法人税下げ競争、コロナ禍で転機 G20が最低税率議論(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0675G0W1A400C2000000/
保存日:2021/4/6 20:00 (2021/4/7 5:18 更新) [有料会員限定]
イエレン米財務長官は最低税率を設ける必要性を改めて強調した=ロイター
長く続いてきた先進国による法人税の引き下げ競争が転機を迎えている。20カ国・地域(G20)では国際的な最低税率を設ける議論が大詰めを迎えており、米国のイエレン財務長官も必要性を訴える。新型コロナウイルス禍で拡大した財政を賄う財源確保や、大企業への富の偏在がもたらす格差の是正を求める声が背景にある。
「30年間続いた『底辺への競争』」。イエレン氏は5日の講演で法人税の引き下げ競争をこう呼び、最低税率の必要性を強調した。7日のG20財務相・中央銀行総裁会議を控えたタイミングで国際協調を促した。麻生太郎財務相も6日、「国際課税のグローバルな解決に向けた動きが出てきたのは前進だ」と歓迎した。
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1980年代に英国が50%以上あった法人税の切り下げを始めてから、先進国は税率引き下げを迫られ続けてきた。法人税率が他国と比べて高いと、自国企業がグローバル競争で不利になったり、税率の低い国に拠点を移したりする恐れがあったためだ。
日本も例外ではない。80年代には40%以上だった法人税率(国税)を2018年度に23.2%まで下げ、主要国と肩を並べる水準に追いついた。税率に国際ルール上の下限が導入されれば、歯止めがかかりやすくなる。
転換を後押ししたのは新型コロナ禍だ。米国は大規模な財政支出をまかなうため、現行21%の法人税率を28%に上げる計画を打ち出した。英国も現行19%の大企業向け法人税率を23年から25%にする。引き上げはおよそ50年ぶりだ。
法人税の引き下げが社会にゆがみをもたらしたと指摘する声も強まっていた。仏経済学者のトマ・ピケティ氏は各国が誘致対象となる大企業向けの法人税を下げたことで貧富の格差が広がったと分析している。
早稲田大の岩村充氏が批判するのは法人税下げが労働への課税強化につながった点だ。法人税は人件費を除いた企業利益に課税する。税財源の確保のために引き上げられたのは労働コストも加味したモノやサービスの価格に課税する消費税(付加価値税)だった。
税収も企業の利益と比べて伸びが弱い。世界の上場企業の純利益は18年時点で約4.2兆㌦(約460兆円)と10年に比べ38%増えた。
一方、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均法人税収は国内総生産(GDP)比の約3%と横ばいで推移する。米国ではトランプ前政権の大型減税で法人税収はコロナ禍前から減っていた。
法人税の最低税率を巡る新たな国際ルールは米IT(情報技術)大手などへの課税を見直すデジタル課税と一体で議論されている。米国はデジタル課税について、シリコンバレーを抱える同国が狙い撃ちにされることを警戒する。
G20は7月の財務相・中銀総裁会議での合意を目指している。最終的にはOECDが約140カ国・地域の賛同を得る必要があり、実現に至るかどうかは予断を許さない。
タックスヘイブン(租税回避地)として知られるケイマン諸島などを使った企業の課税逃れの行動も止まらず、「経済のグローバル化に合わせて税制面で踏み込んだ国際協調が必要になっているという認識で各国は一致している」(財務省)。
長く続いた議論が決着すれば、国際税制の観点からは大きな前進になる。