「トランプ銘柄」、気候変動対策に躍起(NY特急便)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN21D070R20C21A4000000/
保存日:2021/4/22 7:14 [有料会員限定]
炭鉱や鉄鋼で栄えた町も変革を迫られる(オハイオ州)
21日の米株式市場は前日比316ドル高の3万4137ドルで終えた。22日からバイデン米政権が主催する気候変動サミットを控え、エネルギーや鉄鋼業界の動きが慌ただしい。トランプ前政権下で様々な保護を受けてきたが、今やバイデン氏の気候変動対策に前向きな姿勢をみせることに躍起だ。インフラ投資にともなう巨額の「気候変動マネー」をどう取り込むか、企業や市場の思惑が交錯する。
「企業と政府、人々が協業したとき、変革が起こる」。米鉄鋼大手のUSスチールは21日、2050年の温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標を表明した。海外勢の攻勢を受けて衰退していた鉄鋼業界は共和党のトランプ前政権が課した鉄鋼製品の輸入関税で、大きな恩恵を受けていた。気候変動サミットに先駆けてバイデン民主党政権に沿う姿勢をみせるとともに、インフラ投資への期待もにじませた。USスチール株は前日比4%高となった。
インフラ整備や気候変動対策に8年間で2兆ドル(約216兆円)を投じるバイデン政権の「米国雇用計画」。UBSのソリタ・マルセリ氏は22年末までに同計画によって米国の実質経済成長率を0.5ポイント押し上げるとみる。「グリーン技術を持った一定の産業分野や企業は巨大な恩恵を受けるだろう」と指摘する。
米労働省によると、2019~29年の雇用者数の増加率が大きいと予測される職種は、首位が風力発電の羽根を回すタービンの管理(61%増)、3位が太陽光発電装置の設置(51%増)だ。米政府の施策は雇用の構造転換も早めそうだ。
鉄鋼同様、トランプ政権時代に追い風を受けた石炭産業では、労働組合が動き出した。「仕事を失う人に未来を」。19日、米炭鉱労働者組合のセシル・ロバーツ委員長はオンライン会見で、バイデン氏の政策を支持するとともに炭鉱労働者に新たな雇用の受け皿を確保するよう要求した。
「本当はもう何十年も前から、死にゆく産業だと分かっていた」。中西部オハイオ州で10年以上、石炭会社に勤めたマーク・マクベイさんはバイデン政権の政策により石炭産業が「現実を直視し始めるだろう」とみる。
一方で、株式市場はまだ「死にゆく産業」とはみなしていないようだ。石炭採掘大手のコンソル・エナジーはバイデン政権への移行が決まった過去半年間で株価が2.1倍になった。同期間のダウ平均は20%上昇だ。
スペイン・マドリードの資産運用会社がこのほどコンソル株を15%保有し、他の採掘会社の株も買い増したようだ。多くの投資家が気候変動リスクを考慮し化石燃料銘柄に背を向けるなか、途上国での需要を考慮すると「割安に映った」(関係者)という。実際、国際エネルギー機関(IEA)は21年の世界の石炭需要が前年比で4.5%増え、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の水準を超えるとみる。
捨てる神あれば拾う神あり。世界的なカネ余りのなか、逆張りにみえる「炭素銘柄」投資はまだ有効だ。ステークホルダーが一体となって脱炭素に向かうには、具体的な政策がものを言いそうだ。
(ニューヨーク=大島有美子)