連休明け以降になる。5月9日までに390万回分、10日の週と17日の週には合わせて1872万回分を配る。
日本は調達の段階から出遅れた。ファイザー製を初めて輸入した2月時点で、先行するイスラエルは人口の4割、英国は2割が少なくとも1回を打ち終えていた。
米モデルナ、英アストラゼネカなど他社製は承認にこぎつけていない。現場の自治体はワクチンをいつ、どれくらい確保できるか見通せないこともあって、接種の担い手となる医師や看護師の確保も思うように進められていない。
もたつく間に感染拡大の第4波が到来した。逼迫する医療体制に接種業務が重なれば、人繰りは一段と厳しくなる。