「ダイムラーと収益分配契約、業界に変革」NVIDIA幹部
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC02ET00S1A400C2000000/
保存日:2021/4/6 5:00 [有料会員限定]
自動車部門を率いるシニアディレクターのダニー・シャピーロ氏
日経産業新聞と日経クロステックの共同連載企画の第2弾です。百家争鳴のアップルカーの行方を展望しつつ、新たなテクノロジーを深掘りし、勃興するモビリティー産業の最前線に迫ります。
クルマの価値がハードウエアからソフトウエアに移りつつある自動車業界。その象徴が米アップルやソニー、中国のIT大手などの新規参入だろう。新規勢を含め多くの企業が次世代車両の中核に据えるのが高性能な車載コンピューターで、その有力サプライヤーが米エヌビディアだ。同社で自動車部門を率いるシニアディレクターのダニー・シャピーロ氏に、潮目の変化をどう捉えているか聞いた。
――「アップルカー」の登場について、サプライヤーという立場から見てどのようなチャンスがあるのでしょうか。
「アップルについては、いろいろな噂が何年にもわたって存在する。何を考えているか、具体的な計画は知らない。ただ一般論として、エヌビディアや自動車メーカーが『将来的に必要だ』と言ってきた技術が実用化の段階に入ろうとしていることの表れなのだろう」
「我々はAI(人工知能)を搭載したスーパーコンピューターが必要だと言ってきた。クルマが『車輪が付いたデータセンター』になるのだ。自動運転を可能にするには、これまでにない速度のデータ処理が必要。従来型の半導体メーカーや自動車部品メーカーがノウハウを持っていない領域だが、当社にはHPC(高性能コンピューティング)やGPU(画像処理半導体)、スパコンなどの知見や経験がある」
【百家争鳴Appleカー】
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・Appleから受注とれるか 部品メーカーに3つの新流儀
――とはいえ、クルマのハードウエアはコモディティー化の方向です。
「当社は、世界で1番難しい問題に対する解を提供したい。サプライヤーとしても、コモディティー製品を提供する形にはならない。ゲーミングやプロフェッショナルグラフィックスなどに向けたGPUもそうだった。車載市場にはインフォテインメント機器の領域から参入した。民生で培った技術を活用しやすかったから。採用は欧州勢から始まり、米テスラとも共同開発してきた」
「だが、そこにとどまることはせず、車載AIの領域に踏み込んだ。自動運転に関しても運転支援システムである『レベル2』だけでなく、自動運転の『レベル4/5』まで実現できる実力がついてきた。それでも、自動車自体がコモディティー化していくのは、まだ先だと思っている。インフォテインメント機器を進化させるのもAIだ。音声アシスタントや乗員の状態検知など、AIを使えばクルマの安全性や利便性を向上させるための差別化が可能になる」
――最近の取り組みでは、上海蔚来汽車(NIO)など新興の電気自動車(EV)メーカーとの提携が目立ちます。既存の自動車メーカーとの違いは何か感じていますか。
「見方としては、既存プレーヤーと新規勢の違いというより、どういった電気/電子(E/E)アーキテクチャーを志向しているかがポイントだ。中央集中型の車載コンピューターを搭載したアーキテクチャーを思い描いているかどうか」
「既存の自動車メーカーだろうが、新興EVメーカーだろうが、ソフトウエアを重視した未来志向な企業は中央集中型のE/Eアーキテクチャーの方向にシフトしている。ソフトの更新によって車両の機能を追加・改善していく車両の投入に向けて、各社は開発を急いでいる」
――ソフトを無線通信で遠隔更新する「OTA(オーバー・ジ・エア)」は、自動車業界のビジネスモデルも変えそうです。
「現状、クルマの価値は買った時点が最高で、使うほどに価値は下がっていく。新しいクルマの時代が来ると、車両の価値や機能は買った時点が最低ラインになるのだ。ソフト更新で能力が拡張されてクルマはどんどん良くなる」
「ソフトを車両にインストールするたびに、新しい収益が生まれる。クルマの寿命が続く限りサブスクリプション(継続課金)などで収益が立てば、ビジネスとして相当な可能性がある」
――サブスクモデルの実現に向けて、具体的に取り組んでいるプロジェクトはありますか。
「独ダイムラーとの協業が好例だ。両社は緊密に連携し、自動運転の開発と展開に向けたエンドツーエンドのシステムを共同で開発している。その中で、レベニューシェア(収益分配)の契約を結んだ。この契約は業界に変革をもたらす。その他の自動車メーカーと同様の合意がなされる機会も、今後必ずあると思う。レベニューシェアは、自動車メーカーとエヌビディアの双方が利益を得られるモデルなのだ」
――クルマの利用者が自動運転ソフトなどを購入・更新した際に得られる収益を、両社で分け合うということですね。
「価値の中心がソフトになるので、ハードは高級車から低価格車まで同じでよくなる。標準化した高性能コンピューターや各種センサーを車両に搭載しておき、多くの機能を搭載してハイエンドにしたければ、ソフトの代金としてユーザーに支払ってもらう形だ」
「こうしたビジネスモデルを前提とした車両を、ダイムラーは2024年から量産していく計画である。すぐに大きな収益規模になるわけではない。それでも、1台当たりの売り上げは数千ドルほどになっていくだろう。長期的な視点で、利益率の高いソフトによる収益基盤の構築を目指していく」
(聞き手は日経クロステック/日経Automotive 久米秀尚)