住友不動産、インドでも自前主義 単独大型投資の成算は – 日本経済新聞
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC041MT0U3A201C2000000/
保存日: 2023/12/06 8:26
住友不動産が購入したインド・ムンバイの紡績工場跡地
住友不動産はインド・ムンバイにおいて3カ所、計10万平方メートルの用地を取得した。インドの不動産開発は現地パートナーと共同で進めるのが常道だが、同社は徹底的な自前主義という常識外の戦略を取る。インド進出を指揮する片山久寿・専務執行役員に、その成算を聞いた。
「住友不動産は、本当にあのやり方でインドビジネスをしていくのか」。国内大手デベロッパー関係者は驚きを隠さない。10月、住友不はインド・ムンバイで新たに約8万平方メートルの開発用地を467億ルピー(約800億円)で単独取得したと発表。国内外の業界関係者に衝撃をもたらした。
インド財閥ワディア・グループ傘下のボンベイ・ダイイングから用地を取得した。ビルの延べ床面積は合計100万平方メートル超を想定。ホテルや商業施設なども含む超高層複合都市開発プロジェクトで、総額5000億円規模を投じる。2030年代の完成を目指す計画だ。
住友不がインドで大規模な開発用地を取得するのは、これが3件目で合わせて約10万平方メートルとなる。1、2号案件はいずれもムンバイの金融中心地「BKC」の賃貸オフィスビル用地で19年と22年に取得した。それぞれ26年以降、順次完成を目指す。
ムンバイ「BKC」地区の第1号案件
リスク排除の条件巡り、つばぜり合い
一般的に、インドで大規模な用地を取得するリスクは高いとされる。地権者の特定が難しく、取得契約を締結した後に、別の人物や企業が地権者として名乗りを上げて訴訟に発展することも珍しくない。そのため日本勢を含む外資デベロッパーの多くは、インド案件は現地企業をパートナーとするジョイント・ベンチャーなどの形で手掛け、開発完了後は基本的に売却して収益化するというビジネスモデルを描いてきた。その中で「東京と同様に大規模な用地を単独取得し、自ら開発を手掛け長期保有を目指す」(片山氏)という住友不の戦略は異彩を放つ。
住友不動産のインド事業を指揮する片山久寿・専務執行役員=的野弘路撮影
22年秋ごろからの約1年間、住友不とボンベイ・ダイイングは丁々発止のやり取りを繰り広げていた。今回の複合開発用地は、もともと財閥が保有しており権利関係そのものは明確だったが、それでも多くのリスクが残っていたためだ。住友不は開発リスクを1つずつ洗い出して、ボンベイ・ダイイングに条件を提示。用地取得後にトラブルの種が残らないよう徹底的に交渉した。「何十もの課題を克服し、契約・引き渡しに至った」と片山氏は振り返る。
「ファーストペンギン」のDNA
社員が自らインド中を回って、リスクを排除できる開発用地の候補を探し、リスクを排除する。多くの外資系デベロッパーが敬遠するこうした手間のかかる作業を住友不が実施してきた背景にあるのが、「土地は買うものではなくつくるもの」(片山氏)という住友不のDNAだ。
住友不は戦後の1949年設立。三井不動産は日本橋、三菱地所は丸の内といった東京の一等地を歴史的に所有していたが、住友不には基盤となるエリアがなかった。
そうした事情が、他の財閥系と異なるビジネスモデルを生んだ。地道に地権者を説得して開発用地を整備し、そこにビルを建設したら自社で所有し続けて賃貸収入を積み上げる。85年時点で19棟しかなかった住友不の所有ビルは今や約210棟にまで増え、ビル事業は同社営業利益の約7割を稼ぎ出す屋台骨だ。「用地取得の怖さを分かっている我々だからこそ、インドでもリスクを排除したビジネスができる」と片山氏は自信を見せる。
住友不動産の片山氏=的野弘路撮影
インドでは1棟のオフィスビルの中でも所有者が入り組み、1フロアを借り切ることすらままならないことが多い。加えてムンバイではハイグレードのオフィスビルが不足している状況だ。そのため、住友不が一括保有し開発から運営までを行う、最新オフィスビルに対する期待は高い。
インドは2023年に中国を抜いて人口世界一となり、27年には国内総生産(GDP)で日本を追い抜き世界3位となるとの予測もある。オフィス、住宅ともに需要は右肩上がりで、インドを拠点とする調査会社のIMARCによると22年に2568億ドルだったインド不動産市場規模は28年までに約3倍の7806億ドルに成長する見込みだ。
インド政府は不動産取引の環境整備も進めている。一定規模以上の開発は100%の外資出資を自動認可で認めることにしたのに続き、17年には不動産開発と販売に関わる法律(通称「RERA」)を施行し取引の透明化に努めてきた。自前主義をひっさげて乗り込んだ住友不は、こうした変化の波に乗った「ファーストペンギン」といえるだろう。
三井不動産、三菱地所も参戦
成長市場のインドには、三井不動産や三菱地所など他の大手デベロッパーも照準を定めている。
三井不は20年にインド大手デベロッパー、RMZがベンガルールで実施する大規模オフィスビル開発事業に参画。事業シェアの半分を持ち分とする。三井不が米国で大規模オフィス開発事業を手掛けていることから「グローバルスタンダードなプロジェクト管理を期待されている」(同社インド支店・マネージングディレクターの津國雄之氏)という。
三菱地所は23年、シンガポールの不動産大手が組成したファンドがチェンナイで手掛けるビジネスパーク開発事業に参画した。総事業費は約200億ルピー(約350億円)で事業持ち分は50%。インドの環境認証に適合したオフィス2棟を25年ごろまでに完成させる予定だ。「パートナーを通じて商習慣を学んでいく。将来的には自社での開発機会を模索していきたい」(同社海外業務企画部の吉田阿矢氏)。
経済発展と共に大きく変化しているインドの不動産市場で、うまく勝ちパターンを確立できれば得られる果実は大きい。リスクを見極めつついかに事業を確立していくのか、各社の戦略と胆力が試されている。
(日経ビジネス 馬塲貴子)
[日経ビジネス電子版 2023年10月31日の記事を再構成]
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