鴻海、米中でEVの分散生産検討 事業「スマホ超え」も(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2018M0Q1A320C2000000/
2021/3/21 5:00 [有料会員限定]

鴻海精密工業が開発を進めている電気自動車(EV)の車台(20年10月、台湾・台北)=ロイター

電気自動車(EV)事業に参入する準備を進めている台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が米国と中国で完成車の生産を検討していることが明らかになった。基幹部品を台湾などで集中して作る一方、需要地で完成車を組み立てる「分散型」の生産体制を築く。自動運転のソフトで日本の新興企業と組むなど外部企業との連携も広げる。

鴻海の経営トップ、劉揚偉董事長(会長)が日本経済新聞の取材で明らかにした。鴻海は世界最大の電子機器の受託製造サービス(EMS)企業で、米アップルのスマートフォン「iPhone」の生産などを手がける。EVの製造受託に参入する方針を2020年10月に示していた。

劉氏は自動車の動力源がエンジンからモーターに変わることにより、「情報通信分野の企業が新市場に参画する契機になる」と指摘した。同社は25~27年に世界のEV市場で10%のシェアを獲得する目標を掲げている。劉氏はEV事業の規模が現在の主力事業である電子機器の受託生産を上回る可能性について「非常に高い」と述べた。

同社は中国などの東アジアで電子機器を集中生産して世界各地に供給しているが、EVでは「同様の集中型ではなく、地域に根ざした分散型の体制が必要になる」と指摘した。輸送コストや完成車にかかる関税などを考慮する必要があると考えているもようで、当初から台湾などで集中生産したモーターをはじめとする基幹部品を各地で完成車に組み立てる方針だ。

第1弾として中国の新興EVメーカー、拝騰(バイトン)の製品を中国で組み立てる検討を進めていると説明した。バイトンには22年から供給を始める予定だ。また、米新興メーカー、フィスカー向けに米国で生産する検討を進めていることも明らかにした。今月16日の記者会見では北米の生産拠点としてメキシコを選択する可能性もあると説明している。

鴻海は「MIH」と呼ぶEVの車台を開発し、完成車の開発や販売を手がける企業に利用を促す方針だ。劉氏はMIHにより「必要なハードウエアの8割を提供できるようになる」と述べた。

鴻海(ホンハイ)精密工業の劉揚偉董事長(3月16日、台湾・台北)=ロイター

開発資金の乏しい中小・新興メーカーを含めてEVに参入しやすくするとともに、標準化した部品の大量生産を可能にする狙いがある。組み立てから事業領域を広げることにより、自社が手にすることができる付加価値を増やす思惑もありそうだ。

鴻海は台湾の自動車大手、裕隆汽車製造と提携するなど、外部企業の知見を活用してEV事業の立ち上げを進める。MIHは自動運転にも対応する方針を示しており、この分野ではまず日本の新興企業、ティアフォー(名古屋市)と組む。同社が中心となり開発を進めてきた自動運転車の基本ソフト(OS)「オートウェア」を搭載したEVを製造しやすくする。

日本の自動車メーカーは世界シェアの約3割を占めるが、得意とするガソリン車やハイブリッド車(HV)からEVへの転換が進むことを危機とみる向きもある。劉氏は日本メーカーについて「当社の動向を注視している。MIHを活用した一定水準の製品を届けられるようになれば、(新たな事業モデルに)より真剣になるだろう」と述べた。

(シリコンバレー=奥平和行)