FRB「特例終了」の影響を和らげた好需給(NY特急便)(写真=AP)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN00002_Q1A320C2000000/
2021/3/20 6:09 [有料会員限定]
好需給がFRB「特例終了」の影響を和らげた=AP
19日の米株式相場は「特例終了」というネガティブ・サプライズにもかかわらず底堅さをみせた。2021年の最大の買い主体とされる個人・家計による好需給が相場を支える。
ダウ工業株30種平均は234ドル安と続落。下げ幅は一時、350ドルを超えたが、下値では買いが入った。半導体など一部ハイテク株が上昇し、ナスダック総合株価指数は反発した。
米連邦準備理事会(FRB)は19日朝、銀行の自己資本比率を規制する特例措置を延長せず、3月末で終了すると発表。昨年4月の規制緩和で銀行が国債を持ちやすくしていた。ただ、米長期金利の上昇は限られ、株式市場では押し目買いが優勢となった。この日の動きをみる限り懸念は杞憂(きゆう)に終わった。
ゴールドマン・サックスによると、今年の株式市場では政府の給付金を背景に家計部門が3500億ドル(約38兆円)と最大の買い手に浮上する。2番手は企業の自社株買いで3000億ドル、3番手は外国人で2000億ドルだ。家計は持ち株比率でも35%と最大だ。最大の保有主体が最も買い越すという意味で、株式相場の足腰は強い。一方、売り手は年金基金の2500億ドル、投資信託の1000億ドルだ。年間を通して良好な需給環境が続きそうだ。
相場を支えるのは好需給だけではない。FRBの経済見通しでは今後3年間、米国は過熱経済となる。23年時点で失業率は3.5%まで改善。物価上昇率は3年連続で目標とする2%を上回る。FRBは高成長・高インフレを目指し、景気回復を最優先に株安を招く金融引き締めをしないスタンスを取る。「パラダイムシフト」や「レジームチェンジ」といった言葉が市場では飛び交う。
過去に金融引き締めで何度も株高局面を終わらせてきたFRBは「デフレよりインフレの方がまし」との姿勢で、従来の役割を放棄したことが今回の株高の主因だ。行き着く先は「経済成長率とインフレ率のオーバーシュート」(モルガン・スタンレーのチェタン・アーヤ氏)だ。
JPモルガン・チェースのジョン・ノルマンド氏は1970年以降の物価上昇率が異なる局面で、四半期ごとの株式や商品のパフォーマンスを分析。物価上昇率が0~3%の局面では米株価指数が2%超と実物資産の不動産や原油と同程度の上昇率だった。
物価上昇率が3~6%の局面では貴金属が6%の上昇率となり、米株価指数の上昇率は0~3%の局面とほぼ同じだった。さらに、インフレが6%を超える局面では原油が8%の上昇率だった一方、米株価指数の上昇率は低下した。金利上昇や原材料高で企業の利益率が悪化するためだ。
今回の過熱経済では1970年代のような物価上昇率が6%を超える状況は想定しづらい。FRBの見通しからオーバーシュートがあってもせいぜい3%だ。「適度な過熱経済」では金融と実物資産の収益率に大差はなく、引き続き株式選好が強まる。
バンク・オブ・アメリカの3月の機関投資家調査では、回答者の55%が米株式相場について「強気相場の後期」と答えた。「バブル」との回答は15%にとどまった。好需給も支えに、この強気相場の後半戦は予想以上に長引きそうだ。(NQNニューヨーク=張間正義)