デジタル資産にバブルの芽 Twitter初投稿に3億円(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2047W0Q1A420C2000000/
保存日:2021/4/22 2:00

ツイッター創業者のドーシー氏による初投稿が日本円換算で3億円を超える金額で落札された=ロイター

金融市場にまた一つ、バブルの芽が出てきた。「NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)」と呼ぶデジタル資産だ。ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)と同じ基盤技術「ブロックチェーン(分散型台帳)」を使い、所有の真正性を証明するという。次々に登場する資産に資金が群がる構図は、過去の「バブル」を想起させる危うさが漂う。

「現状ではカネ余り下で投機の対象の一つになっている感が強い」。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストはNFTの最近の盛り上がりについてこう指摘する。

3月22日には世界の投資家を驚かせる取引があった。米ツイッターの創業者、ジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)が2006年3月21日に投稿した初ツイートが競売にかけられ、約291万ドル(約3億2000万円)で落札された。

ブロックチェーンを使って権利を記録すれば理屈上は複製できず、「世界で1つ」の独自の識別情報が得られる。買い手にとって「自分だけが持つ証明」というのが売りだ。米プロバスケットボール協会(NBA)所属のレブロン・ジェームズ選手がダンクシュートを決める動画のNFTは1月に1万ドルだったのが3月には約21万ドルで買い手が付いた。

NFTの広がりは米国だけの話ではない。国内では人気アイドルグループのカード(デジタル情報)がNFTとして売られ、仮想通貨交換業者のコインチェック(東京・渋谷)はNFTの売買が可能なマーケットプレイスを提供している。スクウェア・エニックス・ホールディングスが3月17日にデジタルシールをNFTで発売すると発表した翌日、株価は一時、6%上昇した。

一歩引いて見てみると

代表的なデジタル資産である仮想通貨の値上がりは続き、4月に入り時価総額で一時、2兆ドルの大台に乗せた。3月30日にオンライン決済大手の米ペイパル・ホールディングスが世界数百万の通販サイトで仮想通貨による支払いを開始するなど、決済利用の需要が高まるとの思惑が再び広がっている。

国内では楽天グループがビットコインなどの仮想通貨から電子マネーにチャージできるサービスを始めた。メルカリも仮想通貨で支払いができるようにする方針でNFTにも参入するという。

だが、このまま「新たな資産」として定着するかどうかは未知数だ。18年のビットコインの暴落は記憶に新しい。過去を振り返ると、バブルの形成と崩壊には一定の法則がある。金融緩和・財政拡大の「カネ余り」と投資対象の拡大(新たな金融技術)がブームを生み、その後崩壊するというパターンだ。

1980年代の日本のバブルは円高不況に対応した利下げが不動産や株式への過剰投資を招いたし、90年代の米ドットコムバブルはアジア通貨危機などに対応した米連邦準備理事会(FRB)の利下げがIT関連銘柄への人気集中を促した。足元では新型コロナ対応の金融・財政政策(カネ余り)があり、仮想通貨やNFTといった新たな投資手法の登場は「バブル発生の条件」にあてはまっているように見える。

一歩引いて見れば、デジタル形式のアートや映像は全く同じものが無限に作成可能で「価値は曖昧」(野村総研の木内氏)だ。果たして、デジタル上の「証明」自体に価値が見いだされる状況はいつまで続くのか。デジタル資産だから、というだけの理由で飛びつくのは注意したい局面だ。

(日経ビジネス 三田敬大)

[日経ビジネス 2021年4月19日号の記事を再構成]