冬の時代を迎えるインデックス投資(澤上篤人)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB193EV0Z10C23A1000000/
保存日: 2023/01/23 7:55
今更ながらだが、中小企業や町工場は日本経済を力強く下支えしている。雇用でも大企業を圧倒している。ともすると、知名度の高い大企業が日本経済を代表していると思われがちだが、それも中小企業による分厚い産業基盤があってのことだ。
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例えば大手電力会社の傘下には数多くの施工業者があり、送電や配電の工事やメンテナンスを請け負っている。小さな施工業者ともなると、従業員が10人ほどだ。そうした会社が末端の現場での作業を担ってくれているから、各家庭で電気を快適に利用できるのだ。
ネジから基幹部品まで町工場の生産と供給があってこそ、大企業は組み立て工程に特化できるのだ。実際、最終製品のかなりの部分は、中小企業や町工場で製造された部品に頼っている。文字通り日本経済の生命線だが、この30年ほどで驚くほどに弱体化してしまった。
とりわけ中小企業の事業承継問題は深刻である。中小企業や町工場の創業社長が高齢を迎え、その事業や技術をどうやって次世代に承継させていくか。この問題は以前から指摘されていたが、遅々として解消に向かっていない。
中堅企業のM&A(合併・買収)が話題となるが、それは事業規模が大きく、M&A仲介会社などが斡旋しても商売になる場合に限られている。大多数の中小企業や町工場は、M&A業者の関心外に放置されたままでいる。そして、後継者難を抱える中小企業や町工場は恐ろしいスピードで廃業している。最近は多少改善されつつあるとはいえ、中小企業への融資の際に、個人保証が求められるという日本的慣習もネックだ。
ゼロ金利が経営を弱体化
もうひとつ大きな問題は金融緩和による弊害だ。金融緩和は中小企業のみならず、日本の企業全般をどんどん弱体化させている。コロナ禍だったからだけではない。日本では1990年代に入って土地や株式投機のバブルがはじけてから、銀行や企業を潰さないための政策をずっと取り続けてきた。超低金利どころかゼロ金利まで導入、資金をいくらでも借りることができる金融緩和政策を次から次へと続けてきた。政府や自治体の補助金や政府系金融機関などの「官業融資」も、これでもかとばかり実施してきた。
その流れに乗って、最近は大学ベンチャーをはじめ若い人たちによる起業が一大ブームだ。金利はゼロ同然で資金も簡単に調達できるとなると、誰でも気楽に事業を起こせる。さらに最近は資本金が1円でも株式会社を設立できる。株式市場への上場も、ずいぶん楽になった。
金利上昇局面では試練
とはいえ、世界的なインフレ圧力が続いており、金利も上昇傾向にある。現に、米国の政策金利は4.25%にまで引き上げられた。
長年デフレ傾向にあった日本の物価も、ようやく上昇に転じてきた。それにつれて、日本の金利も上がっていくのは時間の問題である。事実、日銀は昨年末に10年物国債の上限を0.5%に引き上げた。
金利が上昇してくると、多くの企業経営には逆風となる。なにしろ、ここまでゼロ同然の金利コストで、資金はいくらでも借りられる事業環境に甘え切ってきた。言ってみれば、日本企業全般に「ゾンビ化」が進んできたのだ。
その結果、日本企業の生産性が低く、日本経済の活力が失われているといった事態を招いている。そもそも、金利は経済の原動力で、経済活動の起爆剤でもある。その金利をゼロにして経済が動くわけがない。せいぜいゾンビ企業を大量生産するだけだ。ところが、今後は世界的な金利上昇で状況は一変する。ゼロ金利に甘えてきた企業は次々と淘汰され、それを横目に自助自立の精神と地力にあふれた企業が急浮上してくる。まさに、アクティブ運用の出番だ。
逆に、インデックス運用は冬の時代を迎える。この40年間、長期金利が低下し続け、株価全体が上昇トレンドの流れに乗り、インデックス運用は大きな地歩を築いた。個別企業のリサーチは不要だし、運用の実務はコンピューターにやらせておけばいい。当然、運用コストは驚くほど低い。これは良いということで、あっという間に年金はじめ、世界の機関投資家の株式運用の主役となった。
そんなインデックス運用だが、中身は玉石混交だ。金利上昇局面ではゼロ金利に甘えてきた企業の多くが、株価の下落に伴って淘汰されていくが、マーケットから退出する寸前まではインデックスの足を引っ張る。それがインデックス運用の成績悪化につながる。われわれのアクティブ運用からは大きく引き離されよう。
澤上篤人(さわかみ・あつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
[日経マネー2023年3月号の記事を再構成]