電池から電池をつくる EV普及、リチウム争奪戦に先手
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGG246G50U1A320C2000000/
保存日:2021/4/3 2:00 [有料会員限定]
廃電池から取り出した炭酸リチウム=DOWAエコシステム提供
電池から電池をつくる試みが静かに始まった。大地に眠る様々な元素からつくりあげた電池を再び元に戻し、電池に仕上げる。各国が電気自動車(EV)の普及に力を入れ、元素争奪戦への焦りが背景にある。人類が初めて電池を手にしたのは1800年ごろ。リチウムイオン電池は現代のデジタル社会を支えるまでになった。電池の誕生から200年以上がたち、役目を終えた電池が新たな資源として重要な意味をもつ時代が訪れようとしている。
最初の焼き加減が肝心だ――。DOWAホールディングス傘下でリサイクル事業を担うDOWAエコシステム(東京・千代田)に集まるのは、EVや家庭用の蓄電池、スマートフォンなどに使ったリチウムイオン電池だ。これを丸ごとセ氏700度以上で焼く。電解液が蒸発し、感電の危険がなくなる。
単なる焼却処分ではない。希少な資源が詰まる電池から、リチウムやコバルトを取り出す。同社環境技術研究所の本間善弘副所長は「理論上は使用済みの電池から新しい電池を生み出せる」と話す。
温暖化ガス排出量を実質ゼロにする取り組みは、覚悟とともに変化への焦燥感を抱かせる。その一つがEVの大量導入に伴う資源不足だ。
動力源となる様々なリチウムイオン電池はリチウムやコバルト、ニッケル、マンガンを含む。石油天然ガス・金属鉱物資源機構によると、リチウムの埋蔵量は世界で1400万トン。国別ではチリ(約60%)などに偏る。生産量(2018年)は世界で8.5万トンにとどまる。
EVが使うリチウムは19年には1.7万トンだったとみられるが、世界でEVの新車販売が2000万台を超えるとされる30年には、必要量が10倍以上に達すると国際エネルギー機関(IEA)は分析する。コバルトも19年の1.9万トンから30年には10倍近くに需要が増える。
埋蔵量では「十分足りる」計算だが、すぐに採掘できるとは限らない。一時的とはいえ争奪戦が起きるという心理が焦りを呼ぶ。バイデン米大統領は電池や重要な鉱物などの安定確保に乗り出した。
足りなければどうするか。役目を終えた電池が新たな価値をもつ。すでに手にした資源がそこにある。
DOWAエコシステムが関わる施設でリチウムイオン電池を丸焼きにすると、正極や外側のケースのアルミニウムが溶け出す。電池にある金属の中で溶ける温度が最も低いからだ。銅や鉄を含む焼け残りを砕くと、次は磁力の出番だ。磁石にくっつけば鉄。その他の多くは銅だ。
後には細かい粉が残る。正極や負極に付くリチウムやコバルト、ニッケル、マンガンが酸素と複合体になっている。負極には炭素がある。
リチウムの再生は至難の業だ。同社は最初の熱処理で酸化リチウムに変え、水に溶かしてイオンにする。炭酸リチウムとして回収した純度は99%以上。新しい電池の原材料に使える品質だ。回収率は明らかにしていないが、7割をめざしている。
リチウムが抜けた粉に磁石を近づけると、コバルトとニッケルがくっつく。双方を含む濃縮物の回収率は9割以上。必要であれば、薬品でコバルトとニッケルを分ける。磁石にくっつかない粉は炭素素材になる。
コバルトとニッケルの濃縮物は磁石にくっつく=DOWAエコシステム提供
電池の解体は、1匹のマグロを大トロや赤身にさばき、それぞれを堪能するかのようだ。そこには完全には元に戻らないやりきれなさも漂う。刺身を集めても再び泳ぎ出すことはない。回収した資源をもう一度電池として使えるようにするには困難が伴う。
コストを考えると「元の金属に完全に戻すのが正解とは限らない」(本間副所長)。発想を変えて、混ざり物があっても電気をためられるような新しい電池も必要になる。
世界も動き出している。米テスラの元最高技術責任者(CTO)が創設した米レッドウッド・マテリアルズ(米ネバダ州)は、パナソニックエナジーノースアメリカ(同)などから電池の廃材の一部を引き取っている。
バイスプレジデントのアレクシス・ジョージソン氏は「数年後に何十万台ものEVが廃棄されるようになる前に、廃棄物を利益に変えるノウハウを発明していく」と話す。もはや素材企業だ。
「温暖化ガスゼロ」時代に、「使用済み電池」は地球のあちこちを掘削せずとも手に入る資源だ。「処理は原材料を生み出す工程になり得る」(ジョージソン氏)。
(下野谷涼子、サイエンスエディター 加藤宏志)