スゴ腕投資家「時には全力で波乗り」 年初来プラス3割 – 日本経済新聞
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB018H80R00C23A9000000/
保存日: 2023/09/08 8:04

写真はイメージ=PIXTA

日経平均株価は上がったり下がったりと、明確な方向性がつかめない。しかし、不安定な相場環境でも、状況に応じて適切な投資法を見極め、着実に利益を上げるスゴ腕の投資家がいる。そんな「波乗り投資」を得意とする個人投資家の実例を見ていこう。
【連載「波乗り投資で勝つ」記事一覧】
• (1)投資テーマやシナリオに着目 サイン察知して待ち伏せる
• (2)年初来高値からテーマを発掘 常に投資の芽を探す

億万投資家のまつのすけさん(ハンドルネーム)は、個別株のイベント発生時の値動きの特徴や相場全体のアノマリー(経験則)に基づいて動く「イベント投資」が得意だ。特殊な値動きに乗りながら、状況に応じてダイナミックに資産配分を動かして利益を出す。
直近では、その資産配分を動かす手法がうまくいき、年初比でプラス約30%と大きく利益を出した(8月上旬時点)。投資資金のほぼ全てを米国株に振り向けたのだ。
具体的には、昨年9〜12月にかけて米S&P500種株価指数の値動きに連動するETF(上場投資信託)を購入。またAI(人工知能)サービスの「ChatGPT」が公開され、AI関連株が話題となったことを受けて、今年3〜4月に米マイクロソフトや米エヌビディアといった個別株を購入した。「ただ、米国のハイテク株がここまで強いとは正直予想できなかった」と付け加える。

市場の見解よりデータ重視

米国株に資金を集中させる際に参考にしたのは、過去のデータから検証したアノマリーだ。昨年終わり頃から米国の景気後退を懸念する声は根強く、2023年の世界景気について悲観論が広がっていた。だが、まつのすけさんは「大統領選の前年は米国株が上昇しやすい」「米利上げサイクルの終盤は米国株の勝率が高い」というデータを重視した。「世界経済が大崩れしない限りはアノマリーは有効」と考え、行動に移した。
市場の見通しに逆行する投資を手掛けることには、それほど抵抗はなかったという。「世に悪いニュースがあふれている時に株価は上昇を始める。今回はその典型だった」と振り返る。ダウ工業株30種平均は今春に底打ちし、そこから10%以上上昇。再び過去最高値をうかがう展開となった。
「23年いっぱいは米国株が強い」との見方は変わらない。「短期筋の空売り(株式を先に売って買い戻して値下がりで利益を得ること)の残高がたまっており、買い戻し余力は残っている」と話す。
年初からその基本スタンスは変わらないが、日本株の上昇に乗る場面もあった。今年5月に「日経平均株価が3万円を再び突破」と話題になった時期だ。「オプションと先物の清算日が重なる6月の『メジャーSQ』は株価が変動しやすいが、それを経ても強い動きだった。何かが違うと思った」と話す。日経平均先物の売買や、日本の個別株の割合を増やすことでポジションを一時的に増やした。

米国で上がったテーマを買う

有望な日本株を探す際、投資テーマを見つけるアンテナとして活用しているのが米個別株の値動きだ。「なぜか米国株は日本株よりトレンドを先取りして動くことが多い」とまつのすけさんは話す。
例えば、AI関連銘柄。先述のように関連株を保有していたが、5月時点までの短期間でマイクロソフトは約15%、エヌビディアは約35%も株価が上昇し、一部を利確した。そこで購入したのがソフトバンクグループだ。「同社の過去データを見ると、PBRが歴史的な底値圏であったことも大きい」という。購入した5100円付近を底に、株価は約40%上昇した。22年後半から米国の鉄鋼株が上昇したのを見て、日本製鉄などの鉄鋼株のトレンドに乗ることでも成功した。

東芝のTOBに目を付けて資金を集中

直近で最大の利益が出たのは東芝への投資だ。日本産業パートナーズ(JIP)などが同社のTOB(株式公開買い付け)を1株4620円で実施予定と発表されたが、実施や買い付け成立が不確実と見られたのか、株価はTOB価格を下回る約4350円まで下がっていた。
まつのすけさんは「ここまで多くを巻き込んだTOB提案で、『やっぱりやめた』となることはないだろう」と判断。TOBが成立する確実性が高いと見て、全資産の2.3倍程度までレバレッジをかけて投資した。狙い通り、株価はTOB価格まで戻した。
「リスクの取り過ぎで、他の人にはお勧めできない。ただ、普段は負けづらい”保守的”な投資を心掛ける一方で、期待値が高い時は大きくリスクを取ることが重要だと考えている」(まつのすけさん)
「特定の優待株は優待の権利確定日前に株価が上昇しやすい」「割安な大型株のIPO(新規株式公開)の初値は弱く、その後上昇しやすい」といったイベント投資も適宜実践する。相場全体の大きな流れを捉えて上下動に乗りながらも、個別株の小さな動きも見逃さず、いかなる相場環境でもプラスアルファの利益を目指す。
(大松佳代)
[日経マネー2023年10月号の記事を再構成]