年初来高値からテーマを発掘 常に投資の芽を探す – 日本経済新聞
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB057JK0V00C23A9000000/
保存日: 2023/09/08 8:03

写真はイメージ=PIXTA

春頃から騰勢を強めていた日経平均株価は3万円を突破して小休止。足元では上昇傾向も見せているものの明確なトレンドがなく、この先が予測しづらい状況だ。こんな時こそ小さな変化を見逃さず、その流れに上手く乗る力が試される。本連載では相場の変動を察知するのが得意な個人投資家の手法を紹介。波乱相場でも勝ち筋を見つけるコツを探っていく。
【連載「波乗り投資で勝つ」記事一覧】
• (1)投資テーマやシナリオに着目 サイン察知して待ち伏せる

個人投資家の夕凪さん(ハンドルネーム)は、特定の事象に対する株の値動きを利用する「イベント投資」のパイオニアだ。「優待株は権利確定日前に上昇しやすい」といった売り・買いのイベントで、集中的に稼ぐ技を熟知している。それらの中から、時期に応じて適切なものを活用する。
最近では、日経平均株価のアノマリー(経験則)に乗った投資法で成功した。アノマリーとは、過去の相場のデータから導き出された値動きの特徴。はっきりとした理由はないが「なぜかそうなる」経験則で、「秋口から年末にかけて日経平均が上昇しやすい」といったものが有名だ。
夕凪さん曰く、「土日を含めた3連休以上の休みでは、日足チャートで見た日経平均が25日移動平均線を抜けて『上放れ』または『下放れ』の状態で連休を迎えると、連休明けの日経平均先物の値動きに特徴が出る」。2022年末は、まさに当てはまる相場だった。
「4日以上の大型連休明けでは、『上放れなら上昇』『下放れなら下落』と、連休前の状態をそのまま継続しやすい」というデータから、年末の下落が年明けも継続すると予想。そこでの売りで利益を上げた。一方で3連休であれば、上放れ・下放れどちらでも、連休明けは上昇しやすいという。

「高値更新」にチャンスあり

その後、日経平均の上昇トレンドに乗った買いでも利益が出た。「7月頭には上場投資信(ETF)の分配金捻出に伴う換金売りなどの影響か、日経平均が停滞。日本株の売買は減っている」と夕凪さん。個別株のトレンドを見極め、それに乗る投資は継続している。
今年の1〜2月は、鉄鋼株への投資がうまくいった。鉄鋼株が動意づいたのを確認し、新社長の下で業績が回復した日本製鉄や東証へ重複上場し注目度が増した中部鋼鈑などに投資した。

個別株のトレンドを見つける糸口として毎日ウオッチしているのが、年初来高値を更新した銘柄だ。先述の”鉄鋼相場”のように特定のテーマに関連した相場は、相場全体が波乱の状況下でも有望な投資先が見つかる可能性がある。
「年初来高値銘柄から投資テーマを考え、その中で上昇が続いているものを追いかける」と夕凪さん。「23年前半もそうして様々な年初来高値銘柄からテーマを見つけて投資した中で、残ったのが鉄鋼株だった」と説明する。また購入した銘柄で株価が跳ねなかったものに関しては、潔く手放す。数パーセントのマイナスでも損切りすることが多い。
この”年初来高値”の投資法は常に手掛けている。高値を更新した銘柄を確認しておくことには、別のメリットもあるという。相場全体の強弱を見極めることができるのだ。「1日の年初来高値銘柄が300を超え、確認しきれないほどであれば『かなり強い』と判断する」。そういった時は、購入する1銘柄当たりのロット(株数)を増やす対応を取る。
相場全体に影響を受けづらい投資法として、アクティビスト(物言う株主)が買った銘柄に付いていく”コバンザメ投資”も行っている。今年1月は、米エリオット・マネジメントが大日本印刷の株を買ったことに注目し、少しずつ買い増し。同社はその後、PBR(株価純資産倍率)1倍超を目指す意向や自社株買いを発表し、株価は急騰した。

AI関連は長い目で投資

機動的に投資テーマを切り替えているため、銘柄の保有期間は長くても3カ月程度だ。ただ今は「珍しく」(夕凪さん)長期投資を手掛ける。米半導体メーカーのエヌビディアだ。
「1990年代のIT(情報技術)バブルでシスコシステムズなどの大相場に乗れなかった苦い経験から、この銘柄だけは数年は手放さない予定だ」と夕凪さん。AI(人工知能)は人々の生活を変える長期的なテーマ。「かつての悔しい忘れ物を、約20年越しに取り戻したい」と話す。
(大松佳代)
[日経マネー2023年10月号の記事を再構成]