コロナ、統治の弱点露呈 政治主導・デジタル・国と地方
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE0552Z0V00C21A4000000/
保存日:2021/4/7 2:00 (2021/4/7 5:21 更新) [有料会員限定]

閣議に臨む菅首相(6日午前、首相官邸)

規制に沈んだ幕張メッセ

政府が初めて緊急事態宣言を発令して7日で1年となる。いまも止まらない新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の統治機構の弱点を浮き彫りにした。デジタル化の遅れや国と地方のあいまいな責任と権限、既得権が臨機応変な対応を妨げ、政治主導の動きも鈍かった。新型コロナが明らかにした脆弱さを一から見直すべき時に来ている。

幕張メッセを1千床規模の臨時の医療施設に――。千葉県は2020年春、幕張メッセ(千葉市)の病院への転用を検討したが結局見送った。

イタリアは20年1月の非常事態宣言を踏まえ、ローマやミラノなどのホテルを接収し軽症者の隔離施設に転用した。諸外国の例をみて、病床の逼迫を避けようと県職員や県内の医師らが動いた。

臨時の医療施設の設置は当時、緊急事態宣言下でしか認められていなかった。必要な防火施設を定める消防法や建築基準法、地方自治法などの要件をクリアしようと奔走したものの時間切れになった。規制を乗り越える前に感染者数も減り、施設は不要となった。

一連の検討を通じ、強制力がない限り医師らを一気に集められない実態も分かった。日本医科大の松本尚教授は「日本は医療資源を統治する仕組みがない」と指摘する。

日本は米欧と比べ感染者や死亡者は少ない。幕張メッセの例は結果的に事なきを得ただけだ。

喉元過ぎれば熱さを忘れるような対応もある。菅義偉首相が恒久化を指示したオンライン診療。政治主導を掲げて関係閣僚が協議した結果、ひとまず収束後に初診から利用できるのは「かかりつけ医」にとどめた。最終的な結論は持ち越したままとなっている。

官僚は既存の法や制度にとらわれる。危機時にそれを突破するのが政治の役割といえるが、その政治も既得権の壁を越えようとしない。衆院解散・総選挙を控え、日本医師会への配慮もにじむ。

海外では非常時に国が強制措置をとるための緊急事態条項を持つ国がある。米国は20年3月に国家緊急事態法に基づき国家非常事態宣言を発動し各州政府も強制力を伴う自宅待機命令を出した。ドイツなど欧州でも強制力を伴う措置を実施する国が多かった。

日本では戦前の反動で国が私権を制約することへの警戒感は強い。世論を意識すると強制措置に、政権は二の足を踏む。

「首相官邸主導」と呼ばれる政権でも実行できない統治の弱点は置き去りにされる。特にデジタル化の遅れは際立つ。

感染者情報 なお手入力

国と自治体で感染者情報をクラウドで集約する「HER-SYS(ハーシス)」。厚生労働省が20年5月に、医師らが入力し保健所の負担を減らす目的で稼働させた。

医療機関から感染者の氏名や症状などを書いた「発生届」がファクスで大量に届き、保健所の業務が逼迫した反省からだ。ところが、今も医療機関からのファクスを保健所側で代わりに入力するところがある。

「感染者の届け出の3分の1は保健所でハーシスに代行入力している」と大阪府の枚方市保健所の白井千香所長は明かす。最初は120あった入力項目を40程度に減らしても医療現場で「使い勝手が悪い」との不満が残る。代行入力を求める医師らは絶えない。

電子カルテも日本は規格が複数ありデータを共有しづらく、解析に使うため専用システムに打ち直す。新型コロナでも初の患者が出て入院患者の特徴の分析結果をまとめるのに7カ月かかった。

国と地方の責任と権限の関係も複雑だ。逼迫する病床の確保は都道府県が実施し、国は強制できない。保健所は市や特別区も運営主体となる。国と地方、地方間で意思統一をしにくく、責任の押し付け合いになれば新型コロナ対応は国と地方のはざまに落ちる。

1月の再宣言でも、国に発令を求める小池百合子東京都知事と、まずは営業時間のさらなる短縮を要請するよう都に促す首相で駆け引きがあった。

既存の法でまかなえないなら抜本改正を検討する必要がある。省庁再編から20年、新型コロナが明らかにした統治機構と政治主導の死角を検証し、見直す時期が来た。