Appleから受注とれるか 部品メーカーに3つの新流儀
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ3129X0R30C21A3000000/
保存日:2021/4/1 5:00 [有料会員限定]

ダイムラーとエヌビディアが共同でプラットフォーム開発(出所:ダイムラー)
日経産業新聞と日経クロステックの共同連載企画の第2弾です。百家争鳴のAppleカーの行方を展望しつつ、新たなテクノロジーを深掘りし、勃興するモビリティー産業の最前線に迫ります。
米アップルは敵か味方か――。ユーザーを奪い合う格好になる自動車メーカーにとっては脅威だが、サプライヤーから見ると部品の供給先を増やせる絶好のチャンスだ。ただし、受注の取り方は変わる。「アップルカー」に代表される次世代車両が求める価値を提供できるか。新しい流儀での取り組みが始まった。
「独ダイムラーとレベニューシェア(収益分配)の契約を結んだ。この契約が自動車業界に変革をもたらす」。米エヌビディアで自動車部門を率いるシニアディレクターのダニー・シャピーロ氏は、従来の部品メーカーの枠を超えた取り組みを始めたことを明かす。
ダイムラーとエヌビディアは2020年6月、自動運転用の車載コンピューターやソフトウエア基盤の領域で協業すると発表した。無線通信でソフトウエアを更新するOTA(オーバー・ジ・エア)によって自動運転などの機能を常に最新の状態にするプラットフォームの構築を目指すとしており、今回両社が交わした契約内容の一部が分かった。
クルマの利用者が自動運転ソフトなどを購入・更新した際に得られる収益を、両社で分け合うことを決めたのだ。シャピーロ氏は「他の自動車メーカーとも同様の合意がなされるだろう」と自信をのぞかせる。
半導体メーカーのエヌビディアがクルマの販売後にも収益を得るという革新的な契約を勝ち取ったのは、自動車業界の変化の象徴だ。ハードウエアを売って終わりというサプライヤーの常識が、大きく覆ろうとしている。

エヌビディアはダイムラーと収益分配の契約を結び、サービス型のビジネスモデルの構築に前進した
■下請けかパートナーかの分岐点に
アップルを筆頭に、ソニーや中国のIT大手など様々な企業が自動車業界の「外」から新規参入をもくろむ。迎え撃つ既存の自動車メーカーも必死に、どこで個性を発揮できるか日々頭を悩ませる。
新規参入組の次世代車両は、OTAのソフト更新で機能を次々に追加していく電気自動車(EV)になると予測する声が多い。スマートフォンのアプリを追加していく使い方に近いことから「スマホカー」、あるいは「車輪が付いたデータセンター」(エヌビディアのシャピーロ氏)などと表現される。
クルマの価値や構成する主要技術が変われば、部品を供給するサプライヤーの勢力図も変わる。アップルカーの登場が控える今は、新たな顧客を獲得するまたとないチャンスなのだ。
独ローランド・ベルガーの日本法人前社長で、現在は様々な新規事業を手がけるきづきアーキテクト代表取締役の長島聡氏は「自動車メーカーの下請けのままかパートナーになれるか、今が分岐点」と読む。重要なのは部品メーカーの姿勢で、「『当社ならこんなアップルカーを実現できる』と前のめりにアピールして相手に面白いと思わせてしまえばパートナーの道が開ける」(同氏)と背中を押す。
では、部品メーカー各社はどのようにしてアップルカーをはじめとする次世代車両への部品供給を勝ち取ろうとしているのか。水平分業が進み「ケイレツ」の威力を発揮できない状況では、自動車メーカーとの「すり合わせ」で受注を獲得してきた従来のやり方は通用しない。アップルカー時代の新しい受注の流儀として、3つのやり方が浮かび上がってきた。
■3つの新流儀

次世代車両を構成する3つの主要部品(日経Automotive提供)
新しいサプライチェーンに向けた部品メーカー各社の戦略は、(1)いち早く相手企業の懐に入り込む、(2)ハードを丸ごと請け負う、(3)ソフトの進化を支える――に大別できそうだ。
常に業界を引っ張る企業の懐に入り込む部品メーカーの代表格が村田製作所だ。携帯電話市場では覇権がフィンランドのノキアからアップルへと移った変化に柔軟に対応し、積層セラミックコンデンサーや放射電磁雑音(EMI)除去フィルターなどで高い世界シェアを維持し続けている。
村田製作所専務執行役員の岩坪浩氏は、勝ち馬に乗り続ける秘訣として「勝者は必ず変わる。一点賭けしないのが基本姿勢だ」と語る。その上で、「どのセットメーカーとも誠実に付き合い、要望があれば技術者を派遣するなどして関係を強化する」(同氏)
簡単なように思えるが、これが意外と難しい。ノキアを信じ続け、アップルなど新興のスマホ勢を冷たくあしらった部品メーカーは少なくない。村田製作所は相手企業との関係をいち早く構築し、製品の初期段階から部品を供給できるように努めているという。
もちろん、1度受注した後も気は抜けない。アップルなどスマホメーカーは部品をより安価なものに変更する「置き換え作業」を定期的に実施する。置き換え作業でも生き残る策は「絶対に置き換えできない部品を供給すること」(同氏)。もう1つ重要なのが供給安定性で、生産能力の拡充やリスク管理を徹底することがセットメーカーの信頼につながる。
【百家争鳴Appleカー】
・もしも、Appleカーが登場したら・・・ 迫る自動車の再定義
・ソニーの自動運転EVを解剖 スマホ流開発の潜在力
・車に「水平分業」の足音、鴻海EV構想に1200社超参画
部品の置き換え作業は、次世代車両でも頻繁に起こるだろう。PwCコンサルティングでパートナーの川原英司氏は「ソフト起点の産業構造の変化が自動車業界でも起こり始めている」と指摘する。携帯電話機や建設機器、FA機器、ロボットなど多くの製造業が通った道だ。
産業構造が変化する過程で起こる「オープン化」によって、「開発の川上から川下まで仕様が広く公開されるようになると、新規参入が容易になって競争が激化する」(同氏)。つまり、置き換え作業のライバルが増える。多くの民生系の部品メーカーが車載市場に進出してくるだろう。

携帯電話機はスマートフォンへと置き換わり、競争軸はハードからサービスに移行した。自動車業界も、多くの新規事業者が参入して競争が激化するタイミングに差しかかりつつある。PwCコンサルティングの資料を基に日経Automotiveが作成。
独ボッシュ日本法人のクラウス・メーダー社長は、「ソフトの役割が大きくなることによってハードはコモディティー(汎用品)化が進み、差異化が難しくなる」と述べる。それでも、「駆動系や操舵系、制動系など多くの部品やシステムを信頼性高く連携させるのは容易ではない」(同氏)とシステム化では自信をのぞかせる。
■EVプラットフォームで攻めるボッシュと日本電産
ボッシュなどが強気の姿勢を崩さないのは、新たな商機を見出しているからだ。アップルなど新規参入組の多くは、走行性能よりもサービスや車内空間での体験などを重視する。この傾向が、受注の新流儀の2つ目の「ハードを丸ごと請け負う」につながる。
ハード丸ごと供給の代表例が、クルマの基本性能「走る・曲がる・止まる」を担うEVプラットフォームである。駆動用モーターとインバーター、減速機などを一体化した「e-Axle(イーアクスル)」と、床下に並べたリチウムイオン電池、ステアリング、ブレーキなどで構成する。
ボッシュは「Rolling Chassis(ローリングシャシー)」と呼ぶEVプラットフォームを開発した。「部品やサービスを提供する新しいチャンス」(メーダー氏)とし、ターンキー型のプラットフォームを用意した。アンダーボディーやサスペンションなど、足りない機械部品は独ベントラーと協業することで確保した。

ボッシュが開発したEVプラットフォーム(ボッシュ提供)
ボッシュと同じくドイツのメガサプライヤーであるZFも、EV向け部品の拡販を狙う。ゼット・エフ・ジャパン社長の多田直純氏は「EVプラットフォームまで手がけるかは決まっていない」と前置きしつつ、「ワンストップで部品を世界各地に供給できるのは価値になる」(同氏)と読む。機械部品を得意とするZFは、シャシー系部品の情報を集約して中央制御する「cubiX(キュービックス)」を開発するなど、ソフト面の強化を加速させている。
EV向け駆動用モーターで攻勢をかける日本電産も、25年ごろまでにEVプラットフォームを用意する計画だ。永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は「ハード部分は専門メーカーに任せる流れがあり、我々がシェアを取る時代がきている」と意気込む。
主要部品を内製化することで「生産能力とコストで世界で圧勝する」(同氏)戦略である。21年2月には歯車(ギア)を造る工作機械を開発する三菱重工工作機械の買収を発表するなど、EVプラットフォーム供給に向けて足りないピースを着々と集める。
■EVプラットフォームの共有化で競争激化
クルマの価値がハードからソフトに移ることを考えると、EVプラットフォームの種類が集約の方向に向かうのは間違いない。多くの車種が1つのプラットフォームを共用することになるため、受注を獲得できれば一気に業績を伸ばせるが、失注すれば苦境に陥るというギャンブルの要素が強くなる。
「中韓勢との『殴り合い』は避けられない」――。車載向けリチウムイオン電池を手掛けるエンビジョンAESCグループの松本昌一CEOは覚悟を決めた。中国や韓国などの電池メーカーと同じ土俵で勝負するため、2021年から中国で順次量産を開始した第5世代電池のセル形状を変更した。
電池セルを欧州や中国の自動車メーカーの多くが採用するドイツ自動車工業会(VDA)規格の標準形状にし、「自動車メーカーによる複数社購買の2社目、3社目でもいいから入り込む」(同氏)。これまでは独自のセル形状にこだわったため、顧客を広げられなかった。セル形状の変更と同時に低コスト化に向くリン酸鉄系のリチウムイオン電池を新たにラインアップした。
■HMIもハード丸ごと調達に
EVプラットフォームと並んで、新規参入組がハードを丸ごと調達したい領域が車内空間のHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)である。車内デザインや独自の移動体験などで差異化したい企業にとっては生命線となる領域だ。
きづきアーキテクトの長島氏は「アップルカーは人の五感に訴えるような仕掛けをしてくるのでは」と予測する。ディスプレーやスピーカー、各種センサーなど、多くの部品をシームレスに組み合わせて新しいHMIを提供するには多くの技術やノウハウが要る。
ドイツや日本、米国など多くの高級車メーカーと1次部品メーカー(ティア1)の立場でHMI開発をしてきたアルプスアルパイン社長の栗山年弘氏は、「HMIはコモディティー化しない。現状でも自動車メーカーごとに全部違うが、個性が出てくる領域だ」と見通す。世界の高級車メーカーとティア1として長く付き合い、ブランドごとにHMIを造り分けてきた実績が強みになるという。

アルプスアルパインが開発する統合コックピットのイメージ(アルプスアルパイン提供)
ティア1としての提案力を高めるため、アルプスアルパインは車載メーター大手の日本精機と資本業務提携するなど他社との連携を加速させる。技術を持ち寄って「統合コックピット」の開発を進めるためだ。
■OTAへの姿勢が自動車メーカーの将来性を左右
受注の新流儀、3点目の「ソフトの進化を支える」で先行するのが、冒頭で紹介したエヌビディアである。ソフト重視の開発を進めるダイムラーなどの自動車メーカーを支援する開発環境を用意。半導体だけでなく、自動運転用のAI(人工知能)を学習させるデータセンターやアルゴリズムの性能を検証するシミュレーション環境など守備範囲は広い。
ルネサスエレクトロニクスも考え方は近い。柴田英利社長兼CEOは「半導体の製造業から人間の人生を楽にするテクノロジーカンパニーになりたい」と語る。ルネサスの製品は「性能は良いが使いにくい」と言われることが多かった。今後、シミュレーターやコンパイラーなどのソフト群を拡充し、「半導体の種類を気にすることなく、(自動車メーカーなどが)ソフト開発に集中できる環境を整える」(同氏)方針だ。
自動車メーカーがどの程度ソフトを重視しているかが分かるポイントがある。それが、コネクテッドサービスや自動運転の司令塔となる高性能コンピューターを中核に据える電気/電子(E/E)アーキテクチャーだ。
自動車業界の変化を語ると、アップルをはじめとする新興勢と既存の自動車メーカーの対立軸になりがちだが、その比較は必ずしも正しくない。今後の成長を見極める上でボッシュやエヌビディアなどの欧米部品メーカーが重視しているのが、中央集中型のE/Eアーキテクチャーを志向しているかどうかである。
OTAで難しいのは、不具合を起こさないようにすること。無線でソフトを不具合なく更新するためには、多くのECU(電子制御ユニット)間の互換性を含めてシステム全体の動作を検証する必要がある。このため、車種によっては100個を超えるECUが複雑に絡み合う従来の分散型アーキテクチャーはOTAに向かない。
高性能コンピューターを司令塔とする中央集中型はECUの数を減らせ、確認の手間は少なくて済む。いち早く中央集中型のE/Eアーキテクチャーを採用したテスラが、OTAによって新機能を次々に提供できているのが何よりの証拠だ。エヌビディアのシャピーロ氏は「OTAを重視する姿勢の違いが、自動車メーカーの競争力の差になる」と読む。開発パートナーのダイムラーは、OTAを前提とした新しいE/Eアーキテクチャーを搭載した車両を24年から量産する計画である。
■残存者利益を狙うのも生きる道
自動車業界での成長を目指して動きだした部品メーカー各社。がらりと部品構成が変わる次世代車両への対応を急ぐ以外に、もう1つ生き残る道がある。それが、エンジン車市場の残存者利益を狙うという選択だ。
エンジン部品大手リケンの前川泰則社長兼最高執行責任者(COO)は「エンジン車のピークは2030年前後」と予測する。当然、ピークを過ぎてもエンジン車がすぐになくなるわけではない。同社は「2025年ごろまでは開発や生産拡大に向けて積極投資を仕掛ける」(同氏)。その後の5年間で合理化や省力化への投資を進め、筋肉質な体制を目指す。
他のエンジン部品メーカー幹部も「これからの3~5年間の開発が重要。ここで開発した部品を、その後10~20年使い続けていくことになる」と気を引き締める。PwCコンサルティングの川原氏は「残存者利益を狙うための業界再編は加速するだろう」と予測する。規模を確保するのが重要だからだ。
アップルカーの輪郭が少しずつ浮き上がってくる中で、部品メーカーは攻めどころを定める局面を迎えている。アップルカー特需をつかむのは誰か。
(日経クロステック/日経Automotive=久米 秀尚、岡田 江美)