ゲーマーvsマイナー、アキバでPC部品争奪戦
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC13ALE0T10C21A4000000/
保存日:2021/4/24 2:00 [有料会員限定]
店頭の棚から「ビデオカード」がなくなっている東京都千代田区のパーツ専門店「TSUKUMO eX.(ツクモイーエックス)」
秋葉原のパソコンパーツ店を中心に、パソコンゲームなどの画像を処理する「ビデオカード」の品不足が続いている。価格は年初から2割ほど高く、PCパーツ店の在庫もまばらな状況だ。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、オンラインゲーム向けなどの需要が想定以上に伸びている。
「どこも品切れ状態。このままでは自作パソコンが作れない」。東京都内に住む40代の男性会社員はこう打ち明ける。秋葉原のPCパーツ店の店舗の棚には商品がほとんどない状況だ。
深刻な不足に陥っているのが、パソコンゲームなどの画像を処理する「ビデオカード」だ。ビデオカードはPCパーツの1つで、画像処理や計算処理など特定の機能に特化している。そのためパソコンの頭脳にあたるCPU(中央演算処理装置)より計算処理が速いのも特徴だ。パソコンメーカーのほかパソコンを自作する人などが愛用する。
調査会社のBCN(東京・千代田)によると、2021年2月のビデオカードの平均単価は4万7400円(税抜き)。20年10月から急騰し、年初からは2割ほど高い。
ビデオカードの中でも売れ筋の米エヌビディア製GeForce(ジーフォース)シリーズ「GTX1660」は、都内の家電量販店やパソコンパーツ店での販売価格が、5万円前後。同製品は19年に発売した旧製品だが21年2月から価格が2倍近く上昇したものもある。
背景にあるのが、暗号資産(仮想通貨)ビットコインの急騰だ。取引記録に協力して報酬を得る「マイナー(採掘者)」が計算能力の高いビデオカードに食指を動かしている。
情報サイトのコインデスクによると、仮想通貨「ビットコイン」の価格は23日時点で、5万ドル前後。足元で下落が続いているが、それでも年初に比べ2倍近い。
17年の「仮想通貨ブーム」をほうふつとさせる価格の動きだが、値上がりの理由はこれだけではない。巣ごもり需要によるオンラインゲームや人工知能(AI)向けのニーズが予想以上に伸びたている。
米調査会社ジョン・ペディー・リサーチによると、21年1~3月のビデオカードを含むGPU(画像処理半導体)の出荷台数は、20年10~12月に比べて2割ほど増えた。GPU単体での市場の伸びは年間4%前後といわれており、単純比較はできないが、この3カ月だけをみても需要の伸びは明らかだ。
ビデオカードはゲームの映像の動きをなめらかに見せるPCパーツの1つだ。例えば戦闘ゲームでは一瞬の遅れが勝敗に響くため、勝つために高性能な部品を買う人が増えている。コロナ禍の影響で自宅で過ごす時間が増え、オンラインゲームを始める人が増えるにつれ、ビデオカードの需要も伸びた。
人気オンラインゲーム「フォートナイト」は小学生から大人まで幅広い層でプレーヤーが増えている。パソコン部品専門店最大手の「TSUKUMO eX.」(東京・千代田)では「コロナをきっかけにオンラインゲーム向けの部品の問い合わせが急増した」という。
コロナ禍で進んだデジタル化もビデオカードの裾野を広げた。従来はオンラインゲーム向けが中心だったが、コロナ禍でデータを消費する量が増えたため、AIやクラウド向けの引き合いも強まっている。米アマゾン・ドット・コムなど米IT大手「GAFA」が運営するデータセンターでは、今までCPUで手掛けてきた処理の一部を、GPUに置き換える例もある。
カカクコムの鎌田剛執行役員は「ビデオカードメーカーの想定を大きく上回る需要の伸びで、供給が追いついていない」という。
自作パソコンはパーツが1つでも欠ければ、組み立てることができず「このままではeスポーツ市場などにも冷や水となりかねない」(PCパーツ店)。足元では世界的な半導体不足が広がり「今後も在庫調達のメドがたっておらず、先行きが全く見えない」(同)という。ビットコインの上昇はいったんは収束したが、緊急事態宣言は4都府県に再発令された。巣ごもり生活が長引けば、需要は拡大。品不足解消にはしばらく時間がかかりそうだ。
(松本桃香)