車の半導体不足、各社ノウハウに固執しては苦しくなる
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK195UC0Z10C21A3000000/
保存日: 2021/3/24 2:00 [有料会員限定]
車載半導体不足の影響が長期化している。今の供給不足が解消されたとしても、今後同様の状況に陥る恐れがある。車載半導体不足を引き起こした根本要因やその解決策について、イノベーション論や研究開発(R&D)戦略が専門で半導体産業に詳しい東京工業大学教授の藤村修三氏に聞いた。
──車載半導体が不足している理由は何か。
「基本的にボリュームの問題だ。スマートフォンやディスプレー、ゲーム機向けなら簡単に億単位になるが、自動車は1、2桁少ない。スマホは同じ半導体を複数の端末メーカーが使うことも多いが、自動車メーカーはそうではない」
「ファウンドリー(半導体受託製造会社)にとって自動車向けの魅力は、生産量は少なくても変動が小さいことだった。だが、新型コロナウイルス禍でその前提も崩れた。ファウンドリーとしては、生産品目を頻繁に変えるとコストが上がるので、同じものをたくさん造っていたい。やむを得ない判断ということだろう」
──自動車メーカーはどう対処すべきか。
「難しい問題だ。車載半導体不足の一因として、台湾積体電路製造(TSMC)に集中していたことが挙げられる。ならばセカンドソースを確保すればよいかというと、そもそも発注量が少ないのだから、そう簡単には見つからないだろう」
「しかも、車載半導体は集約化に向かっている。従来はたくさんのマイコンを搭載していたが、ソフトウエアの開発工数やコストが膨れ上がったことで、大規模なチップに集約しようとしている。集約すると、ボリュームの問題を解決するのがさらに難しくなる」
「ボリュームに関しては、もはや個々の企業で解決できる問題ではない。自動車産業全体で共通化する、あるいは自動車以外の産業でも使えるようにするなど、それぐらいの取り組みが求められる」
競争と協調、見極めが重要
──半導体には自動車メーカー各社のノウハウが詰まっている。それを共通化できるのか。
「何から何まで個別に作り込むのではなく、競争領域と協調領域を見極め、協調領域の共通化を進めることが重要になる。かつて、そのような提案をしたことがある。共通部分はマスタースライスとして自動車メーカー各社が使えるようにしておき、個別部分は配線で対応するというものだ。自動車メーカーや、当時半導体を自ら手掛けていた電機メーカーは乗り気だったが、結局誰がやるのかというところで話が進まなかった」
──内燃機関については、国内自動車メーカー9社が手を組んだ自動車用内燃機関技術研究組合(AICE=アイス)で共通化が進んでいる。その半導体版ということか。
「ファウンドリーのラインを1社だけで満たそうとするのは難しい。チップ単体は小規模でも採算が取れるようにするにはどうすればよいか、考える必要がある」
「懸念しているのは、競争領域と協調領域がきちんと切り分けられていないのではないかということだ。言い換えると、技術を構造的に考えられていない。だから、本来は争わなくてもよいところまで個別に作り込んで、余計なコストを払っている」
「そう考える背景には、自動車産業に限らず日本が産業の枠を超えた、かつてのスマホのような製品を生み出せなくなっていることがある。日本は、産業の多様性指数が世界で最も高いとされている。部品や素材などさまざまな産業が存在しているということだ。しかし、これだけ産業の裾野が広いのに、肝心の新しいセットやシステムを生み出せていない」
「その原因は、異なる分野の技術を共通の言語で評価できていないからだ。異分野の技術や知識は、いったん抽象化してからでなければ融合できない」
「例えば、自動車技術者と航空機技術者が単に集まっただけで『空飛ぶクルマ』を実現できるわけではない。それぞれの技術や知識を抽象化することで、互いに取り込めるようになる。それが、技術を構造的に考えるということでもある」
「以前、ある地方で中小企業振興に携わったときのことだ。『何をやっているのですか』と聞くと、造っている物や技術ではなく、『自動車向けです』『医療機器向けです』という答えが返ってくることが多かった」
「自動車向けでも医療機器向けでも、例えば金属加工という点では共通しているわけで、他の産業にも供給できるはずなのに、自分たちのやっていることを抽象化して考えていないから、そういう可能性に思い至らない」
「それと同じことが、車載半導体でも起こっている。自動車メーカーはもっと競合他社や半導体メーカーに歩み寄り、共通化を模索した方がよい。『ノウハウだから』などといって共通化や協調を拒んでいると、逆に外部の技術や知識も取り込めず、苦しくなる」
(聞き手は日経クロステック 高野敦)
[日経クロステック2021年3月18日付の記事を再構成]