キャッシュ沸く泉、「金融」の再発見に脚光 (写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD02CCS0S1A400C2000000/
保存日:2021/4/5 21:02 [有料会員限定]
バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイの成長物語は、保険事業の存在なしに語れない=ロイター
世界中で新型コロナウイルス禍が続き、収束の兆しが見えない。サービスなど非製造業は復活が遠く、多くの経営者が安定した収益をどう生むかに頭を悩ませている。そんな中で、ある業種に光が当たりつつある。好況に沸くIT(情報技術)に長らく隠れがちだった金融業だ。
米買収ファンド大手アポロ・グローバル・マネジメントは3月、保険大手アテネ・ホールディングを110億ドル(約1兆2千億円)で買収すると発表した。一定期間だけ企業に投資するファンド業から、傘下に複数の事業を持つコングロマリット(複合企業)への脱皮を図る。
なぜ保険だったのか。模範としたのは著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイだ。同社は1996年に自動車保険大手ガイコを買収した。保険事業には「先に掛け金をもらって、後で保険金を支払う」ことで「現金収支上の時間差」が生じる特徴がある。
「フロート」と呼ばれるこの余裕資金を、バークシャーは2020年12月末で1380億ドル持つ。これまでも米鉄道会社などを傘下に収め、時価総額60兆円超の米国最強の複合企業になった。
アポロも保険をテコに買収の機会をうかがう。昨年には米複合企業ローパー・テクノロジーズがデジタル損害保険の関連企業を50億ドル超で買収した。フィンテックの普及で金融と非金融の垣根もなくなりつつある。
低金利という環境下では、金融業の急成長は期待しにくい。ただ08年の金融危機後に資本の増強が進み、金融は安定収益が見込みやすくなった。デジタル化で既存の秩序が崩れ、参入障壁が低くなっている面もある。
金融事業を再評価する動きは日本にもある。コロナ禍が本格化した20年5月、ソニーグループは金融事業の完全子会社化を決めた。吉田憲一郎会長兼社長は金融事業を取り込むことは「グローバル企業としての経営の安定につながる」とした。
ソニーは事業間に相関性のない「コングロマリット・ディスカウント」の象徴ともされ、今も厳しい視線を向ける株主が存在する。ただ、生命保険や銀行を柱とするソニーの金融業は安定したキャッシュを生み続けてきた。リブラ・インベストメンツの佐久間康郎代表は「今は好調な音楽もアニメも浮き沈みが激しい。安定収益の見込める金融業は決してマイナスにはなっていない」と語る。
コロナ禍の前は欧米企業を中心に、単一事業で勝負する「ピュアプレー」の戦略が主流になりつつあった。非中核の事業を切り離し、競争力のある単一事業で勝負すべきだという株主の圧力が強まっていたこともある。
コロナ禍で風向きは変わった。楽天グループのようにカードや銀行業の伸びが、リスクをはらむ携帯電話事業の巨額投資を支える構図もみられる。複数の事業部門でバランスを取るポートフォリオ経営の巧拙が、企業価値を左右する時代がやってきている。
(川上穣)