Google・Amazonが独自チップ 崩れる水平分業
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC057720V00C21A4000000/
保存日:2021/4/9 5:00 [有料会員限定]

米グーグルや米アマゾン・ドット・コムによる独自の半導体チップ開発が加速している。システムを独自技術で染め上げるその姿は、かつてコンピューター業界を席巻した「メインフレーマー」を思い起こさせる。

グーグルは3月22日(米国時間)、米インテルのプロセッサー開発部門の幹部であるユーリ・フランク氏が、グーグルにおけるサーバー用チップ設計担当のバイスプレジデントに就任したと発表した。フランク氏はインテルでCore(コア)マイクロアーキテクチャーの開発をけん引してきた人物だ。

グーグルはフランク氏が率いるサーバー用チップ開発部門をイスラエルに置き、同地で半導体設計技術者を多数雇用する計画だ。

インテルもイスラエルにプロセッサー設計チームを置き、優秀なマイクロアーキテクチャーを長年生み出してきた。しかし2代前の最高経営責任者(CEO)であるブライアン・クルザニッチ氏の時代に骨抜きにされてしまったのだという。グーグルがイスラエルで人材募集を始めた目的は、フランク氏のかつての部下を狙ってのことだろう。

グーグルがイスラエルで開発するのは、プロセッサーに加えて様々な専用チップを集約したサーバー用SoC(システム・オン・チップ)だ。

グーグルは既に、サーバーで使用する様々な専用チップを独自に開発している。ディープラーニング(深層学習)の訓練や推論に特化した「テンサー・プロセッシング・ユニット(TPU)」が有名だ。

それ以外にも2018年にはビデオのエンコーディングに特化したチップである「VCUs」を実用化したほか、サーバーのファームウエアなどを保護する「RoT(信頼の基点)」の専用チップである「Titan(タイタン)」なども開発している。

またネットワークスイッチ用のチップやネットワーク・インターフェース・カード(NIC)用のチップ、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)のコントロールチップなども、半導体メーカーにグーグル専用のカスタム品を作らせている。

ワンチップサーバーが間もなく実現

既にグーグルのサーバー用マザーボード上には、様々な専用チップ、専用カードがひしめき合っている状態だ。その背景には、トランジスタの集積度が1年半~2年ごとに2倍になる「ムーアの法則」が働かなくなったことがある。

CPU(中央演算処理装置)の性能向上の速度が鈍化し、従来のような「CPUとソフトウエアの組み合わせ」だけではアプリケーションの性能改善が見込めなくなった結果、専用チップの開発に突き進むようになった。

しかし専用チップを何個も使うのは、あまりにも効率が悪い。そこで様々な専用チップとCPUを、SoCとして1個のチップまたはパッケージ上に集積する。

SoCにすれば消費電力効率が改善するだけでなく、専用チップとCPUの接続も外部バス経由ではなくチップの内部バス経由に変わるので、データ転送のレイテンシー(遅延)改善なども見込める。

グーグルのフェロー兼バイスプレジデントのアミン・ヴァーダット氏は同社公式ブログで「SoCが新しいマザーボードになる」と表現する。SoCにはCPUに加えてTPU、ビデオトランスコーダー、暗号化機能、圧縮、リモート接続など様々な専用チップの機能が集約され、「ワンチップサーバー」が実現する。

グーグルのライバルであるアマゾンも同じ方向を進む。アマゾンの場合は既に、Arm(アーム)アーキテクチャーの独自CPU「Graviton(グラビトン)」シリーズをクラウドの仮想マシンサービス「Amazon EC2」で提供している。機械学習専用チップも発表済みだ。

アマゾンも多数の専用チップ開発済み

Amazon EC2のサーバーには、ネットワーク処理用や外部ストレージ処理用、内部ストレージ用の専用チップをそれぞれ搭載したカードが搭載されているほか、こうしたカードを制御する専用チップやセキュリティー専用チップも搭載されている。

サーバーのマザーボードが専用チップだらけなのはアマゾンも同じである。サーバー用SoC開発に取り組んでいても不思議ではない。

米メディアのジ・インフォメーションは21年3月30日(米国時間)、アマゾンがネットワーク機器の心臓部で、通信パケットを制御するスイッチングチップの開発を進めていると報じた。

アマゾンは従来、半導体メーカーである米ブロードコムに特注のスイッチングチップを作らせて、それを自社製ネットワーク機器に使っていた。ブロードコムによるカスタム品を自社開発のものに置き換えようというのだ。

長年の水平分業がひっくり返る

米メディアのブルームバーグは20年12月、米マイクロソフトがサーバー用プロセッサーの独自開発を進めていると報じた。巨大クラウド事業者、ハイパースケーラーのデータセンターでは、各社独自開発のプロセッサーが稼働するのが当たり前の状況になる。

インテルが1990年代後半にサーバープロセッサー市場へ参入したことによって、サーバーはオープン化や水平分業化が進んだ。

以前のサーバーは、メインフレームであれUNIX(ユニックス)サーバーであれ、サーバーメーカーがCPUも含めて垂直統合の形で開発するのが当たり前だった。それがインテルの参入によって、心臓部であるCPUはインテルが開発し、サーバーメーカーは様々なパーツを組み合わせるだけ、という分業体制が確立した。

そうした分業体制がクラウドの内部でひっくり返る。クラウドの内部は、プロセッサーからサーバー、ストレージ、ネットワーク、基本ソフト(OS)、ミドルウエアまで含めて全てが垂直統合に染まる。ハイパースケーラーは、現代のメインフレーマーだ。

(日経クロステック/日経コンピュータ 中田敦)

[日経クロステック2021年4月2日付の記事を再構成]