沸騰の半導体株 進化支える日本の装置・材料メーカー
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD122DG0S1A310C2000000/
2021/3/22 2:00 [有料会員限定]

日本の半導体メーカーは海外勢に押され、かつての勢いを失った。だが、回路の「微細化」など半導体の進化を支える製造装置分野に目を移すと、日本企業は大きな存在感を示す。高速通信規格「5G」の普及や新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり消費で半導体市場が活況を迎えるなか、装置企業の成長期待も強まっている。

半導体は省エネや処理速度向上のため、電子回路の微細化が進む。SMBC日興証券の花屋武アナリストは「半導体装置企業は半導体企業にとって、次のテクノロジーに対する解を見つける重要なパートナーだ」と強調する。

半導体の製造プロセスはシリコンウエハーに電子回路を形成する「前工程」と、パッケージや性能テストなどの「後工程」に大別される。日本の半導体関連の代表銘柄の東京エレクトロンは、米アプライドマテリアルズやオランダASMLホールディングに次ぐ売上高で世界3位の前工程装置メーカーだ。前工程は微細化技術の進化が速く、競争力の高い装置メーカーへの株式市場での評価も高まっている。東エレクの株価はコロナ感染前の2019年末から7割強上昇し、時価総額は6兆6000億円を超える。

前工程では写真技術を応用した装置が多いが、東エレクはウエハーにレジスト(感光材)を塗布して、電子回路を現像する「コータ・デベロッパ」で9割の世界シェアを持つ。回路以外の不要な部分をガスを使って取り除く「エッチング」などにも強い。日本の前工程メーカーでは、ウエハーを洗浄して不純物を除去する「洗浄」分野でSCREENホールディングスも強みを持つ。

前工程の中でも最も付加価値が高いとされるのは、シリコンウエハーに電子回路のパターンを焼き付ける「露光」装置だ。回路線幅が5ナノ(ナノは10億分の1)メートルや3ナノメートルの最先端半導体の露光には「EUV(極端紫外線)」と呼ばれる技術が必要で、ASMLが独占している。そして、露光に密接する分野で急成長しているのがレーザーテックだ。

露光では写真技術を応用してウエハーに回路パターンを転写するが、その原板に当たるのが「フォトマスク」だ。レーザーテックはフォトマスクに欠陥がないか検査する装置で、EUV光を使った機種を100%供給している。19年末に比べ株価は2倍強に上昇、時価総額は1兆2000億円を超えた。

日本には後工程でも高いシェアを持つ装置メーカーが多い。回路を焼き付けたウエハーを切り分けてチップを取り出すダイシング(切断)装置ではディスコがトップシェアを持ち、完成した半導体チップの性能を試験する「テスター」と呼ばれる装置ではアドバンテストが世界2強の一角を占める。

ウエハー、レジスト 高い世界シェア

半導体材料でも国内メーカーは高い競争力を持っている。微細化に対応した技術開発で、基板材料のシリコンウエハーや製造過程で使うフォトレジスト(感光性樹脂)などは世界トップのシェアを誇る。総合化学メーカーも利益率の高い半導体材料事業を強化しており、業績を下支えしている。

基板材料のシリコンウエハーは日本勢がシェアトップを占める

シリコンウエハーでは世界首位の信越化学工業とSUMCOが合計で約6割のシェアを握る。高速通信規格「5G」やデータセンター向けなど先端品に使う直径300㍉㍍品に強みを持つ。

2020年度は新型コロナウイルスの影響を受けたものの、市場予想平均(QUICKコンセンサス)では両社とも21年度は増収増益の見通しだ。株価もコロナ前の水準を回復して、SUMCOは約2年9カ月ぶり高値圏で推移。足元で調整局面にある信越化も21年1月には上場来高値を更新した。

ウエハー業界ではシェア3位の台湾の環球晶円(グローバルウェハーズ)が4位の独シルトロニックを買収する見通しだ。単純計算ではSUMCOを抜きシェア2位となるが、先端品では日本勢に強みがありそうだ。特に信越化は「経営の目利き力や顧客との交渉術、財務体質の強さが光り、トップの座は変わらない」(モルガン・スタンレーMUFG証券の渡部貴人アナリスト)との評価がある。

ウエハー上に回路を形成する際に使うフォトレジストでも日本勢が9割前後のシェアを占める。JSRや東京応化工業などが代表銘柄だ。素材が分解できず模倣されにくいとされ、技術力を蓄積してきた日本勢が優位に立つ。

JSRのレジストは利益率の高さを評価する声が多い

19年に日本政府が韓国向けの半導体材料の輸出管理を厳格化したことで影響も懸念されたが、足元では日本メーカーの業績に大きな影響は出ていない。東京応化は21年12月期も2期連続の最高益更新を見込む。JSRもレジストを含むデジタルソリューション事業はコロナ禍でも増収増益を確保している。

かつて石油化学が事業の主軸だった総合化学メーカーも、近年は付加価値の高い半導体材料に注力している。洗浄剤や薄膜の形状加工に使う特殊ガスなどを主要製品群に持つ。車用部材などとともに、足元の業績回復をけん引している。

19年に半導体製造装置大手の蘭ASMLとライセンス契約を結んだ三井化学のEUV(極端紫外線)ペリクルは21年度から商業化。露光工程の防じんに使うもので、市場からの注目も高い。各社とも、半導体需要増という追い風のなかで関連材料を事業の柱として着実に育てていけるかが今後の株式評価を左右しそうだ。

(佐藤俊簡、龍元秀明、長谷川雄大、三田敬大、生田弦己、広井洋一郎、台北=中村裕、シリコンバレー佐藤浩実)