対中国、崩れた米軍優位 日米2+2立て直しが急務
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH12B5T0S1A310C2000000/
保存日: 2021/03/15 19:08
2021/3/15 18:30 [有料会員限定]
中国をにらみ、バイデン米政権はアジアへの関与を一気に深めている。とりわけ際立っているのが、日本との連携ぶりだ。
ブリンケン国務長官とオースティン国防長官は最初の外遊先として、日本を選んだ。3月16日の日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)では中国への懸念を表明し、同盟の結束をうたう。バイデン大統領も4月、ホワイトハウスへの最初の賓客として、菅義偉首相を招く。
これらを対日重視の表れと喜ぶのは半分正しく、半分間違っている。米国は単純に日本を重視するから、会談を急ぐわけではない。
バイデン政権が日米結束を急ぐのは安全保障上、世界で台湾海峡や日本周辺がいちばん危ないとみているからだ。
そんな焦りがあらわになったのが、この地域を管轄する米インド太平洋軍のデービッドソン司令官による3月9日の議会証言だ。次のような趣旨の警告を発し、主要国に波紋を広げた。
▼インド太平洋の軍事バランスは米国と同盟国にとって一層、不利に傾いた。
▼米軍が効果的な対応策を打つ前に、中国が一方的な現状変更を試みるリスクが高まっている。
▼台湾への脅威は今後、6年以内に明白になるだろう。
このうち最後の発言は2027年までに中国が台湾を侵攻する危険を示唆するものだ。米軍は質では勝るとしても、アジアに配置している通常戦力の物量では、中国軍に圧倒されている。同司令官の発言はそんな危機感の表れだ。
決して誇張ではない。それどころか、上の表中の数字にあるように、状況はさらに悪化する方向だ。中国軍の戦闘機は現在、米軍の5倍だが、25年には約8倍になる。同年に中国軍の空母は米軍の3倍、潜水艦は6倍強、戦闘艦艇も9倍に増える。
米中両軍がアジアで戦ったらどうなるか、米国防総省は近年、様々な図上演習を実施してきた。米軍チームと中国軍チームに分かれ、コンピューター上で「仮想戦争」をする訓練だ。
米メディアによると、状況は極めて深刻だ。台湾海峡をめぐる図上演習ではここ数年、米軍チームがほぼ決まって中国軍チームに惨敗している。しかも18年ごろから、負け方はよりひどくなっているという。米軍幹部や元米高官の話として伝えた。
日本でも安倍前政権下で、複数の図上演習がひそかに行われた。さまざまな日本周辺有事を想定したもので、インド太平洋の米軍と自衛隊を合わせても中国軍に劣勢を強いられかねない結果となり、日本政府内に衝撃が広がった。
もっとも、米軍の総戦力は中国軍をしのぐ。米国は世界全体で空母11隻を抱え、核戦力は中国の比ではない。アジア紛争でこれらを総動員すれば、対中優位は揺らがないと思いがちだ。
中国の船は沖縄県・尖閣諸島周辺への領海侵入を繰り返している=共同
残念ながら、答えは「ノー」だ。いざというときに、米軍が世界の戦力をかき集め、アジアに持ってくるには長い時間を要することが一因だ。トランプ前政権で米国防戦略の策定にあたったエルブリッジ・コルビー元国防副次官補は警告する。
「世界レベルで米軍が中国軍より強いとはいえ、状況は非常に深刻だ。中国は米軍が戦力を(各方面からアジアに)移動させる前に、紛争を決着させることを目指しているからだ。日本の対応も十分ではない。直接、影響を受ける日本は、もっと真剣に現状を受けとめるべきだ」
コルビー氏によれば、米空母11隻には整備中のものも含まれるほか、米本土からアジアに移動するにも数週間かかる。
バイデン大統領や側近らは就任後、さまざまな機密情報に接し、現状に強い危機感を抱いたにちがいない。そこで、最前線の日本はどうするつもりなのかを知るため、日米2プラス2や対面の首脳会談を大慌てで設定した。
では、日本はどうすべきか。まず大切なのは、これは米国ではなく、一義的に日本自身の問題だと認識することだ。そのうえで、2つの緊急課題に答えを出さなければならない。第1に自衛力への投資が十分なのかという点だ。防衛費は国内総生産(GDP)の約1%にとどまる。
米欧同盟の北大西洋条約機構(NATO)では、友好国に囲まれたオランダやベルギーといった国々ですら「2%」への増額を求められている。財政事情が火の車とはいえ、中国の隣にある日本が約1%で足りるとは思えない。
第2にアジアの米軍体制をどう改めるのか、日本から積極的に知恵を出すことが大事だ。それに伴い、自衛隊をどう変革するかも米側と詰める必要がある。
日米2+2に参加するブリンケン米国務長官(左)とオースティン米国防長官=ともにAP・共同
米国防総省内ではかねて「米空母を主力としたアジア前方展開は中国軍の標的になりやすく、時代遅れ」(同省元高官)との指摘がある。中国は地上配備型の中距離ミサイルを2000発近く抱えているとされるが、自衛隊や米インド太平洋軍はゼロだ。この不均衡への対応も待ったなしだ。
米中の確執は軍事だけでなく、ハイテク、人権、政治体制にも及んでおり、対立は長く続くだろう。意図しない衝突を防ぐため、日米が中国と危機管理の体制を整えることも課題だ。
日米2プラス2はこうした作業の始まりになる。軍事バランスが刻々と悪化するなか、許される時間的な猶予は多くない。