半導体供給リスク広がる スマホ・車・パソコン向け品薄
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN04ERU0U1A300C2000000/
保存日: 2021/03/18 8:21

2021/3/17 23:00 (2021/3/18 5:33 更新) [有料会員限定]

サムスンがテキサス州に持つ半導体工場が稼働停止し1カ月が経過した

半導体の供給網リスクがスマートフォンやパソコンなど幅広い分野に及んでいる。米テキサス州で2月に発生した大規模停電を受け、スマホ向け半導体などで世界5%の生産シェアを持つ韓国サムスン電子の現地工場が操業を停止。半導体不足に拍車がかかり電子機器の生産に影響が出始めている。17日にはホンダが減産を表明するなど調達難の長期化は経済回復にも水を差しかねない。

「半導体部品の需給のアンバランスは非常に深刻」。サムスンが17日に開いた定時株主総会。スマホ部門トップの高東真(コ・ドンジン)氏は自社のスマホ生産に支障が出ていることを認めた。

同社はテキサス州オースティンに工場を構えるが、寒波の影響で2月16日から操業停止が続く。同工場は米クアルコムの通信用半導体を受託生産するほか、有機ELパネルやイメージセンサーの駆動用半導体などを手掛ける。スマホの基幹部品を手掛けるクアルコムの供給難は幅広いスマホメーカーに影響を及ぼすほか、有機ELパネルをサムスンから調達する米アップルのスマホ生産にも支障が出る可能性がある。

台湾の調査会社トレンドフォースによると、12インチウエハーを用いる世界の半導体受託生産工場の生産容量(ウエハー処理能力ベース)のうち、サムスンのオースティン工場は約5%を占める。停止の影響で4~6月期の世界のスマホ生産が5%減る見通し。高速通信規格「5G」対応スマホに限れば3割の大幅減となる。サムスンは工場の復旧を急ぐがまだ再稼働のメドはたっていない。

テキサス寒波はスマホ以外にも影を落とす。車載向けなどに強いオランダNXPセミコンダクターズ、独インフィニオンテクノロジーズなどの半導体工場も2月に一斉に操業を停止した。NXPは同州内の2工場を再開したが、約1カ月分の生産が失われたとの声明を発表した。米テスラは部品不足の影響で2月末にカリフォルニア州の工場の生産を一時休止。ホンダも17日、半導体の調達難などがあるとして米国とカナダの5工場の操業を22日から1週間休止することを明らかにした。

主要な半導体生産メーカーがサムスンと台湾積体電路製造(TSMC)など特定の受託生産企業に限られるなか、一つの工場の停止はさらに広範に影響を及ぼしていく。

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スマホに使われる通信や有機ELパネル向けの半導体が不足すれば、「顧客は別の通信半導体メーカーや液晶パネルを使ったスマホの生産を増やして補うことになる」(海外半導体メーカー幹部)。そうなればTSMCなど受託生産各社への発注は一段と混み合う。あおりをうけている業界のひとつがパソコンだ。

「いくら供給しても需要に追いつけない」。台湾パソコン生産大手の宏碁(エイサー)の陳俊聖・最高経営責任者は3日、厳しい表情を浮かべた。「社員は毎日、部品確保に駆けずり回っている。パソコン業界ではこれまでにないことが起きている」。同社は受注に対し、供給がわずか3割にとどまる深刻な状況だ。

同華碩電脳(エイスース)も「パソコン用の半導体と液晶パネルが需要に対して3割も足りない」という。1~3月期の出荷は今年最大の落ち込みとなる見通し。台湾企業はパソコン生産で世界の8割強のシェアがあり、今後のパソコン市場に一段と影響を与える可能性がある。

在宅勤務や遠隔授業向け需要が好調で「大手パソコンメーカーの生産計画は好調だった20年をさらに上回る」(海外半導体メーカー幹部)。スマホでは中国・華為技術(ファーウェイ)の苦境を受けて、小米(シャオミ)やOPPO(オッポ)などライバルの中国勢が活発な調達を継続している。微細化の度合いでかぶる半導体も多く、結果的に製品の枠を超えた取り合いが起きている。

液晶パネルも品薄の危機にある。パネル大手のジャパンディスプレイ(JDI)の担当者は「半導体の値上げをのまないと製品が作れなくなるが、どこまで製品価格に転嫁できるか見通せない」と話す。ディスプレーを動かす半導体が足りておらず「調達は4月が山場になりそうだ」と漏らす。

半導体はシリコンウエハーに微細な回路を描くために様々な加工工程を経る必要がある。一般的に生産開始から出荷まで2~3カ月程度かかることが多く、急な発注への対応は難しい。半導体不足は長引くとの声は多く、米ゼネラル・モーターズ(GM)は2月、減産で21年に最大20億ドル(約2200億円)の利益を失う見通しと発表した。

(龍元秀明、ソウル=細川幸太郎、台北=中村裕)