世界の小売り「レジ待ちなし」競争 無人決済が実用期に
作成者:
ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC163JL0W2A111C2000000/
保存日: 2022/11/25 8:03
米アイファイ(AiFi)のシステムは、客が店に入る時にスマホで認証すれば、後は商品を手に取って店を出て行くだけで自動で決済する=同社提供
世界の大手小売りが「レジ待ちなし」を実現する非接触セルフ決済の導入を進めている。客が商品を手に取るだけで自動で代金を計算したり、自分のスマホで商品のバーコードを読み取って決済したりし、レジの行列に並ぶ必要がない。こうした実用期に入りつつあるレジ店員不要の無人決済技術について、システムを開発するスタートアップや小売りのメリットなどをまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。
非接触セルフ決済とは何か
非接触セルフ決済技術は買い物客と店員のやりとりを最小限に抑え、レジ待ちの手間を解消し、非接触で素早い決済を可能にする。
最も関心を集めているのは、来店客の行動を追跡し、客が商品を取ってそのまま「立ち去る」ことができる映像解析技術(コンピュータービジョン)システムだ。こうしたシステムでは商品棚にセンサーも搭載されていることが多い。また、商品の値段を自分でスキャンするスマホアプリや、買い物用カートで自動決済できるスマートカートなどのシステムにも、小売業者は注目している。
こうしたテクノロジーは今のところ、主にスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで活用されている。
特徴と機能
非接触セルフ決済は大手小売りに以下の様な機能やツールを提供する。
・柔軟な決済手段
・スマートで最適化された在庫管理
・双方向型でシームレスな買い物体験
・買い物客の行動をリアルタイムで追跡
・店舗運営を強化
メリット
非接触セルフ決済は大手小売りに以下の様なメリットをもたらす。
・店舗の決済オプションの改善
・無人決済による省人化
・取引の増加や客単価の上昇
・待ち時間の減少による顧客満足度の向上
購入判断を下すのはだれか
非接触セルフ決済技術の選定を主に担うのは以下の様な部門や役職者だ。
・最高技術責任者(CTO)
・イノベーション(技術革新)部門のトップ
・サプライチェーン(供給網)部門の責任者
・小売事業部門のトップ
・IT(情報技術)部門のトップ
主な導入企業の動向
各社の非接触セルフ決済への関心はここ2~3年で高まっている。このテクノロジーを提供する企業は大手小売りを顧客として獲得している。
非接触セルフ決済システム企業と主な導入企業
非接触セルフ決済企業
小売業界の主な導入企業
米フューチャープルーフ・リテール
(FutureProof Retail)
米フェアウエーマーケット、米ハイビー、米ビッグY、米マッキーバーズ・プライスチョッパー、豪ウォルキ・ブッチャリー
米グラバンゴ(Grabango)
米ジャイアントイーグル(ゲットゴー含む)、英BP、米サークルK
英ミシペイ(Mishipay)
フライングタイガーコペンハーゲン(デンマーク)、エロスキ(スペイン)、米パラディーズ・ラガルデール、無印良品
米アイファイ(AiFi)
英モリソンズ、仏カルフール
スーパースマート
(Supersmart、イスラエル)
オーシャーアド(Osher Ad、イスラエル)、独メトロ・キャッシュ・アンド・キャリー
米フューチャープルーフ・リテール(FutureProof Retail)のシステムは客が商品を手に取った際、自分のスマホでバーコードを読み取って代金を計算し、決済する=同社提供
投資トレンド
2018年以降の非接触セルフ決済スタートアップによる資金調達額は計7億3500万ドル(約1000億円)だった。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響が落ち着き、21年の調達額は過去最高を記録した。レジなし店舗システムを手掛ける米スタンダード(Standard)は21年に1億5000万ドルを調達し、ユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)の地位に達した。米マシュジン(Mashgin)は22年半ばに6300万ドルを調達し、ユニコーンの仲間入りを果たした。
22年のこの分野の企業による調達額はすでに計1億7500万ドルに達している。スマートカートを手掛けるイスラエルのショピック(Shopic)や無人店舗システムのアイファイ(AiFi)など革新的な企業が相次いで資金を調達している。
小売り向け非接触セルフ決済企業の調達額の推移 (22年8月9日時点の新株発行を伴う資金調達額と調達件数、公表ベース)
最近の調達案件
非接触セルフ決済スタートアップの最近の調達案件
企業名/拠点
調達額(シリーズ、年月日)
ショピック/イスラエル
3500万ドル(B、2022/8/9)
マシュジン/米
6300万ドル(B、22/5/9)
クラウドピック(雲拿智能科技、Cloudpick)/中国
不明(A-4、22/3/14)
アイファイ/米
6500万ドル(B、22/3/11)
ノミトリ(Nomitri)/ドイツ
200万ドル(シードVC、22/3/2)
スーパースマート/イスラエル
1000万ドル(A、22/1/16)
ジッピン(Zippin)/米
3000万ドル(B、21/9/1)
ショピック/イスラエル
1000万ドル(A-2、21/7/13)
トリゴ(Trigo)/イスラエル
1000万ドル(B-2、21/6/16)
グラバンゴ/米
3900万ドル(B、21/6/7)
米グラバンゴ(Grabango)のシステムは客が店内で商品を手に取っていき、最後に自分のスマホの専用アプリに表示されたQRコードを読み取り機にかざすと自動決済される=同社提供
非接触セルフ決済システム各社の位置
無人レジの分野では数社がリーダーとして台頭している。
非接触セルフ決済システム各社の位置
企業名(調達総額)
無人レジ分野での位置
スタンダード(2億3600万ドル)
ハイフライヤー(革新的)
トリゴ(1億500万ドル)
リーダー
アイファイ(9600万ドル)
リーダー
グラバンゴ(7100万ドル)
ハイフライヤー
マシュジン(6300万ドル)
リーダー
ショピック(5600万ドル)
チャレンジャー
小売企業へのアドバイス
非接触セルフ決済は大手小売りが優先すべき分野といえる。
・システムを選ぶ際は、導入予定の店舗の規模やシステムの内容、追加機能などの要素を検討すべきだ。例えば、面積が狭く、来店客と商品を簡単に追跡できる場合には、映像解析技術を搭載したプラットフォームの導入を検討してもよい。お得意様プログラムを組み込めるプラットフォームもある。
・スマートカートやモバイルツールなど既存店舗に簡単に組み込めるシステムは消費者になじみがあるため、導入が進むだろう。