下がりにくい米国株、貪欲マネーは新興国へ(NY特急便)(写真=AP)
作成者:
ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN19CIW0Z10C21A4000000/
保存日:2021/4/20 7:20 [有料会員限定]

ニューヨーク証券取引所(19日)=AP

米国株の底堅さが際立っている。19日の株式市場でダウ工業株30種平均は4営業日ぶりに反落したが、下げ幅は限定的だった。景気回復など「良いニュース」を織り込んだ水準とみられている一方、買い場となる調整局面はやってこない。しびれを切らした貪欲マネーは米国外に活路を見いだしている。

「小売売上高の高い伸び、企業の好決算など良いニュースばかりだが、実に退屈なマーケットだ」。米運用会社ナベリアの最高投資責任者(CIO)、ルイス・ナベリア氏は19日午後、顧客向けメモでこう記していた。米株相場が大きく下げた日に買いたいと考えているが、19日のダウ平均の下落幅は1%未満。顧客には「しっかり準備しながら待とう」と呼びかけた。

ダウ平均の日中安値をみると、3月25日を最後に一度も前日比1%以上の下げを記録していない。19日は半導体関連株が集中的に売られたが、弱気ムードが市場全体に広がることはなかった。日々の売買高が少なく「閑散に売りなし」を地で行く展開となっている。安値で買いたいと考える投資家は多く、下がりにくいとの指摘もある。

一方、米国株の上値余地を慎重にみる向きもある。米インスティネットの株式トレーダー、フランク・カッペレリ氏によると、S&P500種株価指数の構成銘柄のうち、テクニカル的にみて「2割は『買われすぎ』状態にある」と指摘した。20年以降、こうした状況になったのは7回しかないという。「良いニュース」は多くの銘柄で株価に織り込み済みになっている可能性がある。

プロの機関投資家はS&P500指数を上回る運用成績を求められる。PER(株価収益率)が全体的に上昇しており、市場平均を上回るリターンを期待できる割安銘柄を見つけるのは難しい。調整局面がこないため、安値で仕込むこともできない。マネーは少しでも高いリターンを求めて新興国に向かった。

19日の市場で話題になったのは2つの上場投資信託(ETF)だ。「EEM(iシェアーズMSCIエマージング市場ETF)と、FXI(iシェアーズ中国大型株ETF)を原資産とするオプションで先週末から強気のポジションが作られている」。米サスケハナ・ファイナンシャル・グループのクリストファー・マーフィー氏はこう指摘する。取引規模の大きさから機関投資家の手口とみられている。

「私たちが新興国資産に強気の理由」――。世界最大の運用会社、米ブラックロックは15日にこんなタイトルのメモを公表した。米金利上昇は新興国通貨安を招き、新興国経済に悪影響を及ぼしかねないが、米連邦準備理事会(FRB)の緩和姿勢によって「(米金利は)大いなる安定期に入る」と予想。割安さが残る新興国株に投資妙味があると強調した。

世界で新型コロナウイルスの1日あたりの新規感染者数は17日、76万6000人超に達し、過去最多となった。特にインドやブラジルといった新興国で歯止めがかかっていない。変異ウイルスの広がりも脅威だ。それでも投資家はリスクをとって新興国に資金を振り向ける。こうして「コロナ禍の株高」が世界に広がる。

(ニューヨーク=宮本岳則)