アリババ、「EC×リアル店舗」戦略支える5つの柱(写真=共同)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC07AX20X01C22A0000000/
保存日: 2022/10/14 7:56
アリババはネットと融合した小売りの新しい形を模索している=共同
中国電子商取引(EC)最大手アリババ集団は業態を広げ、世界規模での成長を狙っている。海外ECサイトや物流関連企業へ出資しているほか、ハイテク技術を駆使した実店舗なども展開している。データ分析なども駆使し、ECとリアル店舗を融合した新しい小売り「ニューリテール」の実現を目指す。同社が小売り分野で投資した企業を分析し、5つの柱にまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。
アリババ集団の2021年度の流通取引総額(GMV)は1兆2000億ドルを突破した。アクティブユーザーは年間10億人を超えるとしている。
同社は創業から二十数年で、クラウドコンピューティングやヘルスケア、娯楽など様々な業界に進出してきた。
だが、同社の基盤はあくまで小売りだ。17年には新戦略「ニューリテール(新小売り)」を発表した。アリババのECの最先端のデータと分析を実店舗網に適用し、シームレスなオムニチャネル(店舗とECの統合)体験の創出を目指している。
アリババはここ2~3年で、「新小売り」を大きく前進させている。20年10月には中国のスーパー大手、サンアート・リテールの過半数株を取得した。サンアートの484店舗はすぐにアリババのネットスーパーと配送網に統合された。
新たな成長源を見いだすため、ここ2~3年の戦略提携の多くは海外進出を対象にしている。例えば、欧州、中東、北アフリカ、中南米への越境コマースを可能にするため、サウジアラビアの国営航空会社サウディア傘下のサウディア・カーゴや、米ニューヨークに拠点を置く貨物航空のアトラス・エアー・ワールドワイド・ホールディングスと提携した。
さらに、アリババの影響力(他の中国テック大手の影響力も)が極めて大きくなっているため、中国政府は独占禁止法に違反した疑いで規制措置を講じている。このため、アリババはいくつかのビジネス関係を解消し始めている。
今回はCBインサイツのデータを活用し、アリババの最近の買収、出資、提携から5つの重要戦略をまとめた。この5つの分野でのアリババとのビジネス関係に基づき、企業を分類した。
・越境コマース
・EC
・高速物流
・オムニチャネルリテール
・オンライン食料品販売
アリババの小売り戦略図 (アリババが小売り分野で2020年以降に買収、出資、提携した企業を分類した。アリババ集団のほか、アリババ創業者基金、アリババのECサイト「天猫=Tモール」による出資や買収、提携も含む。なおアリババの活動を網羅してはいない)
越境コマース
アリババは中国国外の買い物客と取引する一方、海外ブランドと中国の顧客をつなぐため、物流子会社の菜鳥(ツァイニャオ)を通じて数社と提携している。新たな成長が見込めるまだあまり成熟していない市場を重視している。
中南米(アトラスエアー・ワールドワイド・ホールディングス)、日本(SGHグローバル・ジャパン)、欧州、中東、北アフリカ(サウディア・カーゴ)への越境物流・配送を可能にするため、各社と提携している。
さらに、中国の中小企業による海外顧客との取引を支援するため、雑貨卸売りセンターを運営する浙江中国小商品城集団(Zhejiang China Commodities Group)などとも提携している。
EC
アリババはECプラットフォームへの投資では、成長市場での事業拡大と主要製品分野の拡充に重点を置いている。
例えば、ここ2年でトルコのファッションECトレンディオール(Trendyol)や、シンガポールのEC大手ラザダ(Lazada)への出資比率を高めた。ラザダはシンガポールで成長が見込めるうえ、競争の激しい東南アジアにも進出している。アリババはラザダが欧州などにも進出することを望んでいる。
アリババの投資からは、成長分野を強化する方針もうかがえる。20年11月の英高級ブランドECファーフェッチ(Farfetch)への投資は、アジアでの高級ブランドとその買い物客の重要性を示している。この契約にはファーフェッチへの3億ドルの出資だけでなく、新たに設立した合弁事業「ファーフェッチ・チャイナ」への2億5000万ドルの出資も含まれている。いずれもスイスの高級ブランド大手リシュモンとの提携だ。
高速物流
アリババはここ数年、中国の大手高速物流各社の持ち分を増やしている。こうした企業は迅速な物流・配達サービスを提供し、中国でのECの利用拡大に伴い急成長を遂げている。
アリババは20年8月、中国の物流会社、心怡科技(ALOG)を完全子会社化した。心怡科技はアリババのネットスーパー「天猫超市(Tmall Mart)」の倉庫管理サービスで中心的な役割を担っている。
オムニチャネルリテール
アリババはリアル店舗戦略と「新小売り」におけるオンライン・ツー・オフライン(O2O)戦略の根幹として、食料品に引き続き力を入れている。
16年以降はハイテクスーパー「盒馬鮮生(Freshippo)」を運営し、電子棚札や顔認証、ロボットなどのテクノロジーを駆使して店舗と迅速な配達で買い物を効率化している。盒馬鮮生の店舗数は今や300店近くに及んでいる。
アリババはここ数年、「新小売り」の機能拡充を目標に掲げ、実店舗のスーパーを増やしている。この分野での最大の動きは、20年10月にサンアートを36億ドルで買収したことだ。これにより、アリババの実店舗網に500店近くが加わった。中国のT11生鮮超市(T11 Food Market)のラウンド(調達額1億ドル)も主導した。
オンライン食料品販売
アリババはオンライン食料品販売を手掛けることで、「新小売り」で実店舗とECをつなぐ手段をさらに増やしている。新型コロナウイルス禍に伴う中国でのオンライン食料品販売の利用拡大にも乗じている。
アリババの投資は生鮮食品のバリューチェーン全般に及ぶ。例えば、21年2月には生鮮食品のサプライチェーン(供給網)の一端を担う菜划算(Caihuasuan)の少数株を取得した。
食料品の共同購入EC「十薈団(NICE TUAN)」にも4回出資した。十薈団はその後廃業したが、アリババが同社に注目したのは、急成長しつつある中国の中小都市(さらにはインドや中南米など)で利用が広がっている共同購入など新たなオンラインモデルへの同社の関心を示している。
ソーシャルコマース(商品を購入できる機能を持つソーシャルメディア)との提携は、アリババのネットスーパーの取り組みで最も大きな成果を上げたといえる。アリババのネット出前サービス「餓了麼(ウーラマ、Ele.me)」は22年8月、中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国国内版「抖音(ドゥイン)」と連携した。ドゥインのユーザーはドゥインのプラットフォーム上で、ウーラマを通じて生鮮食品や料理を直接注文できるようになった。