NISA、ありがちな失敗 移管手続き忘れで課税も
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOMH182P70Y1A310C2000000/
保存日:2021/4/4 2:00 [有料会員限定]

NISAを上手に活用し資産形成に生かしたい

株式投資を始めるのに少額投資非課税制度(NISA)を利用する人が増えている。配当や運用益に税金がかからず、資産形成をする際に有利になることが大きい。ただし非課税の恩恵を受けるには条件をいくつか満たす必要があり、投資初心者が見落としがちなポイントは少なくない。

■通常口座の商品は移せず

「NISA口座に保有株を移せると思ったのだけど」。東京都内に住む40代の女性会社員Aさんは昨年春にした経験を振り返る。新型コロナウイルスの感染拡大で株式相場が急落した際に「一般NISA」の取引口座と通常の証券口座の開設をネット証券で申し込んだ。株価が割安になり、株式投資を始めるチャンスがきたと考えたためだ。

先に開くことができた通常口座で空運株を購入。その後にNISA口座に移そうとしたところ、できなかったという。NISAを利用するには口座開設が完了したあと、取引の際にNISA口座を選択する必要があるからだ。Aさんは空運株が上昇に転じた局面で売ったが、通常口座だったため売却益に約2割の税金がかかった。

NISA制度には主に非課税期間が5年間の一般NISAと20年間の「つみたてNISA」の2つがある。コロナ禍による相場急落を受けて資産形成に関心が高まり、一般NISAの口座数は2020年12月末で約1221万(速報ベース)と前年同月に比べ4%増加。つみたてNISAは60%増の約302万口座と大きく伸びた。通常の証券口座は配当や運用益に20.315%の税金がかかるが、NISA口座では非課税になることが利用を後押ししている。

しかしNISA制度は複雑な面があり、特に一般NISAは注意点が多い。まず投資枠は年120万円が上限で、枠が余っても翌年に繰り越すことはできない。また新規投資分の上限であるため、株式などをいったん売って資産額が120万円を下回ったとしても、追加投資はできない。

NISAのデメリットとしてよく知られているのが、保有株などを売却して損失が出たとき他の口座で出た利益と損益通算ができない点だ。通常の課税口座では利益と損失を合算した後に課税され、損失が大きければ3年間繰り越して所得から控除できる。

例えば課税口座で利益が100万円、損失も100万円なら合算して課税所得がゼロとみなされる。しかし課税口座で利益が100万円、NISA口座で損失が100万円になった場合は、100万円の利益に対し課税される。

一般NISAで値動きの大きい個別株やアクティブ(積極運用)型の投資信託を売買する際は要注意だ。個人投資家でファイナンシャルプランナー(FP)の岡田禎子氏は「損益通算できないため保有株が値下がりしても損切りをためらい、損失が結果的に大きくなることもある」と指摘する。

■課税口座と使い分け

一般NISAでさらに把握しておきたいのが「ロールオーバー」(移管)の仕組み。5年間の非課税期間が終わるとき、それまで保有していた資産を新しい非課税の投資枠に移すことができる。保有株などが値上がりして資産額が投資枠上限の120万円を超えていても全額を移行でき、同じ株式や投資信託を延長して保有することが可能だ。

ロールオーバーをするには口座のある金融機関で自分で手続きをしなければならない。手続き期間は11~12月ごろだが金融機関によって異なる。一般NISAは14年に制度が始まったため、これまで18、19、20年末にそれぞれロールオーバーの時期を迎えている。

「金融機関からネットなどでお知らせが届くが、気付かなかったり、忘れたりして手続きの期限が過ぎていたという人は多い」と岡田氏は話す。何も手続きをしなければNISA口座の資産は特定口座などの課税口座に自動で移り、配当や売却益には税金がかかる。

保有株が値下がりし、売却すれば損が出るようなときはロールオーバーではなく、課税口座へ移すことも選択肢になる。その際に気を付けたいのが、課税口座に移した時点の市場価格が新たな取得価格になる点だ。

例えばNISA口座で120万円で購入した株が課税口座に移す際に100万円だったら、100万円で取得したとみなされる。課税口座に移したあとに株価が上昇し、仮に110万円で売却すると差額の10万円が課税対象になる。実際は損失が出ているのに税金を払わなければならない。

逆に課税口座に移して株価が下がった時点で売却すれば損失となるため課税されない。ほかの口座の利益と損益通算をすることもできる。ファイナンシャルジャーナリストの竹川美奈子氏は「今後の成長や利益拡大が見込める会社の株はロールオーバーで長期保有し、そうでなければ売却か課税口座に移すのも一案」と助言する。

一般NISAは24年に新NISAへ改正されることも知っておこう。新NISAは2階建てで、積み立て投資をする1階部分(投資枠は20万円)と、現在の一般NISAとほぼ同じ2階部分(同102万円)に分かれる。投資枠は1階から使うのが原則だ。

ただし現在の一般NISAから新NISAにロールオーバーをする場合は異なる。例えば資産が122万円未満なら、基本は2階の枠を埋めてから1階を使う。2階の102万円の枠が余れば新たに投資をすることが可能だが、その際は1階と2階のどちらの枠からでも使うことができる。

■長期で非課税生かす

NISAを利用する際は一般NISAか、つみたてNISAのどちらかを選ぶ。あとから変更することは可能だが、2つを同時に使うことはできない。竹川氏は「長期の資産形成が目的ならロールオーバーの手間や非課税期間の長さという観点から、つみたてNISAを選ぶのが現実的」と話す。

投資対象の商品は金融庁が定めた基準を満たし、長期投資に向くとされる投信や上場投資信託(ETF)に限られる(20年12月23日時点で193本)。このため、初心者も運用先を選びやすくなっている。

つみたてNISAでは長期運用を心掛けたい。株式はほかの資産に比べ長期で高いリターンを期待できるほか、長期運用では運用益を投資元本に加えてさらに大きな利益を得る複利効果も見込める。ただ金融庁によると、つみたてNISA口座全体で18年に買い付けた金額931億円のうち、19年に売却された額は158億円と2割近かった。20年という非課税期間を生かして投資を継続することが制度の恩恵を受けるために大切だ。

個別銘柄をしっかり研究して値上がり益を狙ったり、5~10年程度の短中期で資産を取り崩す計画があったりするなら、一般NISAが選択肢となる。(成瀬美和)